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30.一石三鳥

「本当に何にもない所ね」

「周りに被害が及ばない場所はここぐらいしかない。念のため兵を配置していますが、結界の外だという事を忘れないで下さい」

「ハイハイ」


しつこく注意してくる私の少し後ろにいるラジに分かってるわよと手だけヒラヒラと振った。


今、私とラジは水の国から少し離れた場所にいる。


何の為かというと、風と火の穢れを祓う為。

前回水の時も派手にやったから今回は人がいない場所を選んだ。だって風と火なんて不味くない?大火事になったら嫌だし。


カラカラ


風が吹くと小さな石が転がっていく。

まあ、何もない。

地面は乾いてひびわれた土。草は申し訳程度に生えているだけ。


「まあいいや。とりあえず、やってみるか」

「キュッ」


小さくなり私の左肩にいるノアが鳴いた。


「なんか、ホント飼い猫だわ」

「キュ?」

「こっちの話」


不思議そうに首を傾げるノアの首には真っ赤な首輪がつけられている。


もちろんただの首輪ではない。

水の国のナンバーワン魔法使いシルビアさんにお願いして作ってもらった品だ。

この首輪をすると神気が察知されないのだ。

まだ今はあまり必要ないけれど、これから他国へ行く時にはきっと役に立つ。


足に何か硬い物が触れた。

しゃがみ、土を払うと錆びた剣だ。


「残っているのは珍しい。埋もれていたんだろうな」


いつの間にかすぐ後にラジがいた。

私は立ち上がり刃を視線まで上げる。

刃は錆びてガタガタだ。

それより何が珍しいんだろう。


「ここに剣があるのが珍しいの?」

「ああ、利用価値があるんです。この場所は戦でかなりの数の兵が死にましたが死んだ後、死者の服から剣、金目になるのは持っていくそれ専門の奴らがいます。敵も含めここでは多くの兵の命が消えました」


「…そう」


戦争を経験したことがない私には、何と言っていいのか分からず相づちしかできなかった。

ラジは、表情を変えることもなく、ただ周りを眺めている。


まるで彼の視線は何かを見ているようだ。

私には、乾いた何もない場所にしか見えないけど、彼には何かが見えているのだろうか。


私は剣を拾い上げ、ラジから誰か確実に死んでいる人のだと聞いて生理的に気持ち悪いと思ってしまい手を離そうとした。


──だけど。


もし自分が剣の持ち主で、そう思われたら悲しいだろうな。


剣を軽く振ってみる。

何とか刃も細いから私でも扱えそう。

よし。


「ノア、少年えっとナウル君呼んできて」

「クー…」

「背中じゃなくて咥えてきていいから」

「キュ」


ボフン!


大きくなったノアは、近くで見張っているであろうナウル君を探しに行った。


「何故彼を連れていく事にしたんですか?」


ラジは、少し機嫌が悪そうに私に聞いてきた。


「やる気のある子は嫌いじゃないから」


そして付け加える。


「ただ、ケガさせたりしたら嫌だなとは思う」


遊びじゃない。

本当は、ラジやリューさん、ノアだって連れて行動したくない。でも1人では難しいし、なにより寂しい。最近特に周りの人達との距離が近くなっていくと仲間意識というかひとりぼっちが嫌というか。


なにオバサンが言ってるのって感じだ。


「騎士になるという時点で、死は覚悟しています」


当たり前のように言うラジ。そうなんだろうけど。けどさ。私のせいでケガしたり、最悪死んでしまうのは避けたいのよ。


ああ。

私は責任をいたくないだけか。


「ただ、自分が可愛いだけなのかも」

「可愛い?」

「ううん何でもない」


ただ、死んでほしくないと思うのは嘘じゃない。それだけはハッキリ言える。


「フンッ!」

「おぃっ!」


降り立ったノアが、咥えたナウル君を無造作に落とした。痛そうなのに元気なナウル君。


「あー暗いのは、やめた」


私は土埃を払っているナウル君にお願いした。


「ちょっとひと働きしてもらえる?」



ヒュー

ナウル君の吹く笛の音と共に私は動き出す。

剣を振り上げ振り下ろす。

剣舞は、緩やかではなくはっきりと動く。


舞いながら思う。


戦で死ぬってどんな感じだろう。

殺るか殺られるか。

逃げ場なんてないし、戦うしか選択肢はない。

怖いよね。

きっと痛くて辛くて。

死の瞬間は恐ろしさしかなさそう。

ねえ。

生まれ変わりとか信じてないけど、もしあるなら、今度は楽しい人生を送れるといいね。

浄化って神器だけでなくて苦しんで痛い思いをした動物や人もできるといいんだけど。

あっ。


『きますよ。出来るだけ防御はしますが』


そう光の言葉が頭の中に響いた直後。


「くっ!」


物凄い熱風が空へ突き抜けていく。

地面が揺れてる!?

思わず倒れそうになった時誰かに支えられた。

薄く目を開き見上げれば光だ。


『どうやら貴方の望み通りになったみたいですよ』


あそこと光が指差す先には、噴水のように高く涌き出ているそれは。


シュー

湯気がたちこめている。

そう源泉、温泉だ。


「やった!あっ光ってる?」


手に持っていたままの剣舞で使った拾った剣が光っている。


「何?」


それは徐々に剣の型をなくし、やがて消えた。


『戦で無念の死を遂げ、穢れたヒトの魂も祓えたようですよ』


「えっそうなの? あっ、風の少年とあれは」

『お姉さん、楽になったよ』

『まあまあってトコだな』


フワフワ空中に浮いている二人。

ニコニコしている緑色の目と髪の少年と不機嫌そうな15.6歳くらいの真っ赤な髪と瞳の青年がそれぞれ話しかけてきたと思ったら、二人の姿が薄くなり、緑と赤の光のみになったそれは、私の腕に巻きつき、やがて腕輪になった。

色は、マスカットのような緑と珊瑚のような真っ赤な腕輪。


やれやれ、なんとか終わった。

それにしても。


「神器と戦で亡くなった人の穢れも祓えて温泉もできる。 いや~結構いい働きしたんじゃない私」


満足した私に、なんだか失礼な言葉が聞こえた。


「貴方は呑気だな」

『それには私も同意します』

「キュ!」


ラジに賛同する光と何故かノアまでひと鳴き。


「俺、こんな奴に惨敗したのか」


そして嫌そうに呟くナウル君。


貴方達、酷くない?


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