何回目の愛
はじめまして、asdと申します。
この物語は私が中学生時代に夢に見た話が元になっています。夢とはその日の出来事のフラッシュバックを、無意識の中で見ているという状態と聞いたことがあります。この話では絶対にないです。
私インドア派ですし、だいたいホラーとか恋愛とか見ないですもん、体験したいわよ
でもまぁだからこそ何かに見せられたのかもしれませんね
始まりなど無い
時が経った今でも鮮明に思い出すことができる。
幼い私に背の高い彼は膝をつき目線を合わせた。オレンジの夕日を背に浴びながら、優しく大丈夫だからと語りかけてくれる。ゆっくりと視線が重なる。その太陽のように笑うくしゃくしゃな顔には、でき始めたばかりのシワが目元に見える。琥珀でもはめ込んだかのような蜂蜜色の瞳は、夢の中の幼い私を強い意志とその黒い瞳孔でまっすぐに見つめ返すのだ。風に揺れる手入れとは無関係で好き放題に伸びたクルクルな小鳥の巣のような髪は、頭の後ろの下のほうで無造作にまとめられている。その顔が少し私に近づく。彼の大きなにの手のひらとごつごつとした指がそっと私の頬に触れ髪を優しく撫ぜていく。
『 アリシア、君は僕の娘だ。
君を家族として、また…唯一の相棒として君をまた愛そう。
僕の名は…“ウコドラク” 』
『 “ウコドラク”?それだけなの? 』
『 そうだよ、Just“ウコドラク” 』
『 私は家族なら、あなたと同じ苗字になるの? 』
『 そうだよ、Just“アリシア” 』
かき混ぜられる髪の毛と、その感触が嬉しく初めての体験に心が震える。
夢で何度もみた今では、この瞬間に感じた気持ちが何なのかはっきりとわかる。『幸せ』こんな時が永遠に続き、幸せな一生が私を待つのだろう。寂しくて泣く日々も、訳も分からずおなかが減ることも、怖い人達から殴られることも、何の心配もいらないのだ。これは幸福と安心だ。
時が経った今でも毎晩のように幼い日の幸せな夢を見る。だから何度ぼろぼろになろうとも、あきらめがつかないのだ。何度でも彼に会いたいと、また私を家族と呼んでほしいと願ってしまう。だからこの醜い戦いから目を背けることができないのだ。
何度でも何度でも出会うために。
2 現れた彼女
「マザー!!」
「おなかすいたぁー!」
「はいはい、ご飯にしましょうね」
深い森に覆われているこの小国にも町は存在している。野に家畜とともに生活している人々が、交流と商売を求める場所である。そんな中にひときわ目立たず、王都からもかなり離れた緑豊かな町がある。穏やかの代名詞のようなその場所は、交通の便もいいとは言えず、旅人とも少ない田舎そのものである。
人々はそんな囲われた町を口々に田舎だよというが、なぜだか町をそれ以上悪く言うものはいない。しかしながらその平和や優しさからか、近くの森に子供を捨てていく親が後を絶たなかった。
高い塀に囲まれた町は、長くその門を過去の戦争で使用していた。しかし、今はその要塞として役割を果たしておらず、ただ森からの害獣避けに早朝に開き夕方に閉鎖される、時刻を告げる存在に変化していた。
また、深い森からもたらされる病気、狼や熊などの獣を知らない過去の住人が、旅人や子供を脅かすために作らせた伝説で、この国では古くから吸血鬼が生きていると信じられている。それらをただの獣と思うかもしれないが、捨てられる子供と同じように森に囲まれた町、ないし人口の多くないこの国では深刻な問題であった。最近でこそ、その被害は減りつつあるものの、やはり変わらず門はただ硬く閉されていた。
塀の中には身分の確かな者しか住まいは持てず、塀の外の教会に森で発見された子供は預けられる。その教会を兼ねた孤児院にマザー(お母さん)と言われる女性がいる。彼女の名はシスター・メアリ。分け隔てなくどこからでも生きることが難しくなった子供たちを受け入れていた。
もう若くは無いが、腰の低い痩せた姿、年季の入った修道服姿が板についている。その姿清い雰囲気からか、どこか粗末には感じられない。
彼女たちの住まいである古い赤レンガの教会は、修繕し建て直された孤児院である。遠くから囲む森に続き囲む木々の林と周りの芝生が美しい。
しかし、金銭的な援助も無く、よく考えずともその暮らしぶりは褒められたものではない。何とか彼女と10幾人かの生活ができる環境として整えられていた。また彼女の教育のよさか子供たちは健やかに成長し、早々に引き取り先がきまる子供も多い。彼女は町の住人からも信頼は厚く、日曜の礼拝は、町はずれの教会であるというのに、多くの人が彼女のもとへ集まる。信頼を集める彼女は聖職者が天職なのだろう。
「マザーぁ歯が痛いよぉ」
「あら?マーカス何でかしら?」
「チョコとクッキー、キャンディーのせいね!!」
「まぁ!アンったら!ホームではそんなもの食べてないでしょう?」
「ねぇマザー!!今日のお昼ご飯はなぁに?」
「マザー特性の肉団子入りスパゲッティよ」
「「「わぁい!!!」」」」
「さぁ、お昼の礼拝をしましょう。神様に今日の糧を感謝してから食べましょうね」
「あんまりお腹すいてないなぁ」
誰も彼女を悪く言うことはない。そしてその善行からか、いつしかシスター・メアリではなく『マザー』と呼ばれるようになったのだ。非の打ちどころのなく子供たちを養い、人々の話を聞く彼女は『聖母』そのものである。
彼女の足元に子供が集まる。一人一人の頭に触れ、よしよしとなでる姿は絵画のように優しい母である。苦労からできた優しい皺が見える。
子供が正午の鐘を鳴らす。心地よく明るいカーンカーンという軽いリズムに子供が集まり、両開きの礼拝堂へ入る。一人ひとりに声をかけ頭をなでながらマザーをドア閉めた。
遠くの林の陰から白髪の少女がその姿を見ていた。