プロローグ
「危ないっ!」
姉を突き飛ばした。そこまでは覚えている。
体が宙に舞う。一面の光でなにも見えない。
ああ、私はここで死ぬんだ。
「――」
「――――――」
「――――」
周囲がうるさい。
死ぬということは永遠の静寂だと思っていたのに。
「――にはむりだったんだ」
「とびらの―――が――」
ああ、言っていることがわからない。
言葉は聞き取れるけれど、意味がわからない。
ぼんやりとほの明るいが、何も見えない。
ああ、思わず目を閉じたままだったみたい。
ゆっくりと開く。死んだから重くないのはわかるけれど、とにかくまぶしい。
夏の草原のようで、それよりもさえぎるもののないあかり。
「目を覚まされたぞ!」
明るさにしょぼつく目に戸惑っていると、やっと意味の分かる言葉が聞こえた。
「おわかりですか?」
様々な声がする。天界にはこんなにたくさんの出迎えがいるのか。
段々と目が慣れてくると、柱に支えられた上にステンドグラスの嵌った、東屋……というには荘厳な景色が視界いっぱいに広がっていた。
「あの、……?」
色づいた光の中にに銀砂がこぼれた。
それは零れるような豊かな髪。ゆるく波打ちステンドグラスの反射を映してオーロラのようだ。
「あの、たびびとさま?」
柔らかな銀の中に宝石が二つの嵌まっていた。
宝石の名前がわかるような学はない。
深い海に陽が当たって揺れる水面を再現したような、複雑な蒼。
違う、その瞳に涙が溜まっていて、本当に揺れている。
堪えきれなかった雫が私の頬に落ちた。
「て……」
声がかすれる。死んだなら当然か。
「てん、し……さま、な、か、ない……で」
死者を悼んで涙を流すだなんて、天界の入り口に居てはどれだけ泣いても足りないだろうに。
それでも、地上で私のために流される涙はもう私には見えない。届かない。
彼らの代わりにこの命を惜しんでくれているのなら。
悪い気は、しなかった。
声が遠ざかる。視界が霞む。
感謝と、もう泣かなくてもいいと伝えたくて精一杯ほほを動かしたが、笑えただろうか。
私はまた、静寂の中に落ちた。