21.私の目的は
「ノア、ありがと」
「キュ!」
風の国の王様の前に回り込んでもらいノアから飛び降りた。王様を見れば脇腹は血で服が変色していた。光の剣を片手に持ち王様へ近づく。
「お、お前は誰だ?」
「それにその魔力…化け物!」
尻餅をついた王様は私を見上げた。
私は何も言わず剣を両手に持ち替え振り上げる。
何も考えない。
考えたら迷う。
迷えばしくじる。
私は剣を振り下ろしたー。
「…光?」
斜めに切りつけたはずが、剣は王様の肩に触れるか触れないかで止まった。
そのまま動かそうとしても動かない。
頭の中に声が響く。
『貴方に自分の意思で動けと言われたので』
「確かに言ったけど!」
それが今なの!?
『人を殺すのが貴方のしたい事なのですか?』
──それは。
「…違う」
そう、私はただ帰りたいだけ。
「ー腕輪に戻って」
『はい』
光は私の左腕に戻った。
やる事は一つ。
私は王様ではなく、風の神器に話しかけた。
「私と一緒にきて」
手を差し出した。
「これは、やれん!」
「貴方に聞いてない」
額を手で隠すようにした王様。
額にある装飾品、本来は翡翠色の色をしてるであろうそれは、今はひどく黒ずんでいる神器。
聞こえてるんでしょ?
私は、リューナットさんがケガしたのを見て怒りで人を斬ろうとした。光が止めてくれなければ。
少年に切りつけた時とおなじ過ち。
そんな駄目な奴だけど。
でも、嫌がる事はしないから。
あなたも私が間違った事したら、止めてくれないかな?
しばらくして変化が訪れた。
「ああっ!」
風の王様が額を押さえ声をあげた。
風の神器は淡く緑に光りそれは、形が崩れ宙に浮きー私の手のひらにきて落ちた。腕輪に変わったその色は、まだ黒ずんだまま。
元に戻すからあと少し待ってて。
「ノア、悪いけどこの人も運んで」
「それでリューナットさんの所に戻る前に火の国の王様のところへ寄って欲しいの」
「なっ何を!」
ぱくっ。
背に乗せたくなかったのか、風の王様をノアは口で咥えることにしたようだ。
「まっ、いっか」
叫ぶ王様を無視し火の王様の所へ移動した。
火の王様は、最前列の先頭で氷漬けになっていた。丁度、風と火の兵士達が衝突寸前の中央だ。
そうだ。
「ノア、リューナットさん連れてきてもらえるかな?」
「キュー」
「お願い」
「…フンッ!」
渋るノアはしょうがないと言うように大きな鼻息を出すと空へ飛んで行った。
「フガッ」
「もう少し待っていて下さい」
足元から文句を言いたそうな視線を感じ待つよう伝える。地面には、光に頼み光る紐でグルグル巻きにされた風の王様が転がっているのだ。
「父さん!嘘だろ?!」
声がした方、後ろをみると、少年が陥没した縁から下を覗き叫んでいた。
「誰がこんなことを!」
「私」
少年は此方に気付き、私を見た。
10歳前後くらいの赤い髪に赤い瞳の色の少年。
その目は怒り、憎しみでいっぱいだった。