45.離ればなれの神器
「結界を壊したから驚いたの?」
本物のメルベ様は長い赤紫色の巻き毛を手で払う。美女がやると似合う。はっとし隣のナウル君を見れば。
「グハッ」
肘鉄をお見舞いした。
だってさ。
「何するんですか?!」
「口開きすぎ」
頭にかけている布越しでもわかるくらいナウル君の目はキラッキラで口元はとっても嬉しそう。
分かるよ。
本物のオムネ。
スゴイヨ。
つい棒読みになったわ。
自分を見下ろし…。
「私は何も見なかった」
努力してもこればっかりはなー。
「何が見なかったの?」
「こっちの話です」
心の声がでていたようだ。メルベ様の声で我にかえる。真面目に話を進めないと。髪の色とは違いとても落ち着いた茶色の瞳を見て聞いてみた。
「膜をメルベ様に破られたのは力が強いのもあると思いますが」
光が教えてくれたのもあるけれどメルベ様が現れた瞬間から騒いでいるようなのだ。
「神器、見せて頂けますか?」
──腕輪達が聞けと。シャラリといつもより賑やかな音がするのは気のせいではなく。
「ちょ」
聞いた直後ラジとナウル君が私の前に立っていた。隙間から見ればリアンヌさんも何か不自然な手つき。
「皆、どうしたの?」
隙間から見えたのはメルベ様が何か握っていた。
おや?
日本刀に似ている。もっと近くで見たい。皆に退いてほしい。
「危なくないから。それ神器です」
「だが」
「四つもの神器を持つ救世主がそう言っているのだから間違いないでしょ」
安心させる、敵意はないような態度はありがたいけれど。
その呼び名、本当に止めて欲しい。
「しょうがないわね」
メルベ様はテーブルの上にその短刀を無造作に置いた。
「触れても?」
「救世主だけならいいわ」
そっと持ってみた。思っていたよりも重い。そして今までで一番禍々しいというか嫌な感じがする。
その気配の元は刃の部分ではなく。
「抜いてもいいわよ?」
メルベ様に言われた。
けれど。
「いえ。神器は刃ではなく、これですね」
どす黒い色の場所は、柄の部分に嵌め込まれた細工。骨董屋を営んでいた叔父が言っていた呼び名は。
「目貫」
確か留め具だったのが装飾になっていったと。
特徴は対になっているはず。
「ない」
裏返すとはまっていない。また目貫、形が分からないほど朽ちかけている神器の面を上にし。
「出ておいで。貴方の片割れを探さない?」
その小さな錆びた飾りに呼びかければ。
『…見つけてくれるの?』
空中に現れたのは、人魚のような姿をしたとても美しい女の人だった。