90.兄弟の語らいより私は情報が欲しい
「ちょっとー、それくらいで止めておかないと剣でバラバラにされるわよ。というか怪我人がいる部屋なんだから静かにしなさいよ」
マート君に睨まれた。何故に?
「ユラが一番煩い!菓子まで持ってこさせておいて寛ぎ過ぎだろ!イテッ」
「ちょっと!指差さないでよ。嫌いなのよそれ」
マート君が私に向けた人差し指を手ごと包み軽く逆に曲げてやる。優しさはあるから加減はしている。
「乱暴な奴だな!」
私の手を振り払い指を確認するマート君。王子様オーラが消えてるぞ。
「大袈裟ねぇ。それにしても疲れたわ。糖分いくらでも摂りたくなる」
本当は今すぐベッドにダイブしたいけど、そんな事をしたらもう夢の中は確実だ。
はぁとため息をつきながらもアップルパイのような焼き菓子を大きめにフォークでカットし口に次々放り込む。
「おいしぃわ~」
酸味が強めなので激甘なんだけどうまい。調理師最高。いや、菓子職人か?
「なぁ、聞かないのかよ」
しつこいマート君がソファーで足を組み偉そうに話しかけてくる。
「何がよ? 私が兄弟の熱い語らいを聞いて楽しいわけないじゃない。上手くまとまったんならいいでしょ」
機会は作るけど後は知らないわよ。それに部外者が参入しても余計に絡まるだけでしょ。
「ユラ様。その生物どうされるのですか?」
ナウル君、イラッとしたわよ。
「あのねー。君はライフラインに重要な湖の枯渇を改善させ国に貢献し、今や印象度アップの騎士さんよ。今さら堅苦しいのいらないから普通に話なさいよ」
「罰は受けねばならない」
何度言っても座らず窓際に立っているラジが言った。低い女心をくすぐるボイスにイケメンなのよ。そのうえ誰にも公平であろう上司の鏡。
…だけど。
「ブフッ」
駄目だ。
また笑ってしまった。
「ほ、ホントごめん! 早くその姿に慣れるようにするから!」
子ワニが頭に乗っているだけでこんなにもイケメンが台無しなんて知らなかったのよ。
「それ、聖獣ですよね」
発言は、まさかのナウル君。
「え、知ってるの?! あ、ごめん」
詰め寄る私にドン引きのナウル君。そりゃあベッドに足をかけ襟首掴まれたら嫌よね。
でもね重要なのよ!
「だってさ!さっき書庫で本をじっくり探そうと行ったのにないのよ!」
あんなに頑張ったのに!
「壁しかないのよ! 扉すら消えてるなんておかしくない?!」
許せないわ!
「うるせー!落ち着けよ」
「まだ焼き菓子がございます。此方も口に合うと思います」
何故かマート君に叱られ、リアンヌさんにお菓子を追加された。いや、これも美味。じゃなくて。
「大声は悪かったわよ。で?」
ナウル君に先を促せば、彼は予想外な事を教えてくれた。
「多分ですけど、中に在るんじゃないかと」
示した先は、ラジの頭の上にいる子ワニのお腹だった。
「え、君、私の話聞いてた?」
どういう事よ?