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27.お疲れさん会

パラパラ


窓に雨があたる音がする。

私は、ソファーにだらしなく座り片ヒザをたて、ひじをつきながら外を眺めていた。出窓から見える景色は夜の為もちろん真っ暗。

誰にともなく文句を言った。


「あ~せっかくなら月を眺めながらの一杯がいいんだけどな~」

「嬢ちゃん、それ、ホントーに強いやつだからな。俺は忠告したぞ!ラジも止めさせろよ」


さっきから二人いる内の1人、リューナット、いや、もう面倒くさいからリューさんと呼ぶことにした。彼は、ローテーブルを挟み1人用のソファーで同じく私よりもお酒がたっぷり入ったグラスを片手にブツブツと私に言ってくる。


「ユラには言っても無駄だろう」


私達から少し離れドア近くに立ちながら上品に飲むラジ。

彼の呼び方も年下だし、他の人がいない時はラジと呼び捨てにすることにしたのだ。それにしても珍しい。堅物そうに見えるのに。


「ラジも飲むのね」

「最近疲れがとれないので」

「…」


もの凄く疲れているんですよ俺は。

と聞こえてきそうな、ため息をつくラジ。

これ見よがしなんですけど。

それって私が原因って言いたいのかしら?

うん。

スルーしよ。


「ふ~ん。まぁ今日はおつかれさん会だしね」


あの騒ぎから3日がたった。

なぜ今になって急に酒盛りかって?

たんにガス抜きをしたかったのよね。

こっちに来てから一滴も飲んでいない事に気づいたのよ!

まあ普段だって週末くらいだけど家より外、お店で飲むのが好きなのよね。元気な時は、1人飛び込みでバーに入ったりもしてお気に入りのお店を増やしていくのが楽しい。


「月がそんなに好きなのですか?」


そういえば、あそこのお店にしばらく行ってないなぁとぼんやり考えていたら、いつの間にかリューさんの隣の1人用ソファーに移動していたラジが聞いてきた。


「…空気とか匂いは全く違うけど月は何故か一緒なの」


この世界に来て思う事。

それは、夜は本来真っ暗なもの。


普段、街灯や自動販売機の明るさなんて普通過ぎて気にもとめていなかった。


この世界の夜の暗さは落ち着く反面、心細くもなる。それに違う事を上げたらきりがないけれど、テレビも携帯もない夜って、何をすればいいのか分からない。電気なんてないから灯りは、夜になると光る石を使用していて困りはしないけれど明るさは弱い。


だから月を眺めると馴染みのある景色とその月の光の強さに安心する。


あっ。

急に月で神器の光を思い出し聞きたい事もあったから、忘れる前に話をしようとラジに許可をとる。


「ごめん。今、光呼んでいい?すぐ腕輪に戻ってもらうから」


神器は、何か力を使ったり、人の姿になると神気が出るらしいので、念のため。


「構わないですよ」


よし。

許可はとった。

ブアァン


『どうしましたか?』


キラキラオーラの光が呼び掛けに応じ人型で現れた。


いや~。夜に光を見るとまた存在感がすごいな。


前も同じ事を思ったけど光が天使や神様って言われたら、うん、イメージ通り!と迷うことなく納得する。


『ユラ?』

「あっ、ごめん。とりあえず隣座って」


みとれている場合じゃなかった。

質問しないと。別に立っていても疲れないと言う光に、私が気になるからと無理やり私の隣に座らせた。そして、グラスを無理やり持たせ並々と注いだ。


「飲んだり食べたり出来るんでしょ?」

『味覚もあり可能ですが、あまりしません』

「なら光も飲んで食べよう。じゃ、カンパーイ!」

『…』

「いや、そこ真似てよ!のって!」


無言な光にじゃ、皆で仕切り直しと言いもう一度。


「カンパーイ!」

『…カ…カンパイ…』


カチン。

皆、ラジ、リューさんともグラスを軽くあてた。光は、物凄い小声でカンパイと言った。


なんか、可愛い。


「そうだ。聞きたかったのは、あの風と火の戦の時、なんで私に防御なかったのかと思って」


あの時、風の兵から魔法攻撃1回、火の国の王子から、これは自分からだけど腕を刺されたので計2回。


光は意外とオールマイティーにこなすので防御もできるのだ。


なのに攻撃を受けた時、全く防御の膜がなかったように感じた。光からの返答は。


『ユラの生命に問題がないと判断しました』

「えっ、死なないからいっかってこと?!」

『はい』

「基準がそこか!」


つい手がでてビシリと光の肩にチョップをした。


「なんつーか微妙な神器だな」


リューさんの失礼な呟き。

まあ、ですよね。

いや~。

死ぬほどじゃあなかったけど。

けど…。

一瞬遠くをみてしまった。

やっぱり光は、色々鍛え直したほうがいいわ。


「とりあえず今後は、生命じゃなくて、攻撃に対しては全て防いで欲しいんだけど」

『わかりました』


この天然の神器に不安は残るが、仕方がない。

そしてふと、この居間にいる3人の男性達をみた。


「いや~お酒のつまみに、最高じゃない」

「ああ、これですか?」


ラジがテーブルの上にある木の薄いトレーの中に並んでいる数種類のおつまみのうちの1つを指差す。うん。そのキノコの素揚げは、塩加減といい確かに美味しい。


いや違う。

君もある意味天然だ。


「皆の事よ」

『「「?」」』


三人とも不思議そうな表情。

わからないのか。


光は神レベル。

ラジは、金の髪と琥珀の瞳で野生のひょうみたい。リューさんも実はカッコいい。ガタイはずば抜けて大きく髪は黒に近い灰色に水色の瞳。

話し方もいい。


「う~ん、リューさん結構好みかも」


あまり深く考えず口にした。


「リューは妻がいる。額でわかるのでは?」


何故か機嫌が悪るそうな口調でラジが教えてくれた。


やっぱりそうか~。リューさん落ち着いてるもんね。ん? ラジが早口で最後言ったのがひっかかった。


「ひたい?紋様みたいのはあるけど」


リューさんの額をみてみれば、髪の隙間から小さく紺色の葉の様な印が刻まれているのが見えた。


「戦などの時は知られるのを嫌がる奴もいるから額あてしてるのも多いな」


人質とか弱点になるからかな?

ふと、ラジを見ると髪の隙間からは印は見えない。独身ってことかな。印って何か魔法とかで?


ラジがザックリ説明してくれた。

結婚式を神殿で挙げると額に二人お揃いの印が刻まれるらしい。


そんなの初めて知りました。


あれ?

なんか、ラジの顔がすごくぼやける。


「そんな飲んでないのに」

「嬢ちゃん?」


まぶたが自分の意思と関係なく閉じていく。

体がお酒のせいかぽかぽかして気持ちがいい。

最後に聞いたのは、リューさんの。


「だから言わんこっちゃない」


というセリフだった。




『これ、酒ではないですよね?』


光がユラのグラスを指差し俺に聞いてきた。


「ああ。中身が成人でも体は16歳くらいだと言っていたから、酒に似た成分の果実水を与えた。飲んだ後短時間で強い眠気がくる。もちろん体に害はない」


我が国では17歳で成人になり酒も成人してから飲めるようになる。ユラは、納得しないだろうから、彼女の瓶だけその果実水にしておいた。

色も似ている為、案の定気づかれなかった。


「止めない時点でなんか引っ掛かったんだが、そういう事か」


リューは、途中から気づいていたようだ。


『とりあえず寝室にユラを運び私は腕輪に戻ります』


光の神器は、ユラを細腕のわりに軽々と抱き上げ、ずっと彼女の側で寝ていたノアが起き出し先導するように尾をふりながら光の前を歩き出した。


去り際に光が此方に顔を向けた。


『その額の色。あなたの片割れは死にかけているようですね』

「…オマエさんには関係ない」


ユラが寝ていてよかったと俺は思った。

それほどの殺気をリューは、出した。


『確かにそうですね』


これだけの殺気を受けてもまったく動じない光は、やはりヒトではない。


寝室へ続いているであろうドアは静かに閉まった。


「ちっ!わりーもう少し飲んでくる」

「ああ」


頭をガシガシと掻きながらリューは部屋を出た。


一気に静けさが訪れる。あるのは雨音のみ。

ユラは次は地の国にするかと言っていた。


地の国、グラーナスにはリューの妻、ミュリが捕らえられている。


リューは。

"ほっとけない、何かを期待したくなる存在"


今は夢の中であろうユラ。

俺は。


「…護りたい」


それだけではなく、ユラがリューが好みだと言った時に感じた違和感。


…俺は、惹かれているのか?

あの異世界人に?


グラスに残っていた酒を一気に喉へ流し込む。

いや、まさかな。


俺は、光が腕輪に戻ったのか寝室から神気が消えたのを確認し、部屋を後にした。




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