14.暴走を止めてくれたのは
「なんだか、かったるいなぁ」
王様に会い、国に防御をはり気を失い、目が覚めたらもう日が暮れる時間。私は、お城の中庭でベンチに座りだらりとしていた。
リューナットさんがさっきまでいたけど至急の要件で人に呼ばれ、ここで戻ってくるのを待っているしノアがいるからと渋る彼を説き伏せ今に至る。
空を見上げれば夕暮れの独特の色。
海の近くに住んでいる私は、よく砂浜で夕日を眺めている人達を見かけた。
ハッキリ言って夕日が沈む風景は嫌いだ。
理由は単純。
寂しいから。
この夜になるか、ならないかの色が子供の時から嫌いでそれはいい歳になっても変わらない。
ベンチに座る私の隣には、ノアが丸くなって寝ている。
しばらく柔らかい風にふかれぼんやりしていると、数名の集団、格好からして騎士達が近くを通りがかった。
ふと、その中の青年の1人と目が合った。
何故かその視線は私を敵視している。
私、何かした?
考える前にその青年に怒鳴られた。
「アンタのせいでラジウス様は団長になれなかったぞ!」
「何が、私の?」
意味が分からない。
私の恐らく理解してない表情に、更に青年の表情は険しくなり、荒々しく此方に歩みを進めてきた。
「ノア、大丈夫」
私はとりあえず唸り今にも飛びかかりそうなノアを止めた。興奮し青年の声は、益々大きくなっていく。
「異世界人かなんだか知らないが、ラジウス様は、明日団長に就任するはずだったのに、さっきアンタの護衛に任命されていた!」
…そんな事、今聞いて知ったし私は護衛をそもそも頼んだ覚えはない。
ガッ
足元に鞘に入った剣が投げられた。
「本当かどうかしらないが神器を手に入れたとか。今まで闇の侵入なんてなかった」
青年は、自分の腰の剣を抜き私に向けた。一緒にいた騎士達はどうする?ヤバイか?とひそひそ話しながらも青年を止めず見ている。
「アンタが現れてからおかしな事ばかりだ」
…何よ。
私だって来たくてきたんじゃない。
突然、ただ叔父から貰った箱を開け指輪を指にはめただけで、こんな神や魔法やらよく分からない世界に!
「剣になれ」
ブゥンー
そう口に出した次の瞬間右手に程よい重さがきた。
『ゆら、最初で決めろ。体格や力では不利でも他で補えるよ。ゆらの長所は動きの速さだな』
そのまま両手で構えなおしながら一気に踏み出し跳躍をつけおもいっきり剣を上から振り下ろした。
「クッ!」
勢いと全体重をかけたのもあり、油断し出遅れた青年は私の剣を受け耐えきれずバランスを崩し後ろに尻餅をつきそうになったので、その隙を逃さず剣の刃の向きを変え今度は、下から上に振り上げ青年の剣を飛ばし、彼の両手を足で踏み、仰向けにさせた。
足で押さえたからって力では絶対かなわない。
青年が力を出せばすぐ不利になるだろう。
なのに彼は動こうとしなかった。
何故抵抗しないの?
「どうしたの?」
本当は私の口からでかけた言葉は「いいの?死んじゃうよ?」だ。私は、剣を持つ手に力をいれ…
「そこまでにしてやってくれ」
剣先を青年の首に当てたまま声のした方に視線をむけると。
リューナットさんとラジウスさんがいた。
私は──。
今止めてもらわなかったらどうしていた?
「キュ」
鳴き声、ノアを見た。
ノアも青年と同じ瞳をしていた。
──怯え。
青年だけでなくノアまでもが、私に怯えていた。私は踏みつけた足をどかし、握った剣は念ずるとすぐに腕輪に戻った。ラジウスさんが青年に声をかけた。
「ナウル、後で執務室へ来い」
「副団長!俺!」
「行け」
「っーはい」
彼、ナウル君は私をひと睨みした後、他の仲間と去っていった。
「ユラ様」
「彼に罰を与えるなら、まず私です」
ラジウスさんに名を呼ばれた私は二人の顔を見れなかった。
「ユラ」
呼び捨てにされたが無視もできず返事はした。
「…何」
「貴方は自分で分かっている」
頭に軽い重みがくる。
「だから泣く必要はなない」
年下であろうラジウスさんに頭を撫でられていた。
「嬢ちゃん、ほらっこれでも口いれな」
リューナットさんが強引に口に何かを入れてきた。それは、ほんのりミント味の激甘な飴だった。
「甘い」
「でもウマイだろ?」
「──はい」
あーあ。
ホント駄目だな私。
見た目だけでなく、中身まで後退してるよ。目元を腕でこすり、見上げれば空はすでに満天の星で輝いていた。