12.訓練の見学場所で
ギィーン!
キン!
「嬢ちゃんは、こんなの見て楽しいのか?」
変わってるなぁと隣でリューナットさんが呟く。
「新鮮です」
そんなもんかね、とまた隣で呟きが聞こえた。
剣と剣のぶつかる音と撃ち込む時にあげる男達の声で広い訓練場所なのに人の気配というか密度が濃く感じる。
今日は、私に付き合わされているリューナットさんとよく晴れた青空のもと騎士の訓練を少し離れて見学していた。
「っと」
隣にいたリューナットさんが、体の大きさに似合わずいつの間にか私の前に移動し次の瞬間、水の薄い円盤の様な膜が現れ、その直後、剣が膜に弾かれ飛んだ。
これも魔法よね?
なんか、カッコいい。
現実味がない出来事を前に場違いな感想が頭の中に浮かんだ。
「すみません!」
「気をつけろ」
若い男性がしきりに謝り剣を拾い去って行った。どれくらい経っただろうか。剣の音がしなくなり訓練は少しの間休憩にはいったようだ。
私はもう少し近づいてみることにした。
「これらは、訓練用だから刃が潰されている」
大きな木の台に並べられた剣を見ていた私にリューナットさんが説明してくれる。私は大きな剣が並ぶ中、端に何本か置かれている木の棒を見つけた。目で触れていいかリューナットさんに聞くと彼が頷いたので私は、その中では一番細い棒を手にとってみた。両手で握る。
竹刀だとこのくらいの位置の握りだったような。
昔を思い出し摺り足をしながら振り上げ振り下ろす。何回も繰り返していると、ふと前に距離を少しとり、一見緩く立つリューナットさん。彼の手には私が握っているよりも太い木の棒。
目が合う。
次の瞬間私は踏み出した。
ガンッ。
剣ではないから鈍い音。でも結構手に衝撃がくる。お互い本気ではないし、もっぱら踏み込むのは私だけ。
でも、なんだか楽しい。
こんなに身体を動かしたのはいつぶりかな。
私に剣道を教えてくれたのは警察官だった祖父。私が小さい頃は既に定年間近だったが祖父の腕はまるで卵が入っているようで、よく笑いながら触った。最初は柔道だったけど肩がはずれる癖がつき剣道に変更したらしい。
かなり強かったようで家の押入れにはトロフィーや賞状が沢山あった。
でも、私がどんなに悪い事をしても、強いのに手を挙げられた事は1度もない。
それって当たり前な事だけど、すごいと思う。
祖父は、普段は無口だがお酒を飲むと上機嫌で話をする。なにより、子供の私と真剣に遊んでくれた。正直、ガビガビ、イライラの母より私は祖父が大好きだった。
まあ今なら母も仕事が忙しく疲れていたんだと理解はしている。
「嬢ちゃん!!」
リューナットさんの緊迫した声で思考を中断し彼を見た。彼の視線の先には…空に真っ黒な無数の矢。
──それらの軌道の先は私だ。
急いでリューナットさんが、防御をかけてくれたけどあまりにも矢が多すぎる。
しかも普通の矢じゃない…?
どす黒く太く禍々しさを感じる。
まだ何にも始めてないのに。
「グルル」
ノアが口から光の塊を矢にめがけて放つが、やはり量が多く全て消すのは無理だった。
「ノア、逃げて」
「キュイ!?」
私はノアを掴みおもいっきり投げた。訓練場の騎士さん達も攻撃や防御をしてくれているけどなかなか難しそう。
「リューナットさん、私から離れて」
「そりゃあ無理だな」
そう言うと、更に彼は防御の膜に力を込めるような仕草をした。
「ちっ!スゲー力のある奴だ!」
矢はリューナットさんの膜を破り私達に降ってきた。
それは突然起こった。
眩しい光がいきなり発生し、私は目を開けていられず、おもわず目を閉じた。
何…?
『貴方は呼ばないし助けすら求めないのですね』
光が徐々に収まったかなと思ったら誰かに話しかけれた。目を開けると私の前には、腰まであるストレートの金髪に同じく金の瞳の背の高い若者が庇うように立っていた。
目が合った。
絶対的な存在感に自分が潰されそうな錯覚を一瞬受ける。
「あなたは、誰ですか?」
『気づいているのではないですか?』
そのイケメン過ぎる男性は首を傾げ逆に私に聞いてきた。傾げたせいで金髪の髪がさらさら流れる。
「…光」
彼は、私の答えに満足そうに微笑んだ。
この時が、これからしばらく共に行動する人の姿をした光と対面した瞬間だった。




