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迷宮  作者: 桜水晶
4/11

過去

今は、さっきまでいた部屋の隣の部屋に来ている。


ここは地獄のような光景だった。


中央にある血のような赤黒いものでできた沼に、亡者らしき者達が


数え切れないほどうごめいている。みんな同じような顔をして、


扉の向こうから現れた真琴を、とれた眼球でじっと見つめている。


痛々しい。その一言で十分に表現できるような身なりだった。


焼け爛れ、どろどろと落ちる皮膚の向こうからは、肉と骨と血管が見える。


そして、爛れていないところは腐っているのか。茶色く、腐敗臭がした。


何より、細い。そして全裸だ。莢乃はいなかった。あいつは、


こんなところに落ちるような生き方はしていなかった。僕が保障できる。


どうして僕が、そんな奴の命を絶たせてしまったというと…、


ちょっと前の出来事だ。



真琴と莢乃、二人はさっき、莢乃が死んだ部屋にいる。


「こんなところに長居していたら、香恵さんが悲しむよ。」


と莢乃。


「姉さんのことは口に出すなって言っただろ。もうアイツは表世界に


いないんだから、そんなこと言っててもしょうがない。」


真琴が冷たい口調で返す。真琴の姉は暴力団とかかわって殺されたのだ。


その恐ろしい奴らは真琴のいる家にまで来た。途中で通行人が警察を呼んだから


真琴は無事だったが、そのときの記憶は今でも鮮明である。


「でも香恵さん、あたしはあんまり好きじゃなかった。正直いなくなってよかったって


思っているのよ?」


真琴の瞳孔が開く。


「姉さんはうちの奴だ。何の苦労も知らないお前に、そうやって横から


とやかく口出ししてほしくない。それが一番イヤだ。」


「…、真琴は知らないだろうけど、あたしが真琴の家に行ったとき、


あたしがトイレを借りに1人になったとき、あの人あたしになんて言ったか知ってるの?


『真琴と仲良くしないで。見ているとイラつくの。もう来ないで。だいたいあなた


素人の癖に一緒に遊んでいるとか何?真琴は忙しいの。どうしてかわかる?


あの子は秀才だからよ。あなたはどうなの。違うんでしょう?だったら真琴の


将来を不安定にさせるようなことはもうしないで。』


だって。ただ友達として遊んでいただけなのに。


どうしてそんなこと言われなきゃなんないの。あたしが。」


学校じゃみんな当たり前のこと、あたしはしたらいけないの?おかしいじゃない。


あの女、常識知らないの?」


「姉さんには障害があったんだ。」


「だから何よ。結局は友達なんて選ばないんだから、みんな。


あんな女、死んで正解だったのよ!!!」


真琴の緒が切れた。気がつくともう莢乃はいなかった。それだけだ。



一時的なけんかで絶命させてしまったのだ。冷めた今は、ちょっとは


悪かったという感覚があるから、莢乃をさがした。亡者の中から。でもいるわけが無い。


そんなことに思いをふけていて、真琴は一体の亡者が近づいていたことに気がつかなかった。




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