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36.男は当分いりません

「とりあえず身体を休めるのが先ですね」


緑の癒しイケメン、リース君とやらが私のびしょ濡れで砂だらけの顔を見たあと提案した。


「あー? あと帰るだけだろ? それに誰だよこの小娘」


ゴツいイケメンが私をあごで示しながらリース君に吐き捨てるように再度聞いた。そのやり取りの間も抜け目なく私を観察している。


コイツ出来るわ。

そして違う意味でも危険だ。ゴツいイケメンは視線が手首にはまっている腕輪にいくと。


「へ~面白いじゃないか」


ニヤリと笑った。

同じ笑みでもリース君やラジとはまったく違う黒い笑い。あっ、何で今ラジが出てきた?関係ないじゃない。ブンブン頭を振る私に心配そうにリース君が気遣ってくれる。


「大丈夫ですか? ずぶ濡れですから冷えますよね。隊長は、とりあえず大人しくしていて下さい」


彼より10は年下であろうリース君が、ピシャリと言い放ち場を仕切り始めた。


「おいっ」

「だから隊長は黙っていて下さい。ここだと目立つので少し森の中に入ります」


「えっ、ちょっと」


なんだか私まで勢いに押され不思議な生き物に乗せられ森の中に入ることになった。


パキンッ。

火の中から時折弾けるような音が鳴る。

一息ついた私にリース君が話しかけてきた。


「落ち着かれましたか?」

「え? そうね。ありがとう」


取り乱してはいないけど、魔法で服や体を洗いたてのようにしてくれたのは、本当に助かった。


ぼんやりとたきぎから出ている煙をたどり上を見上げると木々の間から見える空は夕方だと教えてくれている。


「さて、どうしたもんかしら」


これから夜になる。流石に私でも不味い状況だと分かる。つい口から出た言葉に、ほどよい間隔の距離を空けて隣に座っているリース君が反応した。


「ここで夜を明かし明日、別れた者達と合流したほうが妥当かと」


「却下。俺は帰るぜ」


リース君の言葉に被せるように、薪を挟み私の正面に座っていたゴツいイケメンが、割り込んできた。リース君は、何も聞いてなかったかのように視線は私に合わせたままゴツイイケメンに言った。


「隊長は、先に帰って大丈夫ですから」


…なんだかこの二人の位置関係がよく分からない。けれど聞きたいことは聞いておこう。



「なんか険悪なムードのとこ申し訳ないけど、ゴツイケメンさんのお名前と…」

「あ? なんだゴツイケメンって? 俺の事か?」


私はそうだと頷き、一番重要な事を聞いた。


「貴方達は、私の敵? それとも味方かしら? 」


聞いた直後、炎の中をくぐり抜け短剣が私の喉めがけて投げられたようだ。それは、光の張った防御の膜にアッサリ弾かれた。


「ダッガー!」

「まあ、神器をそんだけジャラジャラつけてりゃあ無理か」


緊迫したリース君の声とは裏腹に短剣を投げた張本人は、かったるそうな口調だ。


私はといえば、ああ、このゴツいイケメンの名前はダッガーというのか。うん、なんか雰囲気に合ってるわ。でも、今でこそゴツいんだろうけど、子供の頃はさぞ可愛いかったに違いない。そんな事を頭で考えていた。


『私が防ぐと安心していたのですか?』


動揺しない私に光が言葉を頭の中に送ってきた。


というか、ゴツイケメン、ダッガーの投げてきた短剣は速すぎて反応できなかったのよ。勿論警戒はしていたけど、最近鍛え始めたばかりの素人の私が、こんな筋肉の塊に敵うわけないじゃない!


「救世主殿! お怪我は?!」


青ざめ近寄ってきたリース君に私はもの申した。


「何よその救世主って?」

「違うのですか? 神が選んだ救世主と伝え聞いてますが」


いつからそんな事になってるの? とりあえず訂正はしっかり今しておきたい。


「そんなんじゃないし、しかもダサいっ! 私はゆらよ。名前があるから!」


「ユラ様?」

「イケメンだからサービスで呼び捨てでいいわよ」


リース君と話していたら。


「おい、ユラ」

「あなたに呼び捨ては許可してないから」

「あんだと? 俺のが年上じゃないか」


私の名前を呼んだダッガーを睨み付け私は一言。


「ごめんなさいは?」

「あ?」

「敵なの? 敵なら謝んなくていいわよ。ただし味方なら、剣投げたの謝って」

「あんだ…」


「代わりに謝ります。あと以前の私の口のききかたも。戦場で気が立っていたとはいえ失礼な態度をとりました。」


またもやダッガーを抑えたリース君。私はねぇ肝心な答えを聞いてないわけよ。私の顔色で頭のよさそうなリース君は察知したらしい。


「難しい質問ですが、今は敵ではありません。残念ですが味方とも言い難いです」


「しかし、我々はあの停戦にとても感謝しているのです。そうでしょう?ダッガー」

「…ああ」


渋々賛同したダッガーは、ずっと二人を観察していた私に聞いてきた。


「アンタ、もしや俺に気があるのか?」


──自惚れるなと言いたいところだけど、あながち間違ってはいない。私は体育座りしている膝に肘をつきながら答えた。


「俺様で女好きで私生活はまったく駄目だけど、仕事は出来て歳上って以前の私なら、ど真ん中よ」


「分かりずれぇな」


手放しで褒めているわけではないと分かっているらしい。リース君は何故か表情が固まっている。


「ようは、私は、遊び人で仕事ができ年上の男性が好きなの。違った、好きだったのよ。追いかけられるより追うのが好きだった」


でも上手くいった試しがない。

手には入っても結局駄目になっていく。

私が男を駄目にしていると高校からの悪友はいうけれど。


「確かラジウスという名の騎士…あの者に愛をささやかれましたか?」


リース君、何か魔法の水晶玉のような道具で見ていたの? 私の様子を見てふっと笑う姿は、先程の癒し系の笑いとは違い老獪ろうかいさがでている。この子も侮れないなぁ。


「それとは関係なく、今後は好みを変えようかな。というか今は、とりあえず男はいらない」


リースとダッガー、距離はあるが話を聞いていたであろう数人の男性陣は思った。


この少女は何者なんだ?


違う意味でも逆に観察されている事にまったく気づいていない彼女は、お腹を鳴らしながら呟いた。


「お腹すいたし、ノアのモフモフが恋しい~」


だいぶ図太さに磨きがかかってきているゆらだった。

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