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声を亡くした死神  作者: パッポン
3/3

3話「わたしも大概」

「あ、目を覚ましたのね。大丈夫?頭とか強く打ちつけてないといいだけど。」


そう優しく声をかけてくれたのは、保健室の先生だ。


「なんか、こいつ声が出ないらしいんですよ。」


言い方。それじゃ勘違いされてしまう。


「えぇ!そんなに強く打ってた!?血が出たり、酷く腫れたりしてる様子じゃなかったから、大丈夫かと思ったけど。救急車!救急車よね!」


オロオロした後に、電話へと一直線。紙に書いている猶予なんてない。あ、違うんです。と直ぐに否定したいのに出来ない。そのもどかしさから、ベッドに腰掛ける男の背中を力いっぱいグーで叩く。


「ッて!あぁ、先生!違うんだって、頭ぶっけておかしくなったとかじゃなくて、今朝からずっとだってよ。」


「ひぁ?あ…、そうなの。なら、よかった。良くはないかのかな?」


耳に当てた受話器を降ろす。


「声が出ないって、どうしたの。完全に出ないの?枯れてるとかじゃなく。今回以外に倒れたり、ぶつけたりとかは?痛みはある?」


そんな覚えは全くないし、痛みもない。首を振って否定した。


「あら、ゴメンなさいね。声が出せないんだったのに質問なんてね。ふふッ。」


そそっかしいが大らかな先生だ。


「口開けてみて。」


言われた通りにポカンと開けると、先生は白衣の胸ポケットからライトを取り口内を照らす。


「それじゃ見えないから、もっと大きく。」


と言われたところで、1度口を閉じ、マキモトを指さす。


「んだよ。」


女の子が口開けてるところをガン見する精神が信じられない。普通は気を使って多少配慮する。


「ほらほらマキモト、女の子が大っきな口開けるのを、そんなにまじまじ見るんじゃないのよ。そっちのソファで待ってなさい。」


シャッ_


「なんだよ。運んでやったのによ。」


マキモトを追い出して、先生がカーテンが引いてくれた。


「腫れてはないわね。1度ちゃんと病院で診てもらった方がいいわ。教室戻るのもアレだし、歩いて帰らせるのも心配だわ。このまま病院行ってしまいましょうか。自分で行くのも大変でしょ?」


事情は把握してくれているようだ。病院に行くにも親が車で送ってくれるわけでも、付き添ってくれる訳でもない。


「マキモトー、あんたどうせ寝てるだけなんだから付き添いなさい。」


「は?なんでオレが!先生がいけばいいだろ。」


「今日は午後から養護教諭の集まりがあって、どうしても外せないのよ〜。」


「いいのかよ、教師がサボらせて。」


「寝てるだけなら変わらないじゃない。担任と教頭には私から言っとくから。よろしくね?」


え、私の意見は。


【やだ!】


紙に書いた文字を指さして強調する。あんな男に付き添われるぐらいなら1人の方が余程マシだ。


「女の子がそんな険しい顔しなーいの。さすがに1人じゃ行かせられないし、担任の先生も授業があるからね。あの先生の事だから付き添いなんて面倒くさがるんじゃないかしら。マキモト君、そんなに悪い子じゃないわよ。ふふッ。」


と、頭を撫でられる。


今どき、教師が自家用車で送り迎えなど行われず。良くも悪くも教師と生徒との距離が開いている気がする。そんな事を思いながら、タクシーにマキモト共に押し込まれ病院へと向かった。



_______________________



「ストレス性の失声症ですね。」


病院の先生によると精神的なものらしい。失声症と言っても、通常は声を出す時に引っ掛かりを感じたり、声が枯れたように掠れた声しか出なくなるという症状が殆どで、全く発声出来ないのは珍しいとの事だ。


ストレスから小さな子供が声が出なくなるという話を、前にテレビか何かで見たことがあり、自分でも薄々そんな気がしていた。


だから、さほど驚きもせず、ショックでもなかったけど、なにより情けなかった。


トボトボと診察室を出て、待合室で待つマキモトのところへと向かった。


結局、精神的なものだから時間が解決してくれるのを待つしかなのだそうだ。診察自体にはそんなに時間はかからなかったが、その後の説明に時間がかかってしまった。待たせてしまって申し訳ない。


スー…スー…


診察券やらを入れるファイルで思いっきり叩いてやった。


「ん!なんだ?」


文句を言いたくとも声が出ない。紙に書こうにも、持ってくるのを忘れてしまった。イライラする!イライラする!


「痛い!痛い!喋れないからって、暴力で訴えかけるな!」


何度も叩いてやった。


「で、なんか分かったのかよ。」


と、聞かれましても。


「あぁ、そうだ。コレ。」


白いビニール袋を突き出して来た。中身は、ペラペラとめくるタイプのメモ帳と、書いたものを消せるフリクションボールペンだ。


【ありがとう。声が出せないのは、精神的なもので…】


「そっか、そっか。大変だったのな。」


タクシーへと乗り込んだ。


_______________________


「イクミ、一人暮らししてんのか。」


マキモトから貰ったメモ帳で軽い身の上話をしていた時の話だ。


「料理とか出来んの?」


【最近のコンビニは凄いんだよ(^^)】


「ずっと買い食いかよ。そりゃ倒れるし、ガリガリになるわ。」


【女子に向かってガリガリとか言うな!】


「んじゃ、このまま買い物行って、簡単なものなら俺作ってやるよ。」


この一言が、人生で一二を争う恥辱を味わわされる出来事の始まりだった。

ありがとう

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