51.一線を越えた日
「あ~気づかれた」
スフィー君の言葉ですぐに手で口をおさえたけれど、もう遅い。
私は、汚い岩の上で腹這いになりながらもリューさんを見つけた瞬間、つい声をだしてしまった。
あれだけスフィー君に音に敏感だから声を出すなと言われたのに。だってまさかあんな状態のリューさんをみるとは思わなかったのだ。
私にとってリューさんは安定感。何があっても大丈夫だと勝手に思いこんでいた。
なのに。
──何事も絶対大丈夫だなんて保証はないのだ。
「ごめん」
「しょうがないですね」
スフィー君、他のメンバーにも目で謝るが皆の表情はいる場所が暗いのでわからなかった。ただ金具の武器であろう音が微かにした。
「じゃあ、もう始めちゃいますか」
スフィー君は、早かったなぁと呟きながら、怒る事もなく起き上がり、まるで退屈な授業を受けた後のような緊張感のない伸びをした後、ラジ達に自分の首を指差して。
「喉、この黒いやつを狙って下さい。でないと止まらない」
次に私のほうに顔を向け目で示した。
「それ、飾りじゃないですよね? 」
「ええ」
私は腰に提げていた物を外し返事をした。
「よかった。数が多いのでジャミロが来る前には終わらせたほうがいいから」
ジャミロって誰?
聞く前にスフィー君は、飛ぶように下に降りていった。皆も。
「まっ、待って!」
私も風の力を借りて人とは呼べない者達が蠢く世界へと飛び込んだ。
「ギャギャ」
「あっ」
『また外しましたね。わざとですか?』
「そんなわけないじゃない!」
下に降りてから最悪だった。
人だった者達は、個人差があり歩ける者、術を使える人もちらほらいる。
『来ますよ。これでできないなら』
「わかってるわよ!」
光から神器は、穢れるような事をすると弱ると聞いてからは、直接手を下すような事は頼まなかった。というかそんな場面は今までなかった。
『ユラ』
「手はださないで」
新しく作ってもらった武器、伸縮ができる棒を走りながら大きく振ると、それは少し形を変えた。
迷いがあって、ありすぎてこの形にできなかった。だからまだ一人も倒してない。
「キキッ」
気味の悪い声、目はないのに異様に伸びた長い足を器用に動かし此方に迷わず向かってくる。その口から鈍い赤い光が見えた。
『術者です』
変形させたそれを両手に持ち狙いを定める。あの赤いのが出されたら不味い。
その前に。
顔は見ない。目指すは黒い点のみ。走り勢いをつけ。
「ギー!!」
変形させ棒の先にある矢じりのような尖った刃は、小さな的を的確に突いていた。
それは、口から力を吐き出すことなく、頭から形が崩れていき、最後は砂になった。
『ユラ、斜め前方、いえ先に後ろを』
「わかってる!」
汗で滑りそうになり武器を握り直す。
考えている時間はない。
でも。
──私は、確実に一線を越えてしまった。