94.次の場所は
「はぁ?シャイエに行く?」
「うん」
マート君がはてなマークを頭にいくつも浮かばせている。
「シャイエからダイジェとなると、かなり遠回りですね」
リアンヌさんが出だしから発言するとは珍しい。ちなみにダイジェとは闇の国だ。
私は、ラジからお叱りを受けた次の日の朝、再びナウル君の部屋で集合した皆にこれからの予定を告げた。
「端と端に位置しているのは地図で確認済み。分かっていての判断よ」
滅びた場所に期待はしていない。
「なんか気になるから。ただそれだけ」
この気になるは、解消すべきだと。寄って損はないと私の内なる声は言っているのだ。
「私の勝手な判断だし、ついてこなくていいわよ」
もう充分付き合ってもらったし。だから適当に此処で体を休めて皆は帰ってと口を開きかければ。
「ならば保存食の量は増やした方がよいですね」
リアンヌさんが、メモをとり始めた。
「そうだな。まだ住人はいるかもしれないが、治安など最近の状況は把握していない。リューから話を聞くか」
ラジがリアンヌさんに話しかけ。
「移動手段はどうしますか? 途中まで転移盤を使用すれば日数の短縮が可能になります。ただ一部王族のみ使用の場も」
ナウル君が日数を計算しはじめた。
「俺、稼働させる鍵を持ってるぞ」
マート君が首から提げていた重たそうな鍵を取り出した。
「あ、そういえば王族の方でしたね。すっかり忘れていました」
「あんだと?! どうみても俺は身分が高いだろ!」
ナウル君とマート君の争いまでスタートし、室内が一気に騒がしくなる。
「うるさいわよ! 発言は一人ずつ!」
キレる私をよそに窓辺ではノアとワニモドキが日に浴びて寝ている。いや寝過ぎよ!
「いやいや違う! そもそもおかしい!」
「「何がおかしいんだ?」」
立ち上がり頭を振る私を皆は見上げて首を傾げた。
「だからー! もう世話にはなりっぱなしだし、あと最後の神器を集めて終わりだからいいわよ」
「それは本心か?」
ラジの間髪入れずに投げられた言葉に思わず間が空いた。
「…そうよ」
昨日といい弱っている場面を多々みせてしまっている彼には強く言えなかった。
……その肩に寄りかかりたい。
一人ぼっちは不安で怖い。
なによりも
──寂しい。
ふいに周囲に影ができた。
「昨日ので伝わらなかったのか?」
覗きこまれた瞳と目が合う。
「頼れ」
信じるなとか言ったくせに。
「利用できるモノはしろ」
命令口調なのに瞳は優しい。
だけど。
「近い」
私は、伸びてきた手を払った。
「おやおや。色男も形無しですねぇ」
粘着質、ナーバスさんが楽しそうに笑った。
「救世主、この男が言うように何でも使うべきですよ。ああ、ただ我々は途中、転移盤を使用する場までという形をとらせて頂きます」
「何でお前が決めてんだよ」
マート君が鼻息荒く意義を申し立てた。
「何故なら、私は忠実な家臣ですから。マトリュナス様は、ご自身の立場を存じてらっしゃいますよね?」
声色が変わった彼は、まとう気配も変化した。まるで真冬の海に足を入れた時のよう。
「━━チッ、わーったよ」
にらみ合い、というか一方的にマート君が粘着質さんを睨み付けていたが、最後は部下の勝利であった。
「という事で、この人数で荷造りの準備を進めてよろしいでしょうか?」
「…よろしくお願いします」
笑顔のリアンヌさんに勝てるわけがなかった。




