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Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第1章  青天の霹靂
16/88

第6話   もうひとつのはじまり(1)

 稲妻がくうを切る。


 辺り一面バケツをひっくり返したような豪雨の中、紫苑しおんは駅前でバスを待っていた。

 地元の高校に通う紫苑しおんは優しく責任感の強い16歳。今日から夏休みに入り、久しぶりに田舎の祖父母宅を訪れようと、昼過ぎに家を出た。

 あいにくの雨模様だったが、祖父母の家に着くまでは雨は降らないだろうと、紫苑はなんの根拠もない自信を以て家を出たのだが。


 夏休みという開放感からか、祖父母の家には夕飯の時間までに着けばいいという思いからか、駅前の楽器店なんかをのぞいたり、小腹がすいたとちょっと寄り道をしたりして、結局駅前のバス停に着いたのは夕方だった。


 随分遅くなってしまったが、夏ということもあり19時頃までは明るいし、まだ夕食には間に合う。

 田舎に向かう最終バスは、19時と早い時間だ。しかしそれまではまだ2時間ほどあるし、この時間帯だと30分に1本の間隔でバスが出ている。


 バス停に着いた紫苑しおんは左腕にはめた時計に目をやり、次に時刻表を見つめた。


 ふうとため息をついた後、今発車したばかりのバスに乗りたかったと、寄り道をしたことを少しばかり悔やんだ。次のバスの時間までまだ30分もあるし、ここに座って何をして時間をつぶすかを考える。


 スマホの無料通話アプリで誰かと会話をするか、音楽でも聴くか。


 紫苑しおんは後者を選んだ。


 最近聴きはじめたお気に入りのバンドの楽曲を、紫苑しおんは時間があればずっと聴いている。

 お気に入りの歌詞・フレーズがあり、自分でも口ずさんだりするほどだ。


 その中でも紫苑は特に好きな曲があった。

 スマホに取り入れているその楽曲を指を滑らせ再生する。


『Meet You Again』


「再会する」


 音楽が始まる前に、紫苑はそう呟いた。


 彼はこのタイトルに妙に惹かれていた。


 最近聴きはじめたばかりだが、このタイトルの意味が気になってしょうがない。

 ゆっくりと進む不思議な歌だが、いつの間にか想像力がかき立てられてゆく。

 紫苑は、自分がその歌の主人公になった気持ちで、その空想の世界に引き込まれていった。



* * *


♪♪♪


時間とき狭間はざま駆け抜け

夢とうつつ追いかけ

幻か現実か

その目に映す真実


逢うべくして出逢った

信じる愛つらぬき

運命か宿命さだめ

こころ映せ想いを


♪♪♪


* * *



 そこまで聴いたところで、紫苑はいつの間にか降りだした雨に気づく。

 バスを待ちはじめて既に小一時間は経っているだろうか。


「あれ? バス、遅れてるのかな」


 30分に1本のバスだが、バス停には来る気配もない。

 ここが始発のはずなので、遅れているとは考えにくいが。


 稲妻がくうを切り、稲光いなびかりが辺りを照らす。

 突然の轟音に驚く紫苑。

 こんな天候のせいか、暮方のバス停で待つ姿は彼ひとり。


 自宅を出たときには曇り空ではあったが、天気予報では雨が降るとは伝えてはいなかったし、楽観的な紫苑は、傘を持たずに家を出た。しかしあいにく雨が降り出したのだ。


「はぁ。ついてないなぁ」


 思わず言葉がこぼれる。


 そこへわずかなヘッドライトの人工的な光とともに、待ちかねていたバスが近づいてくるのが見えた。紫苑は防水加工が施されたリュックを肩にかけ、バスに乗るために立ち上がった。

 しかしこれが全ての始まりだと、今の彼は知る由もない……。

 


お読み下さりありがとうございました。


登場人物紹介欄を更新しました。

次話「第6話 もうひとつのはじまり(2)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第6話   もうひとつのはじまり(1)まで読みました。 世界が広がってきていますね。 これからいくつもの世界が繋がっていくのが楽しみです。(^ ^)
[一言] 新しい流れをもう少し見守っていきます。
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