26.とりあえず戻りましょ。
「あの小娘は誰だ?!」
「あの獣から強い神気が出ている!」
「あれ、まさかヒュラウじゃないか?」
ざわめきが止まない。
パンパン!
「はいはいー。早く終わらせたいから少し静かにして下さいね」
手をたたき注目してもらう。
バカにしてんのかと叫ぶ奴がいたので睨みつけた。
こっちは真剣よ。
ノアが大きくなっていられる時間も限られているし、早く終わらせないとおいていかれる。私は無数の視線を浴びながら話し始めた。
「まず、今日で風の国と火の国は停戦しました」
静かに固まる皆さん。
進めますね。
「そして、その停戦は絶対であり、破ればその国は滅びます。ただ、両国以外の国との戦は可能です」
そう。
最終目標は終戦だ。
ただ急には難しいだろうし、巻物、春の神にお願いして貰った紙に全ての国の王のサイン、触れさせないと、今の時点で例えば、完全に戦を行えないと制約をかけてしまうと風や火の国に他の国が戦を仕掛けてきて応戦ができないのは不味い。
だから、とりあえず火の国は風の国に、風の国は火の国に戦を仕掛ける事は出来ないようにしてみた。
「どう滅ぶ?」
またざわつき始めた時、声があがった。大きくはないけれど、よく通る声がした方を見た。その青年、ラジウスさんくらいの年齢の男が発したようだ。
濁りのない真っ直ぐな視線。明るい緑の髪は一つに高い位置で結ばれ大きな瞳は逆に暗い、ダークグリーン。色は違和感たっぷりだけど、顔が凄く整っている。
この人、きっと位が高い。彼の雰囲気が周りとは違う。私は青年の目を見て話した。
「春の神、エレールによれば、その場に何もなかったかのように消えるそうです」
彼が発言した事により、静かになったのでこの機会を逃さず一気に話す。
「私の話を信じられないかもしれませんが、今、あなた方の神様達は、この世界を見放しかけているだけではなく異常気象も起こり王様達が持っている神器は穢れているそうです」
話していてなんだけど現状は、ホントお先真っ暗よね。
「風と火の神器は先程私を選びました。あくまで私が思うことですが、全ての神器の穢れを祓ったとしても、このまま戦を続けていれば、また神器は穢れ、異常気象も再発すると思います」
私は見渡した。
人、人、人。
皆まだ生きてる。
私は、風の国のイケメン青年から視線を外し皆を見た。
「やり方次第で世界が壊れるのを止め、もっと長生き出来るかもしれない、変われるかもしれない。元の原因、理由は知りませんが、国を、大切な人を守る為に戦っているんですよね?」
そして、もう国同士の問題レベルを越えているのを知るべきだ。
「なら、世界が壊れたら意味ないのでは?」
ブワンー
「あれは!」
「なんて強い神気!」
「美しい!」
私が呼び出した光と水は人の姿で現れ宙に浮いている。
「気づいているかもしれませんが、皆さんの魔力をかなり吸いとりました。足を動かすのがやっとな状態で国に帰るのは危険なのと、それぞれの国が水不足など問題を抱えていると思うので光と水の神器を貸し出します」
一時しのぎだけど、やらないよりマシだろう。
「光と水が力を出して、とりあえず短時間で改善できる事はし、長期的になる問題は後程考えていきたいと思います」
私はノアにそれぞれの王様達を返し、というかミノムシのまま放り投げ、さて話は終わりだと言おうとしたら。
「そこまでして貴方に利があるのか?」
さっきの風の青年が質問してきた。
「ないわ」
私の返答に青年はなんとも言えない表情をしていたが、彼に構っている時間はない。
「光と水、悪いけど他の国から襲われないように各国まで兵士さん達守って欲しいのと、無理しなくていいから、それぞれ国の状態を見てざっと後で教えてくれる?」
『はい』
『わかった』
さて行くかと、この場を離れようとした時、聞き覚えのある生意気な声がした。
「おいっ!神器っ返してくれんだろうな!」
いつの間に近くに来たのか。あの赤い髪の火の国の王子が下から叫んでいた。
「さあ?神様次第、今後のあなた方次第じゃないかな。まあ、頑張んなさいよ」
まずは、その短気な性格をなんとかしなさいよと私は心の中で呟いた。
私は光と水に後の事を丸投げし、その場から離れノアに指示を出して急いで転移場所へ向かった。
そして、私の身体は限界を越えていたらしく記憶はそこで途切れた。