82.とりあえず守るわよ
「暫く寝食を共に旅した仲間がお兄ちゃんなんて、ドラマだわね」
ベタな展開にもみえるな。
「真面目に説明しろ!」
「粘着質さん達、雇い主を傷つけられたくなかったら少しの間しっかり掴まえておいて」
「なっ! ふごっ」
キャンキャン吠えるマート君の口が塞がれたのを確認しナウル君に向き合えば、もう彼の顔は下がっていない。
「この仕事終わったら強い壁作ってあげるから二人で話したら?」
「…問わないんですか?」
表情とは目ではなく顔の筋肉で変わる。今の彼の顔は乾いた少しの笑み。
「とりあえず、あの湖終わってからかな。あ、それより前にやる事があるか」
私は、ナウル君に手を伸ばした。彼は、私の手が近づくと逃げようとしたけれど背後にいたラジに目で指示を出し肩を押さえてもらう。
なんだか目で通じるなんて微妙に嫌だと思うのは私だけ?
「無理ですよ」
細い銀色の首飾りに触れた私に消えそうな声が耳に入る。
「ナウル君、ラジに終わらせてもらいたい命なら私に頂戴」
体に力が入ったから無言でも彼が驚いたのがわかる。
「助けたいのは、護りたいのは人? 物?」
「グッ」
私は、触れていただけの銀色の細い輪を強く掴んだので私の手が喉を圧迫しているからか、彼の口から呻きが漏れた。
「本気で助けたいなら、それを出来るだけ正確に頭に思い浮かべて」
「や、止めて下さい! 失敗したら壊れる!」
──という事は物なのね。
「あのね。私を誰だと思ってんの?」
震えていた彼が私を見た。
「神器従えた私に勝てる奴がいるのかしら?」
なんか、弟みたいな君を見捨てらんないのよね。
『こんな事に神器を使用するなんて信じらんねー』
珍しく火から言葉が送られてきたと思えば、クレームかしら? 人になった時、その立派な髪の毛をむしってやると心で呟けば、慌てた気配がした。
弱い、弱すぎよ。お姉さんは、もう少しガッツのある子が好きだわ。
「俺を助けても利点はない」
ナウル君、まだ言うか。しょうがないなぁ。
「ノアが、朝からずっと君の後ろにいるの知ってる?」
そう。ノアは、鳴かずじっとナウル君の背後から視線だけよこしてきていた。
「ノアが君を気に入っているから。理由はそれだけ。でしょ? ノア」
「…フン」
何も咥えてないのにあえての鼻息返事。そっけないが、尻尾は大きく揺れている。
「流石に長くは無理だから早くイメージして。君もその大事な物も守るわよ」
力が手に集まりだし虹色みたいな色が出てきた。
「今よ。頭の中に描き強く思いなさい」
熱を手から感じた。
カシャン
「とれた…」
首から外れた銀の環はナウル君の膝に落ち、それを信じられない様子の彼は、握りしめた。
「あ」
彼が掴んだ瞬間、その環は崩れあっという間に粉になり消えた。
いまだ固まった彼の背中に力を込め正気になるよう戻ってくるように軽く、いや実際はかなり痛いかもしれないが叩き、目の前に彼が守りたい、あるいはずっと弱味になっていた品が入る袋を揺らせば、驚愕の顔。
「はい、いっちょあがり。次は君の番。今からすぐ出発よ」
お姉さんは、疲れたので見物人になるから。だから、しっかり働きなさいよ。
「ユラ! 俺も行く!」
「えー、嫌」
「何でだよ!」
「煩い男は嫌いだからー」
私は、外野のマートくんの文句に適当に応えながら湖までどのルートを通るべきかを考えていた。