失われた絆 世界の輪廻
【 閲覧注意物件です 】
どう云う訳か、バッドエンドが書きたくなって、想いのまま書いて見た。
唯々、暗く、心が重くなる話。 ハッピーエンドマニアの反動と情動。 辛くなられた方、ブラウザバック推奨です。
ザリ、ザリ、ザリ……
足元の地面は固く、不安定な小石がばら撒かれている。 一面の白茶けた平原が、嫌になるほど続いている。
目に入る限り、茶色…… 草の一本も生えていない、地面に住まう生き物の気配なんぞ皆無な平原。
装備品の内、重いものは、昨日、捨てた…… 襲ってくる者も、魔物も、人でさえいない。
そんな誰も居ない、クソな平原を、身体を引きずる様に、ただ、ただ、歩いている。
目的地は…… まぁ、その、なんだ……
ふと見上げる視線の端に、高く、高く舞う、一羽のデカい猛禽類の姿を捕らえた。 もう、狙ってきやがったか。 死に掛けの俺は、うまそうな餌にしか見えんだろうな。 遠くから飛んで来やがったのか…… 境界の砦からも遠く離れたこの地が、俺の最後に相応しいのか……
仲間たちは…… いや、もう、仲間でもなんでもなかったな。 まさか、捨てて行かれるとは思わなかった。
あれは、たしか、一週間前か……いや、十日前? どうでもいいか…… 俺は確かに仲間達と、一緒に居た。 前衛職として、勇者一行に加わって、やるだけやって来た。 本来なら使わないスキルだって取得した。 主に探索と隠密関連だがな。 罠を見破り、見つけた敵を音も無く近寄り、殺す。 前衛職の主な仕事だと、自負していた。
まぁ、練度の上りが悪くなってきているとは思っていたが、まさか、あいつ等が吸っていたとは思わなかった。 いや、まぁ、俺の不注意でも有るんだがな。 中衛、後衛に勇者、魔導士、賢者、聖女と魔王討伐に欠かせない奴等がいた。 その連中の中で、賢者、コイツが曲者だったんだ。 前衛職が削り、中衛、後衛が止めを刺す。
戦術的には間違いないんだ…… ただ、奴は練度の取得を魔法で分配出来ただけだ。 知らずにいたのは、俺だけだったのか…… だいたい、おかしいとは思っていたんだ、戦闘はほとんど俺がこなしているのに、練度の上がり方は奴等の方が早い。 まぁ、勇者やら、なんやら、凄い職業持ってた奴等だし、聖女に至っては帝室の一員だしな……
この最果ての地に居る、魔人王の棲家で、奴を屠ったのはいい。 世界に平和が訪れる……筈なんだが……な。 暴虐の魔人王の配下も殺った、その周りの奴等も切り殺した。 暴虐の魔人王と戦い、体力も魔力もほぼ使い切って奴を斃した俺は、討伐の証である、砕けた魔人王の【命珠】を手に入れた。 討伐も終わった……あとは……
この最果てに聳え立つ、「暴虐の魔人王」の館を出ようとした時に、賢者が変な事を言いやがった。
” 出発する時と同じ人数で無いと、いけませんね ”
っんだと? 討伐仲間の中で、俺だけが流民だ。 職業は……ただの兵…… つまりは、お城に入る事が出来なかったんだ。 「勇者」は王族がわざわざ探し出した特別な奴、「魔導士」は帝国魔導院の奴、「賢者」は聖堂教会からの推薦、「聖女」は帝室の一員…… そんで俺は、帝国の戸籍すら持たない、流民って奴だ。
最初は、何の事を言っているのか判らなかった。 もう、息も絶え絶えだったしな。 そう言えば、聖女の癒しの力は、俺以外に使って、俺はもっぱら自前で如何にかしてたぞ…… 奴等の武器やら防具は、帝国の宝物庫から、頂いたっていう凄いもんだったが、俺のは、爺様の鍛冶屋で一緒になって鍛え上げた奴だったな……
傷だらけの体を引きずって、元来た道を帰ろうと、扉の前まで来た時に、賢者の奴が魔方陣を描き出しやがった。
” 四人分しか無いんですよ、この魔法は ”
薄ら笑いを浮かべながら、眼鏡の真ん中を右手の中指で持ち上げやがった。 見てて、イラって来る仕草だ。 呆気に取られえる俺を、見下したような視線で見詰めた後、奴は言いやがった、
” 先に帰ってますよ。 魔人王討伐協力、有難うございました ”
なんだ? と、思っていたら、奴を含めて、勇者も魔導士も、聖女も視線を外しやがった。 ” おい、どういう事だ! ” カラカラになっている喉からは、掠れた声しか出やしねぇ……
” 『人族』では無い貴方は、正式な討伐部隊の一員では無いのです。 悪しからず。 あぁ、これは、勇者も含めての総意です。 では、ここまで、有難うございました、ごきげんよう! ”
腸が、煮えくり返り、拳を握りしめて、振りかぶろうとした途端、眩しい白い光が奴等を包み込んだ。 不意打ちを喰らった俺は、咄嗟に目を庇う。 爆発的な光が収まった後、俺の見た光景は、床に形を崩し始めた、魔方陣が四つあるだけだった……
本気で、捨てられたんだと、その時、理解した。
はぁ…… 砂塵が目に沁みる。 もう、ポーションも残っていない。 有るのは毒ぐらいか…… 飲んでやろうか? いや、マジで…… 強烈な日差しが、俺を叩く。
ザリ、ザリ、ザリ……
引き摺る足、揺らぐ視線。 倒れそうに成りながらも、前に進む。 頭からかぶっている、日除けのフードが、時折風にはためく。
風…… 出て来やがったか。
つまりは…… もうすぐってこった。 奴等は、魔人王を倒すって事しか頭に無かったし、俺の事は利用するだけ利用するつもりだったんだよな。 だから、あそこで転移の魔法を自分達だけが使い、帰還して行ったんだ。 奴等の意図が、あの時、何となく理解できたしな。
悪くねぇ…… そうさ、裏切られた、俺からしたら、最悪だが、悪くねぇ手だ。
なんで、あの連中が、戦闘力だけ特化した人族でない ” 兵 ”の、俺を仲間に引き入れたのか、理解できた。 自分達の経験値稼ぎを、安全かつ、素早く伸ばす為だったってな。 利用できるものは、誰でも利用する。 人族だからな。
フフフフ、
ハハハハ、
アハハハハハ。
あぁ、悪い、俺も、利用してた。
後は、帰るだけに成った時に、言うべきことが有ったんだ。
” 俺は、ここで抜けさせてもらう。 報奨金と、物資、それと、癒しの力で体力と魔力を戻してくれ ”
それが俺が言う筈だった、予定の言葉。 不信がられようと、俺は、この最果ての平原に残りたかったんた。 いや、こんなボロボロじゃ無く、元気いっぱいな状態でだがな。
何も貰えず、放り出されるとは、思っていなかったから…… ちぃとばかし、予定が狂った。 本来なら、豪勢な生贄に成るつもりだったんだがな。
……こんな、ボロボロになっちまって、すまん。
風が強く渦巻いている場所が、見えて来た。 切り裂くような、そんな強さじゃねぇんだ。 ただの強い風。 凝り固まったような、風の塊。 そうさな、まるで、宮殿の様に成ってやがるな……
村長の云ってた通りだ。 風が回廊を作り出し、細かな砂粒が舞い上がっている。 揺らぐ神殿様にも見えるな、本当に。
『 あの方の居られる場所は、最果ての地。 風の神殿。 眠られた場所は、そこに有る。 魔人王を屠った武器で、自らの血を捧げる事が出来たら…… あの方は目覚められるかもしれん 』
重いが、捨てずに引き摺って来た、剣を握りしめる。 爺様と鍛えた剣だ。 そして、たっぷりと魔人王の血潮を吸った剣だ。
あと少し…… もう少しだ、持ってくれ……
宮殿の中に入ると、音が止んだ。 静謐って云うのかな…… 大昔に、読んだ御伽噺、そのままだった。 シンと静まり返った風の宮殿の中は、光に満ち溢れ、それでも眩しく無く、半妖半魔の魔人王妃、” ベルシー ”様が眠る場所。
密命が下された、十二種族。 『 暴虐な魔人王を屠り、その血と己が命を贖いに、半妖半魔のあの方の眠りを覚まさせよ。』
三千年の安寧の礎を築いて下さった、真魔人王、ガイル=ラベク様。 その傍らに影のように立たれていた、魔人王妃、ベルシー様。 そして、魔人王の盾であり、剣である、フェガリ=セリニ様。 ガキの時から、敬って、慕って、崇めていた御三方。
遠く時の彼方に眠りに付かれた、御三方。 時代を経て、安寧が揺らぎ、暴力の支配が頭をもたげ始めた時、人族もまた力を手に入れたと聞いた。 時と時空を超え、何処とも判らない場所から、”人族”の為の勇者を召喚しやがったんだ。
でもな…… 魔人王を倒すのは、人族じゃダメなんだよ。 あくまでも、俺達十二種族の誰かで無いとな…… ガイル=ラベク様の御霊は混沌の海に沈み、同時に永遠の眠りに付かれたベルシー様。 付き従い、魔王王妃様の眠る場所を守護する為に、同じく永遠の眠りに付かれたフェガリ=セリニ様。
永遠の安寧を約束した、十二種族の力の無さを許して欲しい。
眠りを呼び起こす、愚かさに慈悲を。
もう、あなた方が望んだ、安寧は破られ……
世界は、死に瀕しているのです。
お願いします。 最後に残った、我等十二種族の願いを、何卒、何卒、お聞きください……
神殿の最奥、祈りの間で力尽きた。 膝をがっくりを折り、目を瞑る。 元気いっぱいの、新鮮な生贄として、来たかった。 血に狂った魔人族を止められなかった後悔と悔恨。 世界の片隅で、細々と命脈を保つ、古の十二種族。 狂った世界に秩序と安寧を……
覚悟はすでにできていた。 爺様と鍛えた剣、刃毀れも甚だしいが、それでも、暴虐の魔人王の血をたっぷりと吸った剣を首に当てる。
どうぞ、我らが願い、聞き入れたまえ!
一気に、首に当てた剣を滑らせる。 生暖かい血が、剣を伝い、神殿の床に広がった。 意識が薄らぐ、視界が揺らぐ。 出来る事は何でもした。 最後の…… 最後の望み。
原初への祈り……
何卒……
……
……
神殿の最奥。 祈りの間。 剣を手に持ち、首に当てる、大きな体。 鮮血を首から噴出させ、祈る様に頭を垂れる漢。
その、男の前に、光が凝縮した。
光は形を取り、やがて、人型になった。
燐光を発するがごとき銀髪。 紅い瞳。 小さな頤 白磁の肌。 白銀に輝くドレスの僅かに覗く胸元には豊かとはいえないが、それなりの重量感の双丘。 悩まし気に、苦し気に目を見開く表情は、何とも言えぬ色香を醸していた。 年齢を重ねても、一切外見が変わらない、半妖半魔。 鈴を転がすような声が、神殿最奥、祈りの間に木霊する。
「何故…… 何故…… ガイルと誓い、フェガリと支えた、皆の安寧が、なぜ破られたの…… なぜ、自分を捧げるの? 望んで無いわよ。 冗談じゃないわ。 世界が終ろうとしている? それは世界の終わりではないわ。 国を、街を、村を、成り立たせている「種族」としての「生き物」の終わりよ。 努力と、想いを忘れれば、いずれそうなるのよ。 それに、貴方の命は、貴方のもの。 大地に根を張り、力強く生きてくださいと、「命」を大切にしてくださいと、あれほどお願いしたのに…… 私は…… 私は…… 私は、やり切った筈よ。 ……もう、眠っても良いと、ガイルは言ってくれたのよ。 何故……起こしたりしたの…… これで、もう、二度とあの人には逢えなくなったじゃ無いの…… なまじあの人の、血縁者の血を使うから…… その上、こんな願い…… ……機会は一度きりだったのよ…… 」
寂しげに、悲し気に、そして血を吐くような声が、祈りの間に響き渡る。 息を潜める様に、周囲は静寂に包み込まれる。
「私は…… あなた方の忌み嫌う、人族の魂を持つ者よ。 ” 古の名をグッタベル=ジーナス 故合って、魔人族の王の妃となったモノ…… 世界に安寧をもたらし、生きとし生ける者全てが笑い合って暮らせる世界を夢見たモノ…… 夢破れし時、彼の者、全てを終わらせるモノに変化す……” ガイルが言い残した言葉……伝わらなかったの? 決して呼び覚ますな、とも伝えて居られた筈…… あの人以外に、そう、あの人以外に私を呼び覚ませば…… どうなるか想像つかなかったの? ……すべてを終わらせたいの? ……後悔と悔恨の情は、良く判りました。 ……世界を…… 世界を混沌に戻します。 貴方が望んだ、原初に立ち返ります。 ……私は、夢から覚めてしまいました、全ては終わりに向かって走り出します。 ……あなたの、体をもらい受け、「混沌の魔女」に転じます。 いいですね」
泣き声の様な、細い声が、途切れると、彼女の光り輝く姿は揺らぎ、祈りを捧げて逝った男の中に吸い込まれる様に消えていった。
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皇帝が勇者の偉業に最大限の賛辞を与え、諸々の栄誉をくだされた。 旅の仲間達もそれぞれに、巨大な栄誉と褒賞を手に入れた。 世界中の人々は、魔物の脅威から完全に護られた事に狂喜し、素晴らしい世界の到来を歓迎した。
反面、人族以外は、苦々しく、その様子を見ていた。
人族以外の行く末が、闇に閉ざされたと、そう見えたからだった。 もう、北の安息地も無い。 各種族は人族に隷属を強いられ、消えゆく運命にある。 華やかな葬礼にしか感じなかった……
――――――
帝国歴1356年 時の皇帝、エランドル=ガイスパイヤーは、魔人族の平定を宣言し、人族による支配を確立した。 同年、人族優生法施行。 人族以外の人権は全て停止された。 反対するモノも居らず、人族以外の者は、闇に沈んだ…… 魔法と魔法具の発展は留まる事を知らず、統一帝国は世界を手中にした。
――――――
同年、最果ての荒野に、一人の少女が立つ。
燐光を発するがごとき銀髪。 紅い瞳。 半妖半魔の彼女の名は、” 混沌の魔女 ベルシー ”
人族が彼女の名を知る時に、
人族を含む、この世界の生きとし生ける者は、全てを失い。
混沌に帰る事になる。
なぜ、自分達の栄耀栄華が失われたのか理解できるはずも無く。
そして……
この世界は、混沌に還る。
たった一つの命だけを残した、柔らかで慈愛に満ちた声が語り掛けた。
”私の子、全てを貴方に。 想うが儘の世界を作りなさい”
幼子の耳に届いた、原初の言葉。
その幼子が、最初に紡ぎ出した言葉。
「真に平穏なる、慈愛に満ちた、光あれ!」
神は言った。
「光あれ」
と。
聖書が近くに有ったので、最初のページの最初のセクションに乗ってた言葉からの着想です。 此処まで読んでもらって、有難うございました。 短編で、世界線が平行世界って事で……
出来心です、ほんの出来心なんです。
すみません、やらかしました!!