70.まずお掃除しましょ
「こりゃ駄目だ。まず掃除しましょ!」
吊り橋を渡り、お城にしては小さな扉を開ければ想像していたよりはマシだった。常に最低限は清掃しているとは言っていただけはある。
だがしかし。
「やっぱりカビ臭い!」
入ってすぐの玄関ホール的な場を集合場所とし各自頼んだ場の掃除をしてもらう事にした。
「今日は、特に調理の方すみませんがよろしく!賃金弾みますから! 皆さんにも割り増しします」
何人かの恨めしそうな視線を感じたのですかさず付け足しておく。次に、数歩後ろにいるリアンヌさんに小声でスケジュールを伝えた。
「リアンヌさん、面接は後にして、他から先とりかかります。今日は数時間掃除に専念し、飲み食いパーティーをしますね」
「清掃などさせてよろしいのですか? 先程のお話ですとあまりよいとは思えませんが」
『やる気のない人、間者はいらない』
私の後半の言葉を気にして、部屋に何か仕掛けられたりしたらと気にしているんだろう。
「大丈夫です。後で全部屋確認します。光にも協力してもらうし。むしろ宴会後が大変かも」
「片付けがでしょうか?」
「いえいえ。ホイホイ作戦一回戦目をします」
「おぃ!ユラ」
首を傾げたリアンヌさんの後ろで不機嫌そうな男子が1人いや、性格にはマート君を合わせて計5名か。
「何? あ、王子は掃除させないほうがいいのかなぁ。でも体力有り余ってそうよね」
いわゆる水の国からしたらお客様だしな。
「マトリュナス様、女性を呼び捨てにされるのはよくないかと」
「お前、相変わらず細かいよな」
見た目はいいけど、粘着そうなイケメンが、この世界ではあまり見ない眼鏡の真ん中をくいっと上げ進言している。
というかですね。
「本当に申し訳ないんだけど、名前覚えるキャパがもう限界で、馴れるまで勝手に名付けていいかしら?」
「バカなのか? まーいい。試しにどんなのだよ?」
言ってみろと王子の許可がおりたので、マート君の国から来ている護衛さん達を指差しは失礼なので目で順に伝える。
「爽やか君、筋肉さん、イケメン」
そして最後に専属執事みたいな人に。
「粘着質さん」
「ブフー!! 最低だなユラ! でも合っている! ナーバスにそんな事言ったのお前が初めてだぜ! ユラ、お前救世主でよかったな!じゃなきゃ瞬殺されているぞ!」
「ナーバスさんという名前だったのか。ならば神経質さんにすればよかったかな? いや、でもこの雰囲気は」
「…ユラ様、お名前頂いた事は、このナーバス生涯忘れません」
ほら、こういう目がまさに粘着なんだよ!
「ユラ、どうした?」
腰を曲げ爆笑する地の王子にジト目のナーバス、他、困惑の護衛達と無表情のリアンヌさん。
騒ぎを気にして近づいてきたラジは、カオスな状態を見て不思議そうな顔をした。