第5話 もうひとつの世界(1)
【マスナルヨシ地方】ピュリアール王国
澄み渡る空が紺碧を映し出す、雲ひとつない朝。
清々しい風が王国の草原を吹き抜ける。
ここピュリアール王国は、マスナルヨシ地方に古くからある王国で、南は海に面しており貿易が盛んである。また、他国との境である北側には山や森があり、緑に恵まれた温暖な地域である。
王の温厚な性格からか人々が生き生きと暮らす、明るく平和な国であるが、先代王の時代に、ある困難が国を襲う。しかしある者たちの活躍により、また平和を取り戻した。
それからは平穏な時間が過ぎていったのだが、近頃、近隣で不穏な動きが報告されていた。
――王の間――
「まだか。まだ見つからぬのか」
「はい陛下。捜索隊総勢をあげて王国内をくまなく探しましたが、どこにもいる気配がございません」
「どこかに潜んでいるとは考えられぬか」
「公園や民家なども探しましたが、有力な情報は得られませんでした」
「やはりそうか。ここにはまだ来ておらぬということなのだな」
落胆した様子のピュリアール王国の王、ロサラル。
「引き続き、なにか変わった様子がないか注意しておいてくれ」
「承知致しました」
「下がってよし」
ロサラル王の言葉で報告に来た捜索隊の隊長は、申し訳なさそうな表情を浮かべながらもキリッと敬礼をし、「失礼致します」と王の間を去って行った。
独りになったロサラル王は、ピュリアール王国に代々伝わる王国秘伝の大きく分厚い書物を読み返した。
そこにはこの国の歴史や成り立ちが記されている。
そして繰り返される試練は続くと。
その試練は身内の裏切りにより生まれ、汚れなきこころを持つ者の力により乗り越えられると。
さらにその書物の最後には、困難が訪れたとき、どのようにすれば良いのかという指南までが記載されているため、門外不出である。基本、王族しか閲覧を許されていない。しかし王に特別に許された者はこの限りではない。
従って、この分厚い歴史書は、国にとって重要な書物である。書物には今までに起こったことが、その時代の王の手によって記されている。
幾度となく訪れたこの国の困難。しかしそれを乗り越える手立てがある。
そこに希望を以て、これから訪れるであろう困難に打ち勝つべく、こころを強く保つ必要があることもロサラル王は知っていた。
まだ不確かな情報ではあるが、最近のよからぬ噂はロサラル王の耳にも入っている。
それがこの書物に記されている試練に繋がることとなるのかは定かではないが、ロサラル王は一抹の不安を抱いていた。
王の杞憂であればよいのだが、もしもの時に備えておくべきだと王は考えていた。
もしもそれが杞憂ではなく現実のこととなる場合には、必ず助けになる者が現れるであろう。
その聖なる者、そして勇気ある者達の訪れが近いことを、ロサラル王は感じていた。
ピュリアール王国のロサラル王は、その書物『再来と希望の書』から目線を上げ、力強く遠くの一点を見つめ呟いた。
「必ず、必ず見つけ出す。我らの希望の光を。未来へと導く者たちを」
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