16.私は1人じゃない…?
「我々に話とは?」
「夜分にすみません」
外出した日の夜、私はラジウスさんとリューナットさんを呼んだ。色々考えていて気づいたらもう夜になっていたのだ。
今、私が借りている部屋の居間でローテーブルをはさみ彼らとソファーに向かいあわせに座っている。部屋は広いくらいだけど、男性二人が増えると狭く感じる。
「どうぞ」
リアンヌさんが、お茶を出してくれた。
そしてちらっとリューナットさんを見たと思ったらぽそりと一言。
「あの悪ガキも立派になったこと」
「なっ」
「ホホッ、私は別室へ控えております」
リアンヌさんは、綺麗な礼をしてリューナットさんが言葉を発する前に去っていった。
「ちっ! だからあのばーさんは嫌なんだよ!」
私は、足をダンダンしながら頭をガシガシ掻くリューナットさんの子供っぽい仕草につい笑ってしまった。
「ぷっ」
「なんだよ!嬢ちゃんはあのバーサンのえげつない仕置きを知らないから笑ってられんだよ!」
「リュー、脱線するから止めろ」
「へいへい」
「で、話とは」
ラジウスさんは、眉間にシワを寄せリューナットさんを叱り、此方に顔を向けた。
綺麗な顔なのに眉間に跡がつきますよと言いそうになり慌てて口を閉じた。
そうだ、のんびりする為にわざわざ来てもらったわけではないのだ。
そして話す前に。
「他の人に話が聞こえないようにできますか?」
「既にしています」
「…ありがとうございます」
魔法って呪文とか唱えないのかな。
魔法もそうだけど、腕輪が人や剣になったりとか、不思議な事ばかりだ。
でも、これは現実。
寝て目覚めても、枯れるほど泣いても、私の部屋に戻ることはなかった。
「ちゃんと説明すらしていなかったので一度話をしたかったのと、情報が欲しくて」
私は二人を見た。
「何処まで知ってますか?」
「貴方が神々に好かれている、そして神器を集めようとし、恐らくその目的は、貴方が一番望んでいる事の為」
ラジウスさんの言葉の後にリューナットさんが呟いた。
「帰りたい──か」
その通り。
リューナットさんに向け私は頷いた。
「はい。冬の神ラナールは、私に神器を集め穢れを祓えば元の世界に帰してもいいと」
何の保証もないけど。
「その穢れとやらを祓えば、この異常気象も収まるのか? だが、嬢ちゃんの話だと神々は俺らの世界をみかぎってるんだろ?」
「そうですね」
顔は思い出せないけれど、内容とあの目は鮮明に覚えている。
「最後に遊ぶのも一興かとも言いましたが、神器の穢れを祓えば世界は安定するとも確かに言いました」
ただ少しの興味。
「あくまでも私が会って感じたのは、きまぐれな神々だなと思いました。ただ、その反面今まで見捨てなかったのは、ある程度愛着というか慈しみがあったのかもしれません」
最初は、神様達は、もっとこの世界が好きだったんじゃないかなと思った。
で、ここから話したい事、本題だ。
「私は、誰が何人死のうと気にせず、とにかく早く神器を手に入れるつもりでした」
「嬢ちゃん」
私は、リューナットさんに視線を合わせ少し笑った。
「今も正直、変わってはないんですよ」
でも、まだ数日だけどリアンヌさんや、任務だとはいえ私を矢から守ろうとしてくれたリューナットさんを見て少し変化した。
そう、ほんの少し。
「最小限の被害で最短を目指します。この国の時間の流れが私のいる世界と同じかは、分からないけれど、3ヶ月」
「3ヶ月?」
ラジウスさんが聞いてくる。
「はい、最長でも約90日ちょっとで神器を集めます」
「嬢ちゃん、あんたには悪いがそりゃ無理がある」
「何故?」
リューナットさんが、子供に言い聞かせるように話す。
「ウチは、ここ1年あの赤い魔法使いが張った結界と、元々のこの国の位置が幸いして戦はなく平和だ」
それ以前はそうじゃなかったって事か。
「だがな、他の国はそれこそ何十年もドンパチやって、それは今も続いてるんだぜ?そんな中、言い方が悪いが魔力もねぇ戦知らずの平和にどっぷりの嬢ちゃんには無理だ」
ちょっとひっかかる。
「平和にどっぷりって分かりますか?」
思わずリューナットさんに聞き返した。
この世界に来てから自分ではかなり気を張っているつもりなんだけど。
「ああ」
「リュー言い過ぎだ」
「嬢ちゃんには、ハッキリ言わないと駄目なんだよ。ラジもちゃんと教えたほうがいい」
ラジウスさんは無言。
私は甘いという事ね。
リューナットさんに視線を戻し聞いてみた。
どうせならちゃんと知るべきだから。
「私のどこが駄目ですか?」
「なぁ、嬢ちゃんの鍛練所での動きがそうだ。動きは悪くないし、センスもある」
間が、あいた。
「だが、今の嬢ちゃんに人は殺れない」
バッサリな言葉とリューナットさんが初めて見せる気迫というか圧が視線と共に向けられ私は思わずうつ向いた。
それは、そんなの分かってる。
大きな事、何人も犠牲にすると言っておいて私はその人達の胸に剣を刺せるのか。
所詮ちょっと運動神経がいい見た目高校生、中身は、いい歳のオバサンだ。
「だから俺と副団長がいるんだろ?」
うつ向いた顔を上げれば、ポリポリと顔を掻きながら照れたように横を向き話すリューナットさん。
「でも」
「言っておくが、団長の座を先送りにしたのは、自分の希望で上に命令されたわけではない」
ラジウスさんに問われた。
「それに、出来るか出来ないかではなく、まず覚悟はあるんですよね?」
ラジウスさんの琥珀色の瞳がこちらを見つめた。にこりともしない彼だけど優しさが伝わる。そしてお茶を優雅に飲みながら彼にまた聞かれた。
「俺達に何を望みますか?」
少しだけ、甘えてもいいのだろうか。
「…協力をお願いします。まず、現在争っている国が何処で戦をしているのか。また、今はしていないなら、いつ、どこで行われるのか」
私が欲しい物。
「そして、その戦にはそれぞれの王が戦場にくるのかが一番重要です」
「嬢ちゃん、どうする気だ?」
リューナットさんの質問に答えた。
「王は必ず重要な場面では神器を身につけていると聞きました」
時間を無駄にしない。
「両国の神器、2つ貰います」
一気に片付ける。
「ヒュー」
リューナットさんが口笛を吹いた。
本気なのよ私は。
覚悟はまだ足りないかもしれない。
でも、やる気はある。
──だって帰りたいから。