3.ラジウスside
「無理もないか」
ドアを閉めた直後に気配を探れば動いていないようだが多分泣いているのだろう。
俺は、気配を探る糸を切った。
側にはまだ子供とはいえ強力な力を持つ冬の神の化身とも呼ばれるヒュラウがいる。アレは彼女に何かあれば全力で守るだろう。
「ラジ」
呼ばれた方へ顔を向ける。
「リュー」
同僚、部下だが俺より経験も年齢も上のリューナットが暗がりから姿を見せた。
デカイ身体のわりに動きはしなやかで気配を消すのは野生動物並みだ。潜入向きだがガタイが良すぎるのが難点なのだが。俺はリューに指示を出す。
「しばらく異世界人、名はユラと言うらしいが、彼女を監視、護衛してほしい」
「嬢ちゃんは危険じゃなさそうだが」
「ああ」
最初見た時は普通の、むしろ彼女からは何の力も感じなかったのがおかしい。
それよも問題なのは、その後だ。
あれは間違いなく冬の神、ラナール。
彼女の周りで神気が膨れ上がったとたん彼女の身体は変化し、倒れた側には化身ヒュラウがいた。
「神の声がしたとか。まだ見放されてないのかもな」
「さあな。とりあえず俺は団長に報告しに行くから彼女を頼む」
「了解」
正直、神などあまり興味のない俺は適当に返事を返した。仕事が増えた俺は機嫌が悪い。それとは逆にリューは、夜中にたたき起こされたというのに機嫌もむしろ、かなりいいようだ。
そんなに興味がわくものだろうか。
今、この世界は終わらない戦と原因不明の異常気象で緩やかだが、確実に壊れ始めていた。
それを危惧した高位の神官達が自らの命を犠牲にし禁忌を犯した。
以前にも禁忌を犯した者は何人かいた。だが、過去にそれで成功してもそれは生き物ではなく物だった。
まさか成功するとは。
初めて見た美しい黒髪に濃い茶色の瞳、今は何故か顔が少し幼く変化したユラという異世界人。
彼女に説明すると言ったが、此方も把握していないのが現状だ。我が国で最高位のあのいけすかない魔法使いをとりあえず至急呼び出すしかないだろう。
俺はげんなりしながら暗い城内を団長、恐らく宰相もいる執務室へ足早に移動した。
この時、まだラジウスも団長や宰相、偉大な魔法使いと呼ばれている人物でさえ事の大きさに気づくはずもなかった。
ユラがこの国、この世界の要になる事を。