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28.私とリューさんと少年と

ギィーン!

ガキンー!

ガリガリ


「楽しいのか?」

「若さを吸いとってるんです」

「…嬢ちゃんが言うと冗談に聞こえないんだが」

「そうですか?もちろん可愛い冗談ですよ」


そんな事ができるならとっくに実行している。


ガリガリ…ガリガリ


「さっきから何をやってるんだ?」


リューさんが覗きこんできたのか手元に大きな影ができる。見づらいなぁと思いながら私は手元に視線を向けたまま上の空で答えた。


「頭の中の整理ですよ」


昨日は、何故かそんなに飲んでないのにいつの間にか寝ていたらしく目が覚めたら朝だった。まあ量も少ないせいもあるのか二日酔いにもならずスッキリだ。


ただ。

今後の事を考えないといけないのがね。


「なら何も煩い場所でわざわざする必要ないんじゃないか?」

「一生懸命な人達を見れば、ちょっとやる気がでるかと思って」


そうです。

私はまた騎士さんの訓練を見学しつつ、今日は前回より少し離れ見学の合間に地面に木の棒で書いているのだ。


空は雲ひとつない青空。風はやわらかく吹き、時折どこからか花びらがヒラヒラ舞ってくる。

これ以上ないくらい平和そのもの。でも、のんびりそれに身を委ねている場合じゃない。


私は帰らなければ。

早く早く──。


ポキッ


「あっ」


無意識に力を入れすぎたのか見事に棒が折れた。


「ふぅ」


折れた棒を放り投げ立ち上がり伸びをした。

うっ。

足が痺れた。地味に辛い。


剣の音が止んだ。

見れば休憩にはいったらしく皆隅に移動している。


「あのな、助かった」


後ろを見れば、首の後ろに手をあて視線を不自然に横に向けたリューさん。

なんだっけ?


「えっと、なんでしたっけ?」


本当にわからない。

昨日先に寝落ちしたのも私だし。リューさんは、ポリポリ首を掻きながら此方をちらりと見て一言。


「足」


「ん?あーこの前の」


ついポンッと手を叩いてしまった私は、やっぱりオバサンなんだろうか。


「私が油断したせいで、むしろ痛い思いをさせてすみませんでした」


逆だ。

あれは私のミス。今更ながら、ごめんなさいと頭を下げた。


「前に言われた通りで、自分が温室育ちなんだと改めて思いました」


でも。

ため息をついてしまう。


「ただ、気を付けるというか訓練しかないのかも。こればっかりは急には難しい。まあ、ツメが甘いと自分で気がついているだけマシかと思います」


気づいていないよりは、生存確率は確実に上がるはず。自分でそう思い自分で笑ってしまう。生存確率なんて日常で考えた事もなかった。


「嬢ちゃんはそのままで、いや、そのままが一番だ」


俺が勝手に礼を言いたかっただけだ。そう言いながら彼に頭を軽くポンポンされた。


だから子供じゃないから。


その手がピタリと止まった。彼の視線は一点を見ている。


「地と闇の地形か?」

「はい」

「上手くかけてるが、ここは最近崩れて通れない。」


今、私の足元の地面は地図と字でびっしり埋め尽くされている。転がっている棒で他にも書きたしながら色々教えてくれる。


私は極秘扱いの地図を閲覧させてもらったのを元に描いたというのに。


…いやに詳しい。


特に地の国の情勢に。ああ、そういえば、潜入したりしてたって言ってたっけ。


この時の私はリューさんの様子にまったく気づいていなかった。


「何か用か?」


突然リューさんが私に説明しながら、顔も上げずにそう言った。私はえっと再度しゃがんでいた腰をあげ立ちあがれば1メートル先くらいに青年が立っていた。


「ーこの前は、悪かった」

「それで謝ってんのか?」


青年の精一杯であろう謝罪に先程の照れたような声は聞き間違えたかと思ってしまうほどの冷めたリューさんの声が青年に突き刺さる。それでもめげず青年の瞳は私を見ていた。


…この子。


いつぞやか、中庭でラジの昇進のことで突っかかってきた青年だ。



珍しいな。

最近知ったんだけど、水の国の人の瞳は濃さの違いはあれど水色だ。今まで会った水の国の人で違う瞳の色はラジしか知らない。何故彼は瞳の色が違うのかは、なんとなく踏み込まないほうがいいような気がして触れた事はないけれど。


そして、この青年の瞳は明るい茶色だ。


「私も大人げなかったし、気にしてないから」

「嬢ちゃん、そこの甘さは直した方がいいぜ」


リューさんの呆れた声。

いや、あの時は私もね。

…?


「他にも何かあるの?」


話は終わったはずなのに、青年は立ち去る気配がない。


「俺、いえ、私も何かやりたい…です!」


拳を強く握りしめながら、叫ぶようにそう言われた。下を向いた青年を観察してみれば、ほっそりとした体は、青年というより身体の線が少年に近く、無造作に結ばれた長い髪は、とても綺麗な金髪だ。


うん。

これでいこう。

私は、あくまでも勝手なイメージ、一昔前のプロデューサーのような偉そうな態度で青年を指差し言った。


「いいわよ。君、採用」

「えっ」


オーケーされると思っていなかったらしく驚く青年。君が言ってきたんじゃない。

何驚いてるの?


「おいおい、ラジに怒られるぜ」


知らないぞ俺はと呟くリューさんを無視して青年に聞く。


「ねぇ、君、名前なんだっけ?」


まずそこよね。






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