第8話 シンクロ(2)
次の日、梨里香と紫苑はお互いの祖父母の家から少し歩いたところにある河原の、大きな岩で待ち合わせをしていた。
そう。昨日、ともに不思議な体験をしたあの場所である。
ふたりとも明るく気さくな性格なので、すぐ友だちになれた。
それには同時に同じ体験をしたということもあるかもしれないが。
とにかく、その共通の話題について今後の相談をするために、今日も同じ場所で待ち合わせをしたのだ。
時間より先に着いていたのは梨里香であった。
いつもの岩に腰かけて涼風に身を任せて寛いでいる。
その時。
「おまたせ!」
元気よく声をかけられ、振り返るとそこには爽やかに笑む紫苑の姿があった。
「こんにちは」
梨里香も笑顔で応える。
が、このときふたりには新たな疑問が生じた。
「えっと……」
梨里香が少し言いにくそうにする。
昨日、あんなに仲良く、数時間ずっと話していたのに。
お互いなんの違和感もなく過ごしていたけれど、不意に気づいたのだ。
「名前!」
ふたりは同時に発した。
そう。お互いの名前を聞いていなかったのである。
名前も知らないでいたのに、こんなに意気投合できるものかと感心してしまうぐらいに、いや、名前を聞くことすら忘れてしまうぐらいに話は尽きなかったということだろう。
「じゃあ、俺から。はじめまして」
「え、そこから?」
笑い出す梨里香に紫苑は言う。
「そこはキチンとしなきゃだろ」
案外真面目なところがあるんだなと感心しながら、「そうだね」と返す梨里香。
「俺は紫苑。秋の花の名前でもあるんだよ」
「紫苑くん。よろしくね。私は梨里香。梨里香の「梨」は春の花でもあるのよ」
「へえ、梨里香ちゃんか。よろしく。お互い花に関係がある名前なんだな」
「そうね。気が合うね!」
「それ、気が合うのとはちょっと違うと思うけど?」
「むっかり」
そう言って笑い合うふたり。
和やかに自己紹介も終わり、いよいよ今日の本題に入るわけだが。
話を切り出したのは紫苑の方だった。
「じゃあ、昨日の続きといきますか」
ふたりは昨日の話のおさらいをしつつ、その不思議な現象について、お互いの考察を述べ合った。
が、梨里香も紫苑も空想好き、ファンタジー好きということもあり、想像が想像を呼びどんどん話が大きくなってゆく。
それはそれでたいそう盛り上がったが、たまには軌道修正も必要だと真面目な話に戻そうとするも、やはり。
現実離れした出来事は、ふたりの好奇心をかき立てる。
それで、とうとうふたりが行き着いた結論は。
もう一度ふたりで同時に昨日と同じことをして、同じ体験ができるかどうか、実験をしてみようということだった。
そこでふたりは話を整理してみた。
梨里香の場合は、最初にその体験をしたのが夏休みの初日。祖父母の家に行くバス停で、お気に入りのファンタジー小説『Meet You Again』を読んでいたときのことだ。
紫苑の方も最初にその体験をしたのは、夏休みの初日。祖父母の家に行くバス停で、お気に入りの曲『Meet You Again』を聞いていたときのことだ。
そしてその体験をしたバス停は、ふたりとも同じバス停であった。
しかも同じ時刻にそこにいたということが解った。
ということは、あの日、あの時、あのバス停で、お互いにまだ知り合う前に同じ体験をしていたということになる。そこになにか意味はあるのだろうか。
それから梨里香はこの『Meet You Again』というファンタジー小説を読んでいると、雷が発生し、不思議な世界へと意識が行くということ。
紫苑の方も、『Meet You Again』という音楽を聴いているときに、雷とともに不思議な世界への扉が開かれる、ということだ。
そのふたりがこの場所で、偶然にも同じ『Meet You Again』というタイトルのお気に入りを取り出したことで、同じ空間にふたりが同時に行くことになったということ。
偶然なのだろうか。
それを確かめるべく、梨里香と紫苑は、同時に昨日と同じことをしてみようということで、話がまとまった。
お読み下さりありがとうございました。
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