亡者
いきなりだった。
羽交い絞めにされて、身動きも取れない。こいつらこんな体型で、
よくこんな力が出るなあと思ったくらいである。真琴より遥かに力が強い。
見縊っていた。思ったことは一つだ。このまま行くとゼッタイ、
こいつらに道連れにされる。率直に言うと殺される。あの沼に落とされる。
それは避けたかった。
もうここから出られないという現実を知らない真琴は、表世界に帰って
莢乃に誤りたかった。ちゃんと墓を建ててやりたかったのだ。
だから死ぬわけには行かない、と、どこかのアニメのヒーローみたいなことを
考えたが、そんな風に都合よく、力が湧いてきたりはしなかった。
どこからか生首が飛んできて、元々付いている顔をはね飛ばして
くっつき、体力補充っていう展開はなかった。そんな人たちは来なかった。
今真琴が使えるのは手に握ったままのスティックだけだ。
絞められているので先端の刃物は使えなかった。でも、真琴の息が届けば魔法は使える。
真琴は勢いよく、腹式呼吸で胃がグゥとなるくらい腹筋に力をいれ、
できる限りの空気砲をスティックに付いた黄色の宝石に当てた。
すると莢乃の時と同じく、真琴の息風にのって黄色い宝石から
魔法が噴出し、醜く腐った体を包み込んで消えた。
周りを見回し、やっと一息ついて座り込んだ。息は荒かった。
さっきから息を止めていた。じゃないとあの亡者の異臭で意識が飛んでしまいそうだった。
服の肩の付け根が亡者の体が触れていたせいで汚れ、茶色くなっていた。
やっぱり異臭がする。臭い臭い臭い・・・・と心の中で連呼する。
でもそんなことをしていては無駄なので、そこだけ刃物で切り離しておいた。
それからこの沼の亡者達を、さっきの一体と同じように黄色い宝石の魔法で
沼ごと全員消し去っておいた。やはりここにも魂は無かった。