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33.ラジの呟き

ブウンー


「ラジ」

「リューか」

「今日だよな?」

「ああ」

「何があった?」

「…」


ガキン!


「っと!俺に八つ当たりするな!」

「別に普通だが」


文句を言いながらもリューは、俺の一撃を軽々と受け止めた。


今日は、地の国に向けて出発の日。

俺は、いつも通りの日課として訓練所で体を動かしていた。国を出た事はすぐに漏れるだろうが、それがバレるのが遅ければ遅いほどいいにこしたことはない。その為に今、日課をこなしている。


否。


それだけじゃない。昨日俺は何をした?

この、これからが一番危険で重要になってくる時期に。


深夜、夜会も区切りがついた為、念のためにユラの部屋へ寄ってみれば彼女の気配がなく、遠慮気味にドアを開けてみれば唸るヒュラウ、ノアだけだった。


気配を探る網を広げてみれば、近くの部屋にユラはいた。


彼女は、不思議な動きをしていた。

月明かりの中、舞のようだが違う動き。

神器の穢れを祓う際に遠目からは見たが。


緩やかだが力強い。

動いているがせいだ。


ユラは俺の事を彼女の世界の動物に例え、しなやかで美しいと言っていたが。


それは彼女の方だろう。

思わず見とれて最後まで見てしまった。


「あまり考えないようにしてたんだけどなぁ」


自分が盗み見たようで気まずくなり驚かせないよう静かに声をかけた。


それだけじゃない。


彼女の呟きがあまりにも悲しそうだったのもある。俺が声をかけたその瞬間、彼女は飛び起き構えた。右手に細くも先が鋭い髪飾りを握りながら。


まるでラガーテのようだ。


我が国にはラガーテという動物がいる。

夜行性で単独行動を好むこの動物は滅多にお目にかかれない。以前ユラに姿形を説明すれば、シカという動物に似ているらしい。だがシカと大きく違う点があった。


ラガーテは飛ぶのだ。


黒く艶やかな翼を広げて。それは魔力を翼に溜めて蒼白い光を放つ。


一度だけ間近で見たラガーテ。

決して大きくはないのだが、何故か動けなかった。もっと接近できたはずだったのに。


気づいた時には、崖から飛び去っていく後ろ姿。


見惚れた。


だが、ユラはラガーテのようで違う。ラガーテから感じたのは孤高であり揺るがない強さ。


本当の、本来のユラは弱い。


弱音を出したくないのだろう。

絞り出すように泣いた姿を見たのは一度きり。

そんな彼女が今、弱さを出していた。


また一人で。


俺の気配を訓練しているのに感じなかったと悔しそうに唇を尖らす。


そして、いつもと違う俺の服装に気づき、彼女は俺をカッコいい?褒め言葉らしい、を何度も繰り返したと思ったら、またその表情が暗くなった。俺は先程の彼女の言葉の理由を無理やり聞き出した。


前の恋人に対してではなかった。

何故かそこでほっとする自分がいた。


俺は、このなんともいえない気持ちを消すために踊りにさそった。最初は嫌がっていたが、彼女の表情をみれば楽しくなってきたのが分かる。


触られるのが馴れないのか照れているユラを見て何かが外れた。


それでも頬に軽く触れただけだ。

挨拶のようなもの。

なのに。


俺の鼻は彼女の匂いを、手は彼女の指の細さを、唇は…頬の柔らかさを知った。


リューは、"ほっとけない、面白い"


俺は


ガキン!


「何か言ったか?」

「いや。リュー、単独になるが気をつけろ」

「ああ。まだ死ねないしな。そろそろ先いくわ」

「ああ」


リューの背を見ながら考える。

俺は?


「俺は…ユラの全てが欲しい」


今、自覚した。



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