78.上司と部下に鉄拳を
「いい力を隠し持ってるわね!」
まともに魔力の塊を受けた私の両手はすぐに限界を迎えそうだ。さっさと済ませよう。
「いくわよ! 水と地よろしく!」
「あっ!」
放った本人は、私が何かをしようと気がついたようだけど、もう遅い。ナウル君に向いていた体を反転させ固まって動かないギャラリーに叫ぶ。
「そこっ! 避けないと首と胴体が離れちゃうかもしれないからね!」
彼らの動きは素早かった。いっきに開けた道に狙いを定め剣を決め台詞と同時に思いっきり振った。
「かっとばせー!」
ナウル君の風と地の力の塊は、他の力も加わりかなりの距離を飛んで行き爆風の後に爆音となり森の奥で土煙が上がった。
「いやー、これ間違いなくホームランでしょ!」
私は、朝日を右手で遮り狙い通りの場所に打ち込んだ事に自分の出来の良さに興奮した。
「ユラ、これが急に倒れたが」
すっかり忘れていた人物、ラジは困惑した様子で戦っていた地面に転がり意識のない狼さんみたいな人を剣でつついた。行儀悪いな。剣先が当たってるし、今にもぶっさしそうだけど平気なの? あ、倒れた訳か。
「あー、ちょっと取りすぎたかも。その人、魔力量が多いらしいしからコーティングするのに急遽もらっちゃった」
荒々しいナウル君の力を包み込む為に力を利用したのだ。相手の力を取り込むのは集中しないと制御が難しい。
まぁ最悪、力を取りすぎて死にかけそうになったら光に頼むかと自分を納得させての行為だ。いや、私にとって実は結構重い選択だった。剣はいまだ握ったままだけど膝をつき呆けた彼に近寄った。
「ナウル君、立って」
失敗したら狼さんの男は干からびていた。でも、ナウル君から全て貰う事、ようは命とこの転がる男を天秤にかければ迷わなかった。
「あ、ラジッ」
ふらつきながら立ち上がった彼に待っていたのは、容赦ないラジからの鉄拳だった。
それ、私がやろうとしたのに! 素早い動きの彼に間に合わず先を越されてしまった。
「しっかし、やり過ぎじゃないの?」
こんな、ぶっ飛ぶものなのか? それくらいナウル君は飛ばされた。
「ナウル」
「副団長、俺、いえ私は」
ラジは、剣を抜き。
「何か言い残す事はあるか?」
彼のラジの顔は見えない。
細いけれど引き締まった身体からは、殺気が怒りと悲しさが伝わってきた。
「あり…ません」
ナウル君は、剣を鞘に納め地面に置いた。ラジが腕を上げた瞬間。
「ねぇ、私の苦労が台無しだから殺るのも殺られるのもやめてくれない?」
部下もどうかと思うが上司もアホだ。 私は、右手をグーにしてお仕置きをする為に二人に近づいた。