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67.再びジャスダに乗ればラジの過去を知る

「ごめん。遅くなった」


ラピスラズリの石の謎は解けぬまま、とりあえず集合場所に戻れば、準備を終えたまま待っていてくれた皆は微妙な顔。まぁそうだよね。今、私はまぶたが膨らんで、いや腫れているのが自分でもわかるくらいの酷さ。


「おぃ」


マート君が最初に声をかけてきた。私は、年下なくせに背は私を通り越している彼に手を伸ばした。


「なっ何すんだよ!」


ギュウッと抱きしめというか抱きついているように見えてしまうがしょうがない。


次に、体を放し彼の背中をおもいっきり叩いた。


「いってーな!」


角が生えた彼はやっと私をちゃんと見た。


「ねぇ、君のお兄さん、最高にカッコイイわ」


恐らく怒鳴ろうとしたマート君の口は、そのまま金魚のように口が開いたままだ。


「最後、あなたに見せたくなかったのはプライドだよ。兄としての」


私も長女だから、なんか分かる。


「あんなお兄さんいて幸せだね」

「…変なやつ」


私は、妹からみてどんな姉なんだろう。きっと頼りなくて、詰めが甘い小うるさい奴かな。


マート君、顔を背けても、なんか顔赤いよ。


「ユラ様」

「リアンヌさん、ありがとう。さて、出発しますかね」


リアンヌさんが、そっと濡れたハンカチを渡してくれた。


まだ泣きそうになるけど。

──今は前に。




* * *



「暫く目が細いままだな」


ジャスダに乗りまた空の上。ラジは本気で言っているわけではない。だがしかし! マスカラとアイライナーを使用してきた私にその整った顔でその発言をするとは。


許しがたい。


足場が透け透けで踏ん張りがきかないから。というか力業では勝てない。ならば!


「何がしたいんだ?」


「本当に面白くない!」


世の中にはくすぐったくないタイプもいるのか。もう無視をきめこみ縁に肘をつき景色を眺めていた私の頭をゆっくりと撫でてくるラジ。


年下は好みじゃなかったんだけどなぁ。それに最近なんかガードが緩い自分も嫌。


「お姉さんとは久しぶりに会ったの? とても綺麗な人だね」


なんか今なら少し踏み込める感じがして聞いてみた。


「手紙のやり取りはたまにしていたが、随分間が空いていた。あそこにいれば確実とはいえないが戦とは無縁だ」


それに近づくと逆に迷惑をかけると言うので不思議で。


「兄妹なのにどうして?」


家族に会うのがいけない事なの? 私の質問で頭から手が離れ、今度は毛先を遊ばれているようだ。


「姉との繋がりは半分だ。母親が違う。ユラも気づいていると思うが、俺の瞳はミュランとも他の国の者とも違う。かつて、遥か昔、この世界を支配していた一族の血が混ざっている」


「…危険視されているから?」


何かを諦めた笑いが背後でした。


「それだけならいいが。当時、姉は体が弱いながら強い力を中に持っていた。ただし解放すれば恐らく身が持たず、すぐに終わりがくるとも。だが他国は違う。美しく強い力を内に秘めた娘を欲しがった」


驚きと混乱でわからなくなってきた。ただ、何で、それが会いづらい事につながるのか。


「ミュランは、無駄な戦は望まない。だが小娘一人のお陰で乱れようとしていた。ならばどうしたか。娘の弟が、今は亡き一族の血をひく子が姉を欲している。姉としてではなく。そんな噂を流した」


何それ。


「姉は、弟を恐れ神域に逃げ込んだ。神域は独自の規則があり、またどの国にも属さない。姉はそこで身体を休め、力を徐々に解放しこの世界の安定につくし始めた。そしてその後、良き伴侶を得た」


私の髪から手が離れた。


「全ては作り話なはずだったが、そうではなかった」


「本当だったって事?」


首を振るラジの表情は何を考えているのか読めない。


「俺は、そういう気持ちではなかった。ただ、俺は尊敬していただけだ。瞳の色は関係ないと私の只の弟だと言い切る姉を。だが」


「だが、何?」


「姉は違っていた。ある日、随分前から弟ではないと言われた」


ラジは、数歩下がった。


「俺は、抱きついてきた姉を突き飛ばした」


ラジの静かな澄んだ目は変わらない。ただ、私との距離が更に数歩下がるラジによって空いた。


「姉に裏切られた気がし、とにかく気持ちが悪かった。それは女というだけで嫌になるほど悪化していった。その後、姉は神域に半ば強制的に連れていかれ俺は、ほっとした」


「今は? 昨日見た感じだと普通の仲のいい兄弟にみえたし正直そんな事があったようには見えない」


確かに最初は、この美人何者かと思ったけど。


「姉は、心が弱っていたのだと、今ならそう判断がつく。戦で親や親族は死に、自分と同じ幼い友も戦力になる者は駆り出された」


スフィー君の顔がふと浮かんだ。


「なんか、ただ悲しい」


「貴女らしいな」


というか当事者じゃないから、わかんないよ。


「とにかく、お姉さんは旦那さんと幸せよね。じゃあラジは? まだ噂ながされてるとか大丈夫なわけ? 見た感じ部下には人気みたいだし」


「当時を知る者は戦死し、または引退している」


なら。


「じゃあ、なんで後ろに下がってるの?」


珍しい。

ラジが困った顔をした。


「いや、情けなさがでてきた。…俺はやはり側にいるべきで」


「はい、却下。ん」


ラジの前に手をだした。

どうしていいかわからないらしい。


「なら、掴んで。私は出会う前のラジは知らない。でも、今のラジはわかるよ」


早く掴みなよと手をさらにつき出した。


「ラジの事好きよ。ただ、彼氏とかは今は余裕ないから無理だけど」


私の手にラジの指先が触れた。


「いいじゃん。それで。今が大事だよ」


考えるのは悩むのは悪くない。でも、今は、私と一緒に次に行こ。


「ちょっと」


手を強く引っ張られラジの腕の中に入ってしまった。


「ユラ」


「はい!ストップ。軽い抱きしめはいいけど、その先はなし。私、緩いから元来のお堅いタイプに戻るんだから!」


ラジの腕を剥がし腰に手をあてそう高々に宣言すれば。


「ユラ、貴女が愛しい」


破壊力満点な笑みで砂糖の攻撃を受けた。


「なんで、この場面でその台詞?!」


「救世主ー! 煩いぞ!! また枯れるから静かにしろ!」


マート君がなにやらキレ出した。


「枯らせないわよ!」


「実践済だろ? 不安しかねーよ!」



失礼な奴!


そんなやり取りは暫く続いたのだった。



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