気を緩めた時間
「・・・、・・と、ま・・こと、真琴。」
誰かが僕の名前を呼んでいる。なぜかすっかり今までの疲れが取れている。
もう、起きられる。
僕はさっと瞼を上にどけて目をいきなりぱっと見開いた。そして一言。
「何?」
目の前にはルリレラが迫っていた。
ルリレラはキャアと叫んで僕の寝ているベットから飛びのけて落ちた。
その振動で、僕の傍らで伏せるように寝ていた晴樹が起きた。
回復魔法はそれなりに体力がいる。それを飛ばすとなると、けっこうな
力を消費するのだ。疲れているに決まっている。でも一晩、
ルリレラと一緒についていてくれたらしい。
「あふァ…、、真琴?もう大丈夫?起きていいの?」
「ああ、もう平気だ。それよかオマエも大丈夫なのか?昨日の魔法で体力…。」
「全然、俺なら大丈夫!ピンピンだから。疲れてなんかないよ。
俺は疲れを知らないから。」
ルリレラがベットに這い上がってきた。
「痛い・・びっくりしたよ…も〜。いきなり起きないでよ??なんかほら…
普通の人だったらあんな起き方しないでしょう?なんか前置きとかあるじゃない。
うなったり…、とか?なんかでもほら・・・。」
「ごまかすなよ、ルリレラ〜。俺寝ながらも見てたよ。」
「うっそ見てたの!?言わないでよ…きっと怒られるから…。」
「う〜ん。そーだね。あれは怒るよネ。」
なにやらかしたんだコイツは・・・
「真琴、怒んないでね。実は〜…あなたが寝ている間に〜スティックにぃ〜…」
しゃべり方がじれったくてイライラする。
「新機能を勝手に追加しようと無理しちゃったのでした。」
しーん
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・!!魂を探す
手伝いになるような魔法つけておきたくって、でもつけ方わかんないから
いじってたら・・・・スティックが焦げちゃった。」
しーん
「いやごめんなさいごめんなさいごめんなさいねぇぇ!!!!でもホラ、なおることには
なおるからね!あなたの連れに頼めば…。」
晴樹か。
「えー、余計な仕事増やしやがって。結構疲れるんだぞ、あれは。甘くみんなよ
このヤロー!」
「ごめんなさいって!でも疲れを知らない男なんじゃないの!?」
「ソレとこれとは違う!お前に言ったんじゃないし!真琴に言ったんだし!」
晴樹はちょいキレ気味。ルリレラたじたじ・・・まあその通りだからな。
でも晴樹の「怒る」は、僕のような激しい感情に襲われるようなものではない。
まるでちがう。晴樹は穏やかだ。穏やかというか・・・基本ゆったりのんびりって感じだ。
なので、彼が怒っても意識が飛んだりすることはなく、ちょっとふくれる、
といった感じだ。僕には、とても、無理だ――――
晴樹は整った眉をちょっとだけつり上げ、口の端を曲げるだけだ。僕も
あれくらい穏やかになりたい・・・真琴は自然にそう思った。
「いいよ。スティックぐらい。コピーデータならとってあるから、
空のスティックがあればいつでもチャージできるし。」
「ごめんねぇ、真琴!すいませんですゥゥ!!!」
ルリレラは泣きそうだ。
「あれえ真琴やっさしぃ〜。許しちゃうんだ。」
晴樹はちょっと僕に妬いたかのように機嫌を悪くした。
そして、ルリレラが取り付けに失敗した魔法のデータをもらって
二人旅支度をすませたのであった。