2章 3話
バスローブから寝巻きに着替えて、太ももに確かに有る自衛の刃に安心感を覚えて。
そうして迎えた初めての夜は極上の寝台にすぐに意識を持っていかれた。
それでも近づく者には反応したはずだ。そこまで自分を手放してはいないつもりだ。
日の光を浴びて起き上がったときには化粧台の上に横にメモがあった。
「今晩は三人」
一人か、私室の前の護衛と室内か。
これからは安らかな眠りなどないと知らせるメモにため息をついて脱衣所へ向かう。
洗濯されていないのはつけているものからか。
外套を引っくり返せばでてくるベルトとホルスターに鋏を入れる。
これまで来ていた服は白を貴重にした意匠といえど何度も死線を潜れば汚れ薄汚く見える。
胴、袖、短めの裾。欠かすことのできない武器を取り出せば少しは安心した。
サイドテーブルに置かれたベルを鳴らせば数分も経たないうちに控えめなノックがなる。
早朝に呼び出したのは私なのに申し訳なさそうに入ってくる侍女にこの後用意される服の詳細を聞いては相談を持ちかける。
否、立場がはっきりしている今相談など優しい言葉を使うのもためらわれた。これは私の我侭でむちゃな注文なのだ。
それでも頷いてくれた侍女には頭が上がらなかったがこの世界の通貨も持たない私にはチップを渡すこともできず、ただ注文どおりのボレロが用意されるのを待つしかなかった。
二度寝をする気持ちにもなれず客室用の壁画を一つ一つ眺めているうちに日は昇り、支度をするための侍女が扉を叩く。
昨晩の入浴と同じく着替えくらい一人でできるものだがその着替えを侍女が持ってくるとなればもう文句も言えず。
梳られながら乙女にはふさわしくないホルスターを各所につけていく。
侍女はそれに何も言わない。既に言いつけられているのか。
大きくスリットの入ったドレスにファーつきの手袋は白く、低いヒールのパンプスとボレロは黄色を帯びている。
動きにくいといえば動きにくかったがこれが限界だろう。何度も仕込んだベルトに手を伸ばす練習をしてこれが無駄であればいいと思うのみ。
それから何時間たっただろう。いや、日が昇ってから動き出したからそうは経っていないだろう。
ドアを叩く音の後にセーミャの声がする。
「朝食の時間です」
本来ならば王族だけが卓に付くことを許された時間。そこに呼ばれることの重みを意識して背筋が伸びる。
「どうぞ」
私の合図を受けて開かれた扉の向こう、侍女が息を飲むのが分かった。
朝の光を受けてきらめく髪は纏められ、白を貴重とした衣装に紫の瞳がアクセントとして組み合わされたのは分かっている。
丁寧にケアされたといえどそこまでだろうかと内心で首をかしげていたところにセーミャが声を詰まらせながら言葉を探す。
「リコフォス様……」
「うん?」
「とても、とても美しゅうございます……」
それは着付けと化粧をしてくれた侍女のおかげだと思っても彼女たちの名前を聞きそそびれた。
素直にそう伝えるとセーミャはくびを横に振った。
「いえ、いいえ。内側から光るものはリコフォス様だけにしかだせません……」
感極まった人に何を伝えても伝わらないと知っているリコフォスはあいまいに微笑んで、セーミャへ食卓への道案内を頼んだ。