60.せっかく来たのに
「ラジウスの姉です」
ラジの好みは、ボインではなくスレンダーだったのか! しかも美人は当たり前。うん、私に絡むなと苛立っていたのにアッサリ終わる。
私達は、フレンドリーな出迎えを受けた後すぐ神殿に案内されてた。
そして今、こじんまりとした応接室で私と態度は難ありだけど地位の高いマート君がラジのお姉さんの正面のソファーに。壁近くには、ラジ、リアンヌさん、ナウル君が座っている。
この後ろ三人がまた身分や警護やら言い出し椅子に座る迄に時間がかかっのだが、私が立たれていると落ち着かないと騒ぎ、またラジのお姉さんの助けもあり座らせた。
立場によって大事なのはわかる。でも、たかだか椅子に座るだけでと思う私はやはりこの世界の人ではないんだと改めて感じる。
「紹介が遅れましたが、私は、セスタと申します。今はこのジュノール、聖域と呼ばれる島を護っております」
「セスタ様は、神官長よ。そして私の大切な方」
頬をそめるお姉さんに10歳は上であろうセスタさんは、可愛くてしょうがない!という甘い視線。
正直お人形みたいなお姉さんの隣にいる神官長さんは、威厳はないし、顔も失礼ながら人がよいと一目みてわかるくらいだが、ハッキリ言って整っているわけではない。でも二人を見ていると仲の良さがまるわかりというか駄々漏れなので羨ましい。
至近距離のラブラブは凶器だ。
本能でこの攻撃をかわす為に目は細く、意識がそれていく。
「わざわざこの場所に足を運ばれたというのは、何か心配事があるのでしょうか」
そう。忘れかけていた本題。危ない危ない。
「実は、今まで聞こえていた神器の声が全く聞こえないんです」
「それは、いつ頃からでしょうか?」
「えっと」
地の国での事を、いつからか光と会話が途切れがちになったかを思い出せるかぎり話した。
「ざっとですが、こんな感じです」
前に座る二人は、ただ穏やかに、でもお姉さんは少し悲しそうな、同情したような顔で。
「奥に清める場所があるのだけれど」
「是非。今からお願いしたいです」
即決したのに。
「ただ、効果はあまりないかもしれないわ」
なんとも頼りない言葉が返ってきた。
* * *
「最悪冷たい水で滝にうたれるとか想像していたんだけど」
案内されたのは、とても小さな水のたまる場所。
半屋外というか周囲は円形で岩をくりぬいたような状態。上は屋根がなく空が見える。湯飲みの底にいる感じかな。
足元はタイルのような白い石がひかれていて片足を入れてみると。
「温水プールのような温さ」
冷たくなくてよかった。
1つ不満は。
「この薄いとはいえ服を着ながらっていうのが、はりついて嫌かも」
薄いグリーンのなんの飾りもないワンピースを1枚着せられて。水のたまる場所の深さは、一番深い箇所でも腰くらいかな。とりあえず膝まで入ってみたけれど、足首辺りまであるので、できるだけスカート部分を結んではいたものの濡れて肌に生地がくっついて気持ち悪い。
「あれ? 魚がいる」
小さな魚が足元をすり抜けていく。こんな温度の高い水の中でもいるんだ。手で水をすくってみた。
掬った水を上から落とすときれいな滴が水の上に波紋を作りだす。
「なんで、皆の声が聞こえないのかな」
なんて呟いていたら。
神域で決まった人しか許されていない場所で、一人っきりのはずなのに。
「それは、お前のせいだな」
突然聞こえた声に日差しを手で遮り上を見上げれば。
「よぉ」
いるはずのない人物、ダッガーだった。




