58.出発
「なあ、ソイツいつもアンタにくっついてんのに珍しいな」
「…さあ、親離れかしら」
「キュイッ!」
ノアのご機嫌は、お昼頃に出発してからも継続中で、私から少し離れて宙に浮いたり、歩いたりといくら誘っても肩に上ってこない。
「自分の匂いが消されたからでしょうか」
「消されたって、どういう意味ですか?」
リアンヌさんの言葉にナウル君が反応しすぐに質問をしているが、私はリアンヌさんと視線を絡ませていた。
「ナウル、そちらに乗船させて頂きましょうか」
「えっ、俺はあっちじゃ」
「行きますよ」
「待って下さい!」
離れていく後ろ姿を見ながらなんとも言えない気持ちになった。
リアンヌさんは、ラジと何があったかお見通しだ。目があった時の彼女の様子は穏やかだった。ラジをとても大切にしている彼女には、一言釘をさされるかと思ったんだけど。
まあ、私もラジも成人しているし。
「いや、もしや言わない事が怒ってるとか?」
「なんかやらかしたのか?」
さっきからべらべら煩い人物にずっと気になっていた事を聞いた。
「そもそもなんで君がいるの? 王子様なら国にいないと駄目なんじゃないの?」
そうだ、こいつがノアの事を言い出すからだ。
「俺だって出たくない。だけど女王は国を離れられない。だから水のミュランに援助の礼も兼ねて挨拶しないといけないんだよ」
「マート君珍しくまとも発言」
私の言葉が気に入らないのか、効果音をつけたいほどの勢いで振り向き睨まれる。
「それに馴れ馴れしく呼ぶな!俺は、マトリュナス・ベル・ナ・ヴィン・グラーナスだ!」
えー、ごめん。
「お姉さんには長くて無理。偽メルベ様かマートのどっちがいい?」
睨み付けられても周りの圧のが凄いから、残念ながら、小物にしかみえない。
「…マート」
本来の姿のマートは濃い茶色の髪と瞳の14歳だ。ふくれた顔が可愛い。
「ユラ、話がついた」
「了解~」
ラジに呼ばれた。話はついたようだ。
「気安くさわんな!」
マート君の髪をワシャワシャ撫でたらまた怒っている。つい笑ってしまう。
「さて、行きますかね!」
嫌がるマート君にちょっかいを出しながら、ラジの方へ走った。




