39.合流できたけど
「おーおー。ありゃあ相当苛立ってんな。アンタよっぽど気に入られてんだなぁ。しかし奴がまさかのガキが趣味とは」
ガキって、もしや私の事じゃないでしょうね。
「ダッガー言葉が悪い。ですが、確かに興味深い」
「ちょっと! 頭の上で煩いんだけど」
ガチョウもどきから降り、お尻と腰をさすりながら、いや、だってかなりの振動だったのよ。でも道中、平和にというか大型の獣と遭遇はしたけれどダッガーの1人勝ちでアッサリ終わった。
そんな、まだふわふわした足で、地の国に入る前にある大きな街に着いたら入り口でダッガーとリース君の二人が、私の頭上でなにやら話をしている。
やたら背があるからしょうがないんだろうけど、仲間にいれてよ。
「あそこだ」
「ん?…えっ? ラジ達? 凄いラッキーじゃない!」
ダッガーが指差した方向を目を細めて見てみればなんとなく姿がラジ達っぽい。
私は探す手間が省けたのと、ちょっとの間しか別行動をしていなかったのに見知った皆に合流できて嬉しくてつい手をブンブン振った。
近づくにつれてナウル君はウザイみたいな顔をしていてリアンヌさんは嬉しそうに微笑み…ラジは。
──なんで怒っているの?
いつもと同じ無表情だけど、だいぶ付き合いが長くなってきたので彼が不機嫌なのが手に取るようにわかる。しかも、今はすこぶる悪いようだ。
あと、髪の色が赤っぽくて、頬の傷がなくなっていた。
だから何だというとですね。
美形は、なにしても美形なんだと思ったわけよ。
私もリース君が目立ちすぎるから本当は内緒の能力なんですけどと、一時的に髪の色を茶色にしてもらった。瞳の色も変えるのは可能らしいんだけど、何故か私の瞳には魔法が効かなかったらしく、リース君も不思議そうにしていた。
そして、素材の話よ。彫りの深さっていうのかしら、もう元が違うのよねぇ。
「っと!何すんの?」
頭の中で愚痴っていると、いきなりダッガーに背中を押されつんのめりそうになった。
「行けよ」
「えっ?」
押された勢いで数歩前に進んだ私が後ろを振り向けば、二人は私に背を向けかけていた。
ずいぶんあっけないじゃない。
「ちょ、」
「そうだ。餞別です」
リース君が何かを投げてきたので、なんとかキャッチしてみると、ずっしりとした丸い小さい金色の入れ物が。
「中の粉を今夜髪に振りかければ、あと2日はその髪の色のままです。ちなみにその器は価値があるのでお金に困ったら売れますよ」
「…なんでそこまでしてくれるの?」
この世界にきて、自分でも嫌だけど疑り深くなっている私は、タダの優しさなんて信じられなかった。いまだにラジ達でさえ、100パーセント信じているかと聞かれれば、答えはノーだ。
そんな私に風の国の二人は同時に笑った。
「見返りは求めてないですよ。今は」
「もう少し成長したら貰ってやるよ。こことか」
「いい加減王族の品位が疑われるから止めて下さいよ」
俺様なライオンみたいなダッガーが王族?
いや、カッコイイのよ。でも野性的すぎて好き嫌いは分かれるだろう。つい、またポロリと口が滑った。
「態度は偉そうだったけど…」
「オメー次会う時までに口も成長しておけ!」
「はい、いい加減向こうの視線が強いし、目立つので行きますよ。あっそうですね。私達の名前は覚えておいて損はないと思いますよ救世主」
絶対わざとだ!
「だからっ救世主じゃ…」
「貴方はそのままで変わる必要ないですよ。ユラ」
「じゃあな嬢ちゃん」
だから。
「私は27歳よ!」
ガチョウもどきに乗り遠ざかっていく後ろ姿に怒鳴ったけど聞こえていたか怪しい。
なんだかんだで悪そうに見えない人達だった。
「キュー!」
「ふごっ。ノア!無事でよかった!」
皆の方へ足を向けたら、ノアがジャンプし腕ではなく私の顔にダイブしてきた。べりっとはがし撫でくりまわす。あ~このもふもふ最高。
「ユラ様。無事でよかった。何かまず召し上がりますか?」
いつの間にかお店の椅子に座っていた皆が目の前にいてリアンヌさんに話しかけられて怪我をしてないかチェックされたり、ナウル君も大丈夫ですかと聞いてくれるなか、ラジに目を逸らされた。
なんなのよ!
「じゃあご飯食べてもいいですか?」
私もなんだかイラッとし、ラジに話しかけるのは止めて、もっぱらリアンヌさんとの会話に専念した。
そして次の日。明日、地の国へ入るという前日の夜に、ラジからリューの奥さんの事を初めて聞かされることになる。




