71.食べて飲んでその後は?
「皆さんに手伝って頂き今日はぐっすり眠れそうです! 作ったのは私ではないけれど、今夜は沢山食べて飲んで明日からよろしくお願いしますー! カンパーイ!」
夜の宴の音頭をとり、私は立ったままイッキ飲みした。
「ぷはー! うまいっ!」
いやぁ、体を動かした後の一杯は最高だ! まあブドウジュースなんだけど。
「短時間のわりに見違えたな」
「遊んでいたじゃないですか」
「あ? 俺も動いたぜ」
「壺を割ったの見ましたけど」
「あれは声をかけたお前が悪い! それに俺は客だ!」
「そんな態度の悪い王子なんて見たことがないですけど。あ、いらっしゃいました。此方に」
「あぁ?!」
マート君とナウル君は、仲がいいのか悪いのかよく分からない。まぁ若い者同士だしなぁ。
「若いっていいわよねー」
私の言葉に二人は「コイツ、何を言ってるんだ? 」と言わんばかりの顔をされた。
「ユラ」
ふっと私の左に影ができたと思えばラジだ。相変わらず気配を消すのが上手い。
「どういうつもりだ?」
その目は地の国で一緒に夜を過ごしたとは思えない鋭い視線。あれ? でも甘ったるい時もあったのになぁ。
「んー、大した事はしないわよ。だから、そんな緊張感出さないでくれる? 周りが勘ぐるじゃない」
私は、持っていたグラスを置き、両手でラジの両頬をそれぞれつまみ円を描くようにひっぱって離す。ムッとしたラジの口元に私の飲みかけのグラスを軽く押しつけ、煽るように上目づかいで言ってみる。
「間接キスはいかが?」
ラジは、眉間のシワをそのままに無言で私の手ごとグラスを掴み、残りを飲み干した。
「ほら、お酒じゃないでしょ?」
本当は飲みたいんだけどね。そんな私に、諦めた彼は。
「無茶はするな」
ふいに見せるラジの、しょうがないなっていう顔が実は結構ツボ。
ホント優しいよね。
「了解~」
それに比べて私は。
「キュキュ」
宴会の場と城内を一周してきたノアが、私の肩に飛び乗ってきたので、首輪のあたりを軽く掻いてやれば喉がなった。
「ノア、大丈夫そう?」
「キュイ!」
「アハハ、そっか。ありがと」
自信満々に胸の反らしたので笑ってしまった。可愛いなぁ。
「じゃあ、私達も食べますかね」
「キュ!」
ノアは、返事をした直後、自分の顔くらいある果物にかぶりついた。私も負けじとお肉の照り焼きにフォークを刺し今日は無礼講よねと、カットせずに塊をほうばった。
* * *
食事をし始めて約一時間後。
「ご馳走さまでした! 美味しかったけど食べ過ぎたなぁ」
お腹をさすりながら、空腹が満たされ重たくなった体で立ち上がれば、椅子の音がいやに大きく感じた。
「壮観というか異様?」
広い宴の場を見渡せば、椅子にもたれ掛かる者やうつ伏せになっている人と状態は色々だけど共通点がただ一つ。皆、夢の中だ。
「一人ぼっちっち~」
「キュ!」
「あ、ノアがいるわね」
抗議されたので訂正します。一人と一匹でした。
『ユラ』
違った。まだおります。
「なんか、皆出てくると濃いわねー」
私の隣には、インパクトの強い神器の方々がいらっしゃる。いや、お願いしたのは私だけどさ。
「時間がもったいない。さっさと始めますか」
私は、この世界の人を100%信じない。
それは、間違っていないはず。
なのに。
ラジやナウル君、リアンヌさん達の眠る姿を見ると少し苦しい。
いいえ。
私は、何故か強い罪悪感を感じていた。