第5話 もうひとつの世界(2)
【マスナルヨシ地方】ハサギール帝国
妖雲が立ちこめる夕べ。
帝国の上空には禍々しい気配が漂う。
騒々しく皇帝の声が響く。
なにかよからぬことを企てる者がいるのか。
それとも……。
――皇帝の間――
「まだか。まだ見つからぬか」
「はい陛下。どこにもいる気配がありません」
「やはりそうか。ここにはおらぬということだな」
片方の口角を少し上げるハサギール帝国皇帝、アデルート。
「して、ピュリアールの様子はどうだ」
アデルード皇帝は報告に来た捜索隊長に問う。
「やつらもまだ見つけてはいないようです」
「ではまだ間に合うということか」
「はい」
隊長の力強い返答にほくそ笑むハサギール帝国皇帝。
満足した面持ちで隊長に告げた。
「下がってよし」
アデルート皇帝の言葉で捜索隊長はキリッと敬礼をし、「失礼致します」と皇帝の間を去って行った。
ハサギール帝国は、元は小さな王国であった。
寒い地方ではあるが、当時のハサギール王国は他国との交流も盛んで、小さいながらも繁栄していた国であった。
南に位置するピュリアール王国とは特に親交が厚く、互いに助け合いながら、ともに発展していった。
北部に位置するハサギール王国は、温暖なピュリアール王国で栽培される野菜や果物、海で捕れる魚介類、貿易で仕入れた品物を手に入れる代わりに、森に茂っている木を建築のための材木として提供したり山で採掘した光る石を輸出したりしていた。
だがある時を境に、当時王だったアデルートに野心が芽生えた。
それが元で、周りの国に攻め入り、勝利を収め、次々に支配下に置いていった。
その後だんだんと勢力を拡大し、現在の帝国を築き上げたのである。
そんなハサギール帝国であったが、ピュリアール王国だけには手出しはしなかったのだが。
皇帝の間に独りになったハサギール帝国のアデルート皇帝は、目線を上げ、力強く遠くの一点を見つめ呟いた。
「やつらに探させはしない。やつらより先に見つけて我がものにするのだ」
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