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Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第1章  青天の霹靂
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第4話   その後(2)

 梨里香は心を決めて、まだ雷鳴の轟く中、大切なペンダントをぎゅっと握りしめ、目をあけてみた。


 すると一体どういうことだろう。

 遠くで楽しそうに川に入り遊ぶ子供や釣りを楽しむひとの姿はそのままに、明るい日差しを浴びながら何ごともなく営まれている。


 この雷鳴と轟音はなんと梨里香の周りだけで起こっていたのだった。

 しかも彼らは梨里香の身に起こっていることには気付きもしない。


 時間ときが止まる。

 いや、梨里香の思考が止まると表現した方がいいのだろうか。


 自分の周りだけが賑やかに光ったり大きな音が響いたりしている、その状況はにわかに信じがたく。

 他のひと達が無声映画のように動いているのを見つめるほかなかったのである。


 梨里香はしばらく茫然ぼうぜんとしていた。



 そのうちに光と音は止み、元の陽気に照らされている。

 梨里香ははたと我に返った。


「今のはいったい……」


 そう呟いて、梨里香は手に持っていたお気に入りのファンタジー小説『Meet You Again』に目をやる。


 そうだ、続きを読んでいたのだったと思い出し、さっき違和感を憶えたところをもう一度読んでみた。



* * *


 慣れない道をリリィは一生懸命進んだが、ぬかるみに足を取られて転んでしまう。

 それでも負けずに立ち上がって、ただひたすらに足を動かしていた。


 リリィは、立ち上がっては進み、進んでは転び……と繰り返しながら、雨宿り先を探し彷徨さまよい、ついには大きな木の根元で力尽き、とうとう座り込んでしまった。


 その時、急に声が聞こえた。


「さあ、早く!」


 リリィは少年に手を引かれて、駆け出した。

 突然の出来事になにがなんだか解らず、でも手を引かれるままに走った。


「うっ」


 心細く疲れていたこころも身体も、少年と走るうちに次第に希望へと変わり、リリィはもう少し頑張ろうと思えるようになっていった。

 途中何度かくじけそうになったけれども、「大丈夫」「もう少しだから」「頑張って」とどこからか聞こえた優しげな声に励まされているように感じたからだ。


 リリィ達は雨の中ぬかるんだ道なき道を走っていたが、足を取られて転んでしまう。勿論手を繋いで走っているのだから、片方が倒れればもう片方も倒れるのは必然だ。

 ふたりは立ち上がっては進み、進んでは転び……と繰り返しながら、遠くにぼんやりと浮かぶ灯りを目指した。

 

 それから少し経って……。


* * *



「え?」


 梨里香は大きな目をまん丸に見開いて、パチパチとまばたきをした。

 え、と声を上げる以外にどうしたらいいのか解らなかった。


 梨里香は驚きを隠せないでいた。

 なぜならまた文章が以前とは少し変わっているようだからだ。

 というよりも、梨里香はこの内容に覚えがあった。昨日梨里香が夢かまぼろしかと思うような出来事に遭遇した、正にその体験そのものだった。


 今まで読んでいた本の内容が変わっただけでも充分に驚異であるのに、その変更された物語が実際に自分の身に起こったことそのままであったので、梨里香は動転してしまう。



 梨里香はなにをどうすればいいのか解らず、とりあえず祖父母の家に帰ることにした。

 ゆっくりと落ち着いて、この現象について自分なりに考えてみようと思ったからだ。


 この河原に向かって歩いた朝は、わくわくとした気持ちで足取りも軽かったのに、帰り道は彼女にとっては長く感じられた。



* * *



 梨里香は2階の部屋で宿題の続きをしていた。

 夕食後、布団に入るまでにはまだ時間があったからだ。

 とにかく、自分で決めていた今日の分までの宿題を終えてしまわないことには、気になって小説のことをゆっくりと考えることができないから、大急ぎで済ませることにした。


 そして宿題を終えた梨里香は、昨日からの出来事について考えた。

 考えても考えても導かれない答えを求めて。


 ふうとひと息ついて、梨里香は枕元に小説を置いて今日はもう寝ようと布団に入る。



 あまりに色んな出来事があった疲れからか、梨里香はすぐに眠りについた。




* * *


「探したんだ。本当に」


 そう言われて梨里香は聞いてみた。


「どうして?」


 だけど相手の顔は見えない。

 もやがかかってハッキリとは解らないのだ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「第4話 その後(3)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第4話   その後(2)読みました。 謎が謎を呼ぶ展開ですね。 少しずつ進んでいくところが良いです。(^○^)
[一言] 何となくですが、今回、読んでみて、思春期の女の子が通る通過儀礼(?)。その中を通り過ぎようとしているようにも感じました。
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