63.ラジウスside~渇望~
此処は神域。あの血の気が多い火の国でさえ手を出さない場所だ。だが、彼女が清める為に去った後、嫌な予感がした。
「お止めください!」
神官達の制止の声を無視して扉をいくつかくぐり入室してみれば一番居るべきではない者がいた。
あの夜。
ユラの身体に魔力を与えた。俺の力は微弱にゆっくりと力を流せば一時的にだが精神の高ぶりを宥める効果があるからだ。
夜が明けるまで彼女に流し続けてまだ回復していない俺はダッガーの投げた何かに簡単に捉えられた。
「ダッガー殿!この場所では剣を禁じられているのを忘れてはいまい!」
神器を使えない彼女とダッガーでは力の差はわかりきっている。理解できないのがダッガーはユラに好意を持っていたはずだ。
だが、今の奴からは間違いなく殺気が出ている。
そういえば、何故ノアがいない? あのヒュラウが離れているのがおかしい。焦りながらユラに問えば。
「私にラジの匂いがついちゃったから嫌で近づいてこないのよ! 」
俺の匂い?
自分でも分かるほど一気に熱が顔に集まった。
怒鳴る彼女の姿は、服が水に濡れ体の線が露になっており夜の姿を容易に思い出させてくれた。
戦は人を壊れさせる。身体だけでなく先に心が持たない者も多い。
俺は、眠りながら叫び震える彼女を見て良いとは言えない選択をした。
壊れてほしくなかったから。
ただそれだけ。
『ラジ』
何度も名を呼ばれた。
甘い声に折れそうな腕と細い腰。
怯えはなく慣れていると感じた。
だが、彼女は初めてだった。
『まさか』
『あっ、もしかして若返ったからかな…』
もっと優しくすればよかった。
あの地下での事を忘れさせたくて乱暴にしてしまった。そんな気持ちのなか、黒くだが無視できないほどの強い喜びも得た。
身体だけの繋がりだ。
わかってはいたが、近くなれた気がしていた。
なのに、また間をおかず現れた。
ダッガー・フォル・セス・ヴァーリア
風の国、ヴァーリアの王位継承第三位だが人望が厚く王位に最も近いと囁かれている男。
奴を通し軸となっている者に残っている力を飛ばした。多少は効いただろう。
この様子だとユラを消す事はないと確信をもてたが、意識を失いたくない。命は奪わないまでも何をするかわからない。
「ラジっ」
力が、ユラを護る力が欲しい。
ユラが呼んでいる。
返事をする前に意識が途絶えた。