13.謎の襲撃からの
「リュー!」
「副団長」
ヴァルに乗ったラジウスさんが空から降りてきた。
「大丈夫か?」
「ああ、彼のお陰で何とか」
周りを見渡し他も怪我はなしかとラジウスさんは呟いた後、私の隣の眩しいばかりの男性、光に鋭い視線を向けた。
「人と異なる…神気に似た気配だが貴方は?」
問う声は恐ろしく低い。
そんな彼にまったく動じない光はゆっくりと金色の瞳をラジウスさんに向けた。
『私を気にしている場合ではないのでは?』
「ー何が言いたい?」
『先程のは闇の力。ここから随分離れた場所の者が侵入しているようですね』
そう言うと今度は私の方へ視線を移しそのまま何故か体をこちらに屈めてきて直後、何かが頬を掠めた。
『今度は呼んで下さい。貴方が望む姿に変えられますので』
キスをされたと気づいたのは彼、光が消えた後だった。
「神器のくせにキザな奴だな」
「神器?」
今のが?とラジウスさんは、疑いの視線を私達に送る。まあ、見た目物凄いイケメンの人だったよね。
「ああ、光らしいぜ。あいつがいなかったら無傷じゃ済まなかっただろう」
確かにもう駄目かと思った。
矢が目前まできた時、私は抵抗を諦めてしまった。こんなんじゃ先が思いやられるなぁ。笑う場面じゃないのに口の端が上がった。
──あの矢の狙いは私だった。
何故私を狙ってきた?
闇…。光の国があったように闇の国があるのだろうか。今の私は無知過ぎる。
「キュ!」
足元にいたノアが、肩によじ登ってきた。
「乱暴にしてごめんね。怪我ない?」
撫でながらノアの体をざっと見る。
「クルル」
大丈夫だというように頭を擦り付けてきた。
よかった。
知識を頭に入れるのも大事だけど、それより先にする事ができた。
「ラジウスさん」
眉間に皺を寄せている彼にお願いする。
「国に着いたばかりで多忙だと思いますが、今すぐ王様に会いたいです」
更にラジウスさんの皺が深くなった。
「遅くなりすまない」
「いいえ」
初めて会う王様もまた、光には劣るけれど座っているだけなのに存在感があった。三十代くらいだろうか。
髪が真っ白で瞳は綺麗な水色。髪が真っ白だから部屋に通されて近づくまでは、かなり歳なのかと思ったが違った。
「観察は終わったかな?」
意外にもフランクな笑いを含んだような口調で言われた。じっくり見ていたのが、バレていたようだ。
「不躾にすみませんでした」
失礼なことをしたのは分かっているので頭を下げ謝る。
「話に聞いていると思うが、この城を飛ばすには私が必要で離れられなかった」
そう、この空を飛ぶ空中都市は、代々王族の血で飛ぶとリアンヌさんが教えてくれた。
血といっても実際血液を使うわけではなく、血族の者がとある場所で力を注ぐらしい。まあそれだけでは飛ばず、あとは王族のみ方法を受け継ぐとの事。ようは、王家以外は飛ばせられない。王家とか正直無縁だからピンとこないけれど。
「至急と聞いたが、まず謝りたい。我が国の神官達がすまなかった」
驚いた。
トップは簡単には頭を下げないと思っていた。
なのに、この王様は躊躇いもなく頭を下げた。
やっぱり決めた。
「陛下」
顔を上げ水色の瞳と目が合う。
「すごく迷惑だと分かっていてお願いがあります」
「何かな?」
「私は、これからここを拠点に動きたいので暫く滞在させて下さい」
王様以外が先にひそひそ話し始めた。
「それは!」
「喚んだのは神官で我が国とは関係ないんじゃないか?」
「先程の襲撃もこの異世界人を狙っていたとか」
まあ野次馬さん達の反応は予想はしていたけれど、気分はよくない。
「静まれ」
鶴の一声。
一瞬で広い謁見の場がシンッと静まりかえった。よし、この隙に話を進めよう。
「もちろんタダでとは言いません」
私は、がさごそと腰にくくりつけていた袋から叔父から貰ったオルゴールを取り出し部屋の中央へ移動した。
この謁見の場は丁度この国の中心辺りだと事前に聞いていたから。
オルゴールを床に置き、私は借りておいた果物用ナイフを取り出し、手のひらに当て軽くひいた。
思っていたより痛い。
少し深く刃が入ったのか血がボタボタと出てくる。かなり必要らしいから、切るのが1回で済むといいけど。やはり痛いのは嫌だ。
「何を!」
「気でもおかしくなったか?!」
「ユラ殿!」
野次馬の声と私の名前を呼んだ声はラジウスさん。私はそれらを無視しただ一人、王様に話しかけた。
「強固な結界をはります。この国全体に、この国に住む人達が怪我をしないように」
手から流れ出る血をオルゴールに落としながら私は、春の神の言葉を思い出す。
『一つ良いことを教えてあげる。それ、使い方によってはとても強い力を出せるのよ。私達、神なら崩せるけれど他は無理なほどに』
そして彼女、神は、また嫌な笑いをした。
『でも、なんでも代償が必要よ』
「それは何を?」
『お前の血。異界の者と我々神の気が入った物が混ざれば恐らく異質なモノが出来上がる』
私はしゃがみ既に血まみれになったオルゴールに触れた。
「この国に防御を。この国に害をなす者を弾け」
『一番重要なのは、お前の込める意志の強さ』
私は力なんてないけれど代わりに思いを手に込めた。
「これはっ!」
「なんだ!」
オルゴールを中心に光る銀の粉雪と…小さな無数の金の輝く花が出てきた。
私は更に思いを込める。
もっと、もっと強く。
今侵入している害なす者も弾け。
ブワァー!!
それは、発生した突風と共に部屋から遥か外へ広がるように飛び散り消えていった。手を添えていたはずのオルゴールもまたいつの間にか消えていた。
できたかしら?
そう口にすることなく、私の意識は薄れていった。
目を覚ませば、私はベッドにいるようだ。
「無理をし過ぎですよ」
不意に話しかけられ、声のした先を見た。
穏やかな表情のリアンヌさんがベッドの横で椅子に腰かけていた。
「あまり心配させないで下さい」
「…すみません。」
なんだか親に注意されているようだ。
「キュ」
「ノア」
枕元にノアが座っていた。
あれ?
「なにを咥えているの?」
ノアは、鈍く光る物を私の手にポトリと落とした。
「これ」
「陛下から伝言です」
リアンヌさんが微笑みながら話す。
「それは、貴方が気を失った後直ぐに変化した。貴方の望むままに」
そこで少し間があき、リアンヌさんは、ニッコリ笑った。
「我が国は貴方を歓迎する」
鈍く光るそれは、水色の腕輪。
私は、二個目を戦わずに手に入れた。
いいえ、一番重要な仮とはいえホームを手に入れたのだ。