第4話 その後(3)
「探したんだ。本当に」
そう言われて梨里香は聞いてみた。
「どうして?」
だけど相手の顔は見えない。
だが目の前にいるのはきっといつもの少年だろう。
梨里香は彼の話し方で直感的にそう思った。
なぜなら靄がかかってハッキリとは解らないからだ。
彼の顔だけではない。
ここがどこなのかも解らない。
梨里香には、昼間の河原とはまた違った場所に思える。
辺り一面、濃い霧に覆われているように空虚な空間だ。
「ずっとずっと」
少年の言葉を聞きながら、梨里香は考えた。
彼の言う『ずっと』とはどのぐらいなのだろうか、彼の感じる時間と梨里香の思う時間は同じなのだろうかと。
それに。
「なぜ?」
少年がなぜ梨里香を探しているのかが解らない。
梨里香の問いに、少年はフッと笑みを零し言う。
「知ってるだろう?」
いや、知らない。
そう心で答えて、梨里香は問うた。
「あなたの名前は?」
聞きたいことはたくさんある。
「それも知ってるはずだ」
「知らないわ」
これじゃあ、昼間と同じ堂々巡りだと梨里香は少し焦りをみせた。
せっかくのチャンスが訪れたというのに。
「やっと見つけた」
だけど、少年の発するセリフは断片的で。
「意味が解らない」
ちゃんと答えてほしい。
そう梨里香は思った。
すると。
「やっと逢えたよ……」
少年はそう発した後、遠くを見つめる。
切なげな少年の姿は、そのままだんだんと薄くなっていき、消えてしまった。
「え、ちょっと待って」
そのとき、少し強く吹いた風が梨里香の頬と髪をなでて通り過ぎて行った。
* * *
梨里香はうなされるように目を覚ました。
「夢?」
今の、あのあまりにも生々しい出来事が夢だとしたら、今まで自分に起こった出来事も全て夢なのだろうか。
やはり小説の世界に深く入り込んで読み耽っていたためか、空想の世界にまで入り込んでしまっていたのかと、梨里香はそんな風に考えた。
翌朝、梨里香は気だるさを感じながら目覚めた。
昨夜は今までの出来事が全て空想だったのかもと考えた梨里香であったが、朝起きてよくよく考えてみると空想にしてはおかしな点があることに気付き、ことの真相を突き止めようと思い直した。
とりあえず、あの少年を探すことからはじめようと、今日も河原に向かう。
祖母におにぎりを2つにぎってもらって、それと小説をリュックに詰め込んで、意気揚々と祖父母の家を出発した。
昨日に続き好天で、清々しい田舎道を足取り軽く歩いて行く。
ドキドキしながら河原について、梨里香はその時を待った。
再び少年に会えるその時を。
夕方まで待った梨里香だったが、あいにく少年には会うことができなかった。
しかしまた明日があると、梨里香は前向きに捉えていた。
そうして数日間が過ぎたある日。
またそのチャンスが巡ってきた。
梨里香はその日もいつものように大きな岩に座って、いつものようにリュックからお気に入りのファンタジー小説『Meet You Again』を取り出して、表紙を開いた。
そしていつものようにしおりをはさんでいたところまで、パラパラとページをめくる。
するとどこからともなく吹いた風が梨里香の髪を揺らす。
心地良い風に梨里香の頬も緩む。
梨里香が小説の続きを読もうとしたその時だった。
ページはパラパラと反対にめくられるように一番最初に戻る。
梨里香はハッとした。
あの時と同じだ。
彼女はもう一度しおりをはさんでいたページをあけた。
すると無風であったにもかかわらず、またさっきと同じようにページは反対に動き出す。
梨里香は最初のページに目をやった。
すると、そこには『第1章 晴天の霹靂』というサブタイトルが浮かび上がってくる。
同じだ。
昨日までのサブタイトルは『第1章 嵐の中で』に戻っていたはず。
全てがあの時と同じだ。梨里香は緊張した。
しばらくして閃光が走り、轟音とともに少年は現れたが、あの時と同じ繰り返しだった。
何もかも解らないまま肝心なところで消えてしまう。
だがひとつ解ったことがある。
あれは夢ではなかったということだ。
梨里香は自分の身に起こった不思議な現象が、夢やまぼろしではないと確信したのだ。
この小説と梨里香の身に起こる現象はなにか関係があるに違いない。
でも、どうしてこの小説が梨里香になにかの現象を起こさせるのか。
それはまだ謎のままだ。
お読み下さりありがとうございました。
いよいよ物語は次の段階へと進みます。
次話「第5話 もうひとつの世界(1)」もよろしくお願いします!




