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66.彼の忠告

『お早うございます? それとも今晩はかな?』


それは、そんな穏やかな言葉から始まった。


てっきり私は手紙でも入っているのかと思えば、映像が流れ出した。小さいけれど立体的なスフィー君の上半身、ベッドで半身を起こしている彼が映った。


『言葉を残すべきか悩んだんですけどね』


困ったように首を傾げる仕草に、この子がもういないなんて信じられなかった。


まだ全速力で走ったせいで呼吸が落ち着かないのに涙まで溢れてきて苦しい。


『まずは、ユラ様の神獣にお礼を。痛みと無縁で最後を過ごせそうですよ。ノア、来てくださってありがとうございました』


「ノアが? あなた何をしたの?」


「キュイ」


話なんて知るよしもない彼は笑った。


『ふっ。すみません。きっと貴女は今、ノアに話しかけているんだろうなぁと手に取るように分かってしまって。あってますか?』


ドンピシャよ。そして、そんなに私って単純かしら?


『貴女が彼と関係を持った日、ノアがふらりと来たんですよ。そして私に癒しの力を放ちました』


「まてまて。前半の言葉。何でそれを君が知っている!?」


またもや笑うスフィー君。


『ユラ様。神獣は文献によると姿を変える事もできるそうですよ。ノアは雄ですよね?』


…もしや嫉妬とか?


隣に大人しくお座りしている相棒をそっと見れば、目が合ったノアは、私から視線を外した。まさか本当なの?


『お伝えしたかったのは、闇に入国したら人を特に近い者達を信じないようにして下さい』


「どういう意味? 疑えというの?」


真面目な口調のスフィー君からは冗談や嘘を言っているようには見えない。


『ほら、今、すぐ僕の話を信じたでしょう? そういう所がユラ様の良い部分でもありますが、利用されやすいのです』


えっ、嘘なの? また笑ってるし。


『本当に貴女の顔が想像できてしまって。すみません。嘘ではないですよ。もうすぐ死を向かえる私が偽りを言っても何の特にもならない』


「スフィー君」


『本能を人は抑える事を徐々に学びますよね。でも闇は、それを解放出来るそうです。あくまで文献の情報ですが。だから、油断しないで欲しい』


難しいな。


『あとは、先程の神獣が変化が可能なのは周囲に親しい者にも言わないほうが良いと思います。何故なら持っている物を全てさらけ出す必要はない。それは冬の神や春の神に対してもです』


誰も信じるな。疑えという事か。


『僕は、最後に貴女がどんな選択をするのか知る事が出来ないのが残念です』


次のスフィー君から小さく呟きが漏れた言葉が気になった。


『…神々は、果たして貴女を帰せるのか』


それは、どういう意味?


『長くなってしまいましたが、無事神器を手に入れられるよう祈っております』


…なんかいきなり話が終わらされた気がする。


そうだと声をだし、彼はまた微笑んだ。


『ああ、一つ貴女に差し上げたい物があって。僕がこうなる前に力を編み込み入れた品なのですが。役に立たないほうがよいのですが、念のため。それに使用せずとも眺めても綺麗だし。女性は好きかと思いますので』


何だろう。気になるじゃない。


「光が弱い?」


映像が薄くなってきている。


「スフィー君!」


『そろそろお別れのようです』


「待って!」


言ってもしょうがないのはわかってる!

だけど!


『貴女は、僕を見て訝しげな顔をし、同情してましたよね。またかと、その時、思いました』


同情。確かにそうかもしれない。


『僕は、火の国に差し出されそこで死にました。身体は情けで国に返され、それから偽の生が始まり長かった。化け物の僕は弱くて国を離れれば楽になれるのに。マートを見ているとそれもできなくて』


スフィー君は、笑いながら泣いていた。


『すみません。泣いたのなんていつぶりかな? ユラ様、貴女の同情心は他と違い嫌ではなかった。そこに僕を嫌悪する気持ちは欠片すら見えなかったから。驚き、また嬉しかった』


腕で涙を乱暴に拭いた彼は、子供ではなかった。気高い上に立つ者の目。


『セリザワ ユラに我、スフィール・ベル・ナ・ヴィン・グラーナスの…を』


一部聞き取れない言葉があった。でも何かとても大切な事を私にしてくれた?


「えっ」


身体がふんわりと暖かい何かに包まれた。


『僕の護りを移しました。いずれ役に立つと思います』


「まっ、待って! 消えないで!」


広がっていたはずの光がもう狭くなってきて。


『さよならはやめた。また、会えたらいいですね』


笑った顔が最後だった。


「なんでよ。もっと足掻きなさいよ!」


違う。


「それは…私の勝手な気持ち」


わかってるけど涙が止まんないよ。


「どうしてくれんのスフィー君」


悔しい。なんか…わからないけど、そう思う。


「強くなりたい」


誰も、もう手の届く人達を死なせない。目を手で擦ろうとしたら。


「手が砂だらけって何か手に」


手に握りしめていた小さな器は、砂になっていた。その砂に紛れていたのは、綺麗な青い雫の形の石。銀色の花の細工が上部を覆い鎖を通せる穴があった。可愛いけど、それより。


「これ、この石」


私の小指の指輪と同じラピスラズリの色だった。




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