我が身を捨てて
こんばんわ、asdです
幼い頃の思い出は大きくなるといつの頃の話か分からなくなりませんか?
私はなります。その記憶が誰かとの共有物で無い限り、はっきりその日と言い切れる人はいるんでしょうか。
まぁだいたい3.4歳ですよね
もう日は沈みかけ血のような空には暗闇が訪れている。早くマーカスを見つけなければ本物の狼に食べられてしまうかも知れない。祈りながら走り子供の行く場所をひたすらに探した。
「マーカス!!どこなの?!マーカス!!返事をして頂戴!!!」
できるだけ大声で呼ぶ。そうすれば返事が来るかもしれない。何か反応があるかもしれない。
時間に余裕はない。日は刻一刻と沈んでいるのだ。ランプぐらい持ってくるべきだったと後悔した。林を抜け本格的に木の数や密度、足場の悪さも目立つ。もうここは森の深くである。闇は増し、もう目の前は月明かりも入らない世界になってしまった。
「まざぁ…」
小さな声が聞こえた。
「マーカス!!どこなの!!!」
その場にとどまり、周りの森を何度も見渡し、大声で名前を呼びかける。
「ぼくはここだよぉ…」
右前の大木に小さな影が見えた。ズズズッとその影は蠢き手からこちらに歩みだしてきた。
少ない月明かりに照らされて、その姿が上半身だけぼんやりと浮かび上がる。
「まざぁ…たすけて…おなかすいた…」
栗色の巻髪の男の子が見える。あれはマーカスに間違いない。
「マーカス!!!」
マザーは歩み寄り、上半身を抱き起こし思い切り抱きしめた。
「どこに行っていたの?!かくれんぼでこんなところ来てはいけないでしょう!」
思わず厳しい口調でしかりつけると小さな子供はごめんなさいとつぶやいた気がした。
「いいのよ…さあ帰りましょう?みんな待っているわ」
疲れ果てたのだろうか…マーカスの体が異様に軽い。
マザーは抱きしめた彼を見ようと、体を離した。
「……マーカス?」
そこには何もない。
否、あるべきものがない。
全身から一気に血の気が引いていく。
「マーカス…!あなたッ!!!」
マーカスの下半身、腰から下はギロチンにでも架かったように消えていた。
「まざぁ・・・おなか・・・すいたよぉ・・・」
かすれた小さな声が目の前から聞こえる。
その小さな異物と目があう。
「おにくたべたいなぁ・・・」
顎がはずれ大きく口を開けた化け物がそこにいた。
「嫌あぁぁ!!!」
マーカスを突き放した刹那、修道服を強く引っ張られ引き戻される。勢いよく前へ倒れ地面へ直撃する。
足元を見ると大きく口を開いたマーカスが、虚ろな目でこちらを見ている。その手には自信の服の裾が握られている。その強さにまた足がすくむ。こんな子供のどこにそんな力があるのだろうか、前へ進むことができない。
「たっ助けて!!!助けてええええぇぇ!!!」
裾を口に加えたマーカスが腰のほうまで迫り、地面を這うように上がってくる。
食べられるッ、と思い目を深くつぐんだ。
ザシュッ
目の前に何かを切り裂く音とともに、バシャッと水しぶきが顔に当たる。
「…へ?」
衝撃と痛みに供えていたが何も起こらない。
開けたくないが、ゆっくり両の目を開ける。そこには闇夜に浮かび上がり、白髪の少女が立っていた。
先ほどの頬の冷たさに気がつき、手を当てると、月明かりでも分かるほどに鮮やかな紅がつく。
修道服の太ももあたりには、切断されても握りしめたままの小さな子供の手があった。
自身がやっと息ができることに落ち着き、意識が上昇してくる。
「…シスターメアリ、こんばんわ」
いかがでしたか、早く次へ