47.ラジウスside
噂とは嘘の中にわずかな真実が織り込まれている。
以前からこの国の不穏な動きは度々囁かれており、まさか半数までとは思わなかったが、驚きはあまりなかった。
それよりもユラの言葉。
『やたら甘ったるい匂い』
戦を知らない貴方が何故わかる?
不思議だった。
俺やリアンヌは、この香りの中に嗅ぎ慣れているモノが混じっているのを国に足を踏み入れた瞬間から感じていた。
それだけではない。
目にすれば、ひれ伏さずにはいられないと噂をされていた、本来なら女王の地位にあるべき人物を前にしてもユラの瞳には驚きも怯えもない。
以前の彼女との会話がよぎる。
『えっ? 元の世界では、普通に机にかじりついて働いているわよ。そりゃあ疲れはしてたけど。だからって毎日、命かけます! みたいなこの生活は、ありえないわー』
自分は普通だと言い張るが、はたして…。
手を弛めれば手にしている鎖が微かに音をたてた。
ミュリは、あの愚かな娘は国を出た。
自分から離れたのだ。
あんなに慈しんでいたリューを捨て。
俺は、いくらリューが切望していたとはいえ止めるべきだったのだ。
いや、事は既に動いている。
今、ここで悔やむべきではない。
…だが。
リュー、無事だよな?
──それに答える声はない。