11.シルビアさんとの会話
「だいぶ変わったわね」
私が部屋に入ったとたんシルビアさんに話しかけられた。
「そうですか?」
自分では多少腹をくくった程度で、まだ足りないと思う。
そう、まだまだ。
でも、これから変えていく。
変わらないと帰れないから。
今私達がいるのはお城の中で、借りている私の部屋の客間だ。私はシルビアさんの前の席に座り、さっそく話しかけた。
「私に魔法を教えてもらえませんか?」
「嫌」
即答だ。
まあ断られると思っていたし、シルビアさんと私は合わないと最初から気づいていた。
仕事をしていて思うけど、自分に都合がいい人間なんてそもそもいない。
私は話題を変える事にした。
こういうタイプは、しつこくすれば余計に嫌がる。
「この腕輪、光についてシルビアさんに聞くように冬の神ラナールから言われました」
服の袖をまくり彼女に腕輪が見えるようにする。やはり魔法使いだから、先程とは違い好奇心が瞳に宿っている。
「この部屋は、盗聴とか平気ですか?」
念のためシルビアさんに聞いてみると、私を誰だと思ってるのよと言われた。国一番の魔法使いが言うなら大丈夫なのだろう。
「この腕輪の性質というか、力を知りたいのですが」
ずっと腕輪を見ているシルビアさんに聞いてみた。
「正直なところ詳しくは知らない」
私の顔にえっ? と表情が出たのだろう。
ムッとしながらも話し出すシルビアさんは、意外にも丁寧に説明してくれた。
「地・水・火・風・光・闇を宿した物は、秘宝とも言われそれぞれ冠、杖、杯などその王座に就いた人物に合わせ形を変化させると言われている」
シルビアさんの話は腕輪を指差し続く。
「伝説レベルな話だけど、それらはまた意思があり人の姿に変化すると更に力を発揮させられると昔の文献にはあるけれど、あくまでも言い伝えよ」
…この腕輪が生きてると言われたみたいで、とたんに気持ち悪い物の様に見えてきた。
「光は、闇を打ち砕く」
「…攻撃の力をもっているってことですか? それとも闇という物にしか効果がないとか」
「さあ?秘宝だから各国も公にはしないし情報が少ない。ただ、光は心の澱を消す、ようは強く精神に作用し、まあ浄化する力があると言われている」
シルビアさんが、髪をいじりながら呟いた。
「人なんて欲望の塊だし。それがないと、もはや人じゃないと思うけど」
確かに。
そう同意するとおや? と言うように片方の綺麗な形の眉毛がピクリと動いた。
「ふ~ん、もしかしたらだけど、今後の動き次第で貴方の事、そこまで嫌じゃなくなるかも」
最後立ち上がりドアへ向かう彼女に言われたのが。
「言葉はその小指の指輪のお陰で通じているみたいだけど、神々に会って色々力を手に入れたわね」
射るような水色の瞳の視線。
「一人で戦でもするつもり?」
私は、その問いに答えず微笑んだ。
あたし忙しいからとシルビアさんは、すぐに去っていった。彼女が出ていったドアをぼんやり眺める。
──そう。これは騎馬戦みたいなものだ。
帽子を奪いに私はこれから動く。
でも、状況は最悪。仲間もいない私は1人で乗り込む。
たった1人。
信じられるのはまだ自分だけ。
「キュー」
ずっとシルビアさんを警戒していたノアがよじ登ってきてひと鳴き。
「う~ん。一人と一匹か」
ノアを撫でながら私は訂正した。
一人よりはずいぶんマシかも。
「さて、明日はどうするかな」
今度は、窓ごしに真っ暗な外を眺め明日の予定を考えた。