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四神相応  作者: 夢藤 叶見
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第5話 彼岸で

青邦は見たこともない川辺で目が覚めた。そして、近くには琉王と瑛太が倒れていた。

「雪野川!明宮!」

青邦が2人を揺さぶると、2人はゆっくり目を覚ました。

「ここは?」

「さあ、俺にもわからない。確かキトラの屋敷で襲撃を受けて、眠ってしまって、そこからの記憶が無い」

「オレたちも一緒。メイドに刺されてそこから記憶が無い」

「お前たち、そこで何をしている?」

3人が振り向くと、そこには黒髪の30代前半の男性が立っていた。瑛太は男性に聞いた。

「あの僕たち、気付いたらここにいて、ここは何処ですか?」

「ここがどこかわからないと言う事は、お前たち、自分たちがどういう状態かわかっていないのか?」

3人は男性の言葉の意味が分からず、首を傾げた。男性はため息をついた後、再び口を開いた。

「ここは彼岸。天国に昇る事も地獄に落ちる事も許されなかった魂が永遠に彷徨う場所だ」

「えっ!ということは、僕たち死んだんですか?」

「いや、お前たちの場合、肉体と魂が一時的に離れている状態の可能性が高い。もし死んでここに来たのなら肉体がどうなったのかという映像を俺たち彼岸の人間が見ている筈だからな」

男性はそう言うと、ふと思い出したように3人にきいた。

「そういえば、お前たちの名前を聞いてなかったな。お前たち、名前は?」

「周 青邦だ」「明宮 琉王」「雪野川 瑛太です」

男性は瑛太の名前に反応した。

「瑛太?お前、もしかして叶見と菊乃の幼馴染か?」

瑛太は小さく頷いた。男性は途端に明るい顔になった。

「そうか!お前が瑛太か!叶見と菊乃から話は聞いてるぞ!!すごく頭がいいんだってな」

「は、はあ」

男性は、反応に困っている瑛太の様子に気づき、瑛太から離れた。

「ああ、悪いな。叶見と菊乃の友達なら、なおさらここに居させておく訳にはいかない。肉体と魂が長時間離れていると魂は二度と肉体に戻れなくなるからな」

そう呟きながら色々と考えていた男性は思い出したように言った。

「そうだ。まだ名乗ってなかったな。俺は因幡(いなば) (とおる)。叶見と菊乃のまあ、兄貴みたいなもんだ」

「えっ!因幡さんって、菊乃さんの恩人の!?」

「叶見からはそう聞いてるのか?具体的に言うと、菊乃の養父だったんだ。一緒に居られたのはほんの7年ほどだったがな」

男性、因幡 透は川面を見つめながらそう言った。

「さて、じゃあ俺が今住んでいる家へ案内しよう。同居人たちがお前たちの役に立ってくれるはずだ」


透の家は三途の川辺から5分ほど歩いたところにある洋風の一軒家だった。家には小さな庭があり、その花壇には彼岸花が咲いている。琉王はその自分の髪の色と同じ花に興味を示した。

「エイタ、この花、オレの髪と同じ色」

「それは彼岸花っていうんだよ、琉」

「琉王は彼岸花を知らないのか?日本では珍しい花じゃないだろ」

「琉が日本にいたのは高校の2年間だけで、再び日本に帰ってきたのもつい最近の事なので」

彼岸花を見て楽しそうに談笑している3人に青邦はため息をついた。

(まったく、日本人が平和ボケしているのは知っていたが、ここまでとはな)

3人が話し、青邦がそれを遠目で見ていると、家の扉が急に開いた。そこには着物を着た無精ひげの40代前半くらいの男性が立っていた。

「透、帰っていたのか。そして、誰だ?そいつらは」

「玄武、ただいま。こいつらは俺が娘のように思っていた叶見と菊乃の友達だ」

「玄武?」

瑛太は着物の男性をじっと見つめた。男性は瑛太の視線に気づくと口を開いた。

「何だ、小僧。私に何か言いたいことがあるのか?」

「玄武って、まさか四神の憑依霊ですか?」

「そうだ。私は生きていた時の罪の所為で天国に昇る事も地獄に落ちる事も許されずここで生活している。私だけではなく、他の四神の憑依霊たちもそうだ。そして、四神の憑依主たちもしばらくここで暮らす事を強要されている」

瑛太はその言葉に驚くと、透をみた。

「じゃあ、まさか因幡さんは」

「そう。俺も四神の憑依主だった。俺がチェサーをやっていたのもその影響だろうな」

3人は驚きの表情で透を見た。琉王はきいた。

「じゃあ、イナバさんもオレたちと一緒だったんだ」

「そうだ。俺の中には玄武がいた。まあ、叶見と菊乃は知らなかったがな。玄武が憑依した人間の髪は黒色だからまずわからないだろうし」

瑛太は透にきいた。

「玄武の能力は何ですか?翔也さんも知らないって言ってたのでずっと気になってたんです」

「・・・玄武の能力は未来を予見する能力。そして、相手の心の中に入り込む能力だ」

玄武はため息をつくと、透に言った。

「透、お前、まさか自分の正体を妹だと思っていた娘たちにも話していなかったのか?お前は私に自分から話すから何も言うなと言っていたから黙っていたのだぞ」

「ああ、結局何も言わなかったよ。予見してしまったからな、俺がいつ死ぬのかを」

「それでも憑依主の先輩として叶見という娘に何か言ってやることが出来たかもしれんのに。それに、未来が見えるといっても見える未来はあくまで可能性の話だ。行動を変える事で阻止する事もできたはずだ」

透は玄武の言葉を聞くと俯いた。

「勿論、俺の死が叶見と菊乃の心にどれほどの傷を負わせることになるのかわかっていた。しかし、俺の死を叶見たちが乗り越えなくてはもっと残酷な未来が2人を待っている事に気づいてしまったから・・・かな」

その場に沈黙が降りた。それを破ったのは玄武だった。

「とりあえず、お前たち、中に入れ。軒先で話すような話ではなさそうだからな」


透たちの家は洋風な外見と同じく中も洋室ばかりだった。3人は通された居間で部屋の中を見渡した。

「随分と近代的なところに住んでるんだな。憑依霊たちは」

「俺がここに来た時に地獄の鬼たちに建ててもらったんだ。どうやらあの世でも俺は有名人だったらしい。サインやるって言ったら喜んで協力してくれたよ」

青邦の言葉に透はそう返した。瑛太は心の中で思った。

(なんか、因幡さんって想像と違う。もっと純粋で、誰かを利用して使う人じゃないと思ってたよ)

「透のすごいところは相手の心の裏まで見据える事が出来るところだ」

いつの間にか透の横に座っていた玄武がそう言った。

「も、もしかして僕の心の中、読みました?」

「読まずとも表情で分かる。お前は3人の中で一番わかりやすいからな」

瑛太はその言葉にただ曖昧な表情を返した。青邦はため息をつくと向かい合っている2人にきいた。

「それで、どうすれば俺たちは元の体に戻れるんだ?それに夢藤を助けないと」

「その事を今から話すのだ」

玄武はそう言って青邦を黙らせると話し始めた。

「お前たちの肉体は神の能力を持つ小僧の元にある可能性が高い。しかし、お前たちの肉体は今、四神の憑依霊たちが借りている。奴はお前たちの魂を外に放り出し、四神の憑依霊たちに肉体を与えたのだ」

「そうか。この家に玄武以外居ないのはその所為だね」

琉王は納得したかのように周りを見渡した。

「じゃあ、かなさんの体も同じようになっているんですか?」

「いや、叶見の肉体はもっと厄介な事になっている」

その言葉に3人は透を見た。透は深刻な表情で話し始めた。

「俺のような元四神の憑依主は、他の四神の憑依主や憑依霊の存在を感知する事が出来るのだが、今、叶見の存在が感じられない。そして、白虎もここにいない。どうやら叶見と白虎の魂は無理矢理融合され、叶見の存在がかき消されている可能性が高い」

「そんな!じゃあ、夢藤を救う事はもうできないのか!?」

「いや、方法はある」

透は一息つくと再び話し始めた。

「叶見の心の中に侵入し、叶見が自ら白虎の魂と分離する事を望むように説得する。そのためには玄武の心に入り込む能力が必要だ。しかし、俺はもう死んでいてこの彼岸から出る事は出来ない。そんな中、玄武の能力を現世で発揮するには方法は一つしかない」

透は瑛太を指差した。

「瑛太、お前が新しい『玄武の憑依主』になるんだ」

瑛太は想定外の言葉に驚きを隠せなかった。透は続けた。

「さっき言っただろう、俺の死をあの子たちが乗り越えなければもっと残酷な未来が待っているのが見えたと。それは神の能力を持つ少年に叶見が捕らわれ、白虎と融合して一生その少年の操り人形として生きる未来だった。しかし、それを阻止するために俺が死ねば玄武の能力を現世で使う事が出来なくなる。俺はずっとその2つのリスクの板挟みになっていた。結局俺はそのまま自らの死を選んだ。それは何故かわかるか?」

透は瑛太を見据えて言った。

「瑛太、お前の話を叶見や菊乃から聞いていたからだ。お前ならきっと玄武の能力を使いこなす事が出来る。そう思ったんだ。・・・ただの押し付けかもしれないが、俺自身はお前の才能を買っているんだ」

「ちょっと待って、イナバさん」

琉王が突然立ち上がった。

「正気?エイタにオレたちと同じになれって言うの?オレたちのように普通の人間には無い能力で苦しめって言うの!?」

「その点に関しては俺も同意見だ。雪野川は俺たちに巻き込まれた一般人だ。俺たちと同じになる必要はない」

「2人共、落ち着いてください!」

瑛太は、透と玄武に詰め寄る琉王と青邦を止め、透と玄武に頭を下げた。

「少し考えさせてください」


瑛太は話が終わった後、憑依霊たちの家を出て三途の川辺に座り、天国と地獄に向かう渡り船を眺めていた。そこに琉王が瑛太の隣りに来た。

「琉、僕が『玄武の憑依主』になれば、かなさんを助ける事が出来るんだよね。・・・でも、ならなかったらかなさんは助からない」

「そうだね。でも、イナバさん言ってた。エイタが決めていいって。エイタはどうしたいの?」

瑛太は琉王の問いかけに答えず、ずっと川を見つめている。琉王は瑛太の隣りに座ると瑛太を抱きしめた。

「琉?」

「エイタは優しいね。優しいからいつも、オレや皆の意見を優先して、自分の気持ちは後回しにしてしまう。でも、今回はエイタ自身の問題だ。自分で決めていいんだよ」

琉王は瑛太の目を見てきいた。

「もう一度きくよ。エイタはどうしたいの?カナや皆の事抜きにして、エイタ自身はどうしたいと思ってるの?たとえそれが皆の望んでいない物だとしても、オレはエイタを拒絶しない。エイタの事、大好きだから」

「・・・僕自身は・・・」

瑛太は無意識に涙を流していた。

「本当は怖いんだ。今まで僕はかなさんたちに守られてきた。何の能力も持たない僕は戦闘では役立たずだし、かなさんたちの助けになる事が出来なくて。そんな僕が玄武の能力を所有しても何もできないんじゃないかって、そういう考えしか浮かんでこないんだ。・・・わかってる!僕が決断しなければかなさんを救う事が出来ないってわかってるのに、勇気なんて持てない!!」

瑛太は琉王の腕の中で弱音を吐きながら泣き続けた。琉王は瑛太が泣き止むまでずっと瑛太を抱きしめていた。

しばらくたって、やっと瑛太は落ち着きを取り戻した。

「・・・情けないな、こんな姿を琉に見られるなんて」

「そう?オレはエイタの本音を聞けてうれしかったけど」

琉王の微笑みに瑛太は顔が赤くなった。しかし、それを払拭するかのように瑛太は立ち上がった。

「琉、因幡さんの家に戻ろう。もう弱音は全て吐き切ったから、おかげで覚悟はできたよ」

その時、琉王は危ない気配を察知し、川辺の上流側を振り向いた。そこには黒いローブを羽織った魔法使い、ガルダが立っていた。琉王は瑛太を背中に庇った。

「ガルダ!何故ここにいる!?」

「キトラという少年から四神の憑依主たちの魂を消すように依頼されたからだ。お前たちは肉体から解き放たれ、もうとっくに消滅したかと思っていたのだが、何故かこの彼岸に魂がたどり着いている事をあの少年が感知したからな。・・・さて、琉王。目的を果たさせてもらおう。お前をここで殺し、マルスに行ってお前の兄を殺し、王族抹殺計画を今度こそ完遂する!!」

「相変わらずしつこいね、ガルダ」

琉王は瑛太に振り向いた。

「イナバさんとシュウを呼んできて。ガルダは俺がここで食い止めるから」

瑛太は頷くと憑依霊たちの家に向かおうとしたが、ガルダが杖を掲げ、呪文を唱えた。すると、杖の先から出た大きな炎が瑛太を襲った。琉王は瑛太を庇い、炎の攻撃を直接受けた。

「琉!」

「・・・大丈夫。スザクの能力は自然界の物を操る能力だから、炎には慣れてる」

その時、青邦と透が2人に駆け寄ってきた。青邦はガルダを睨み付けた。

「誰だ、お前は!」

「わが名はガルダ。元マルスの魔術師だ。私の野望は私を祖国から追放したマルスの王族の抹殺。琉王は元マルスの第2王子。私の獲物なのだ」

青邦は驚きの表情で琉王を見た。琉王は「本当だ」と答えるように頷いた。透は流王の傷の具合を見ている。

「さすが朱雀の憑依主。大した火傷じゃない」

「だろうね」

琉王はそう答えると立ち上がり、ガルダを見据えた。

「ガルダ、オレはまだ死ぬわけにはいかない。日本に行ってたくさんの人に会って、たくさんの思い出を作った。この先ももっと作りたい。それがオレの唯一の我儘だ」

「そんなもの、すぐに消し去ってくれる」

2人は攻撃態勢のまま睨み合った。

「琉王、やめろ!今のお前は朱雀の力を使えない!マルスの魔術師と対等に渡り合えるわけがない!!」

「イナバさん、エイタとシュウを連れて家に戻って。エイタ、ゲンブの憑依主になる事決めたから、今の2人ならカナを助けられる」

その時、琉王の横に瑛太が並んだ。琉王は驚きの表情で瑛太を見た。

「エイタ?」

「因幡さん、周くんを連れて家に戻ってください。そして、かなさんの元に届けるように玄武に言ってください。僕は玄武の憑依主になる事を受け入れる。だから、憑依主である僕がその場にいなくても、僕自身が望めば、力を所有している玄武自身は力を発揮できるはずです。・・・いつも通りの、僕の都合のいい勘です」

瑛太は透に振り向いて微笑んだ。透は瑛太の決心を知り頷くと、青邦の腕を引き、「行くぞ」と言った。青邦がそれに頷き、2人が川辺を去って行った後、瑛太はガルダを見据えて言った。

「たとえ、玄武が力を発揮できなかったとしても、僕は琉を見捨てません。琉にはこの先も生きてほしい。王族のしがらみに捕らわれる事のない解放的な未来で生きていてほしい。その未来をあなたが邪魔するというのなら、僕はあなたを許さないし、あなたが執着心のために何度琉を殺そうとしても僕が阻止して見せます!!」

ガルダはおかしそうに笑うと、杖を2人に構えた。

「お前のような普通の人間に私は倒せんよ。これから証明してやろう。琉王を殺す事でな!」

杖の先から発せられた雷が2人を襲ったが、2人は左右に散ってそれを避けた。ガルダはその時を見計らっていたかのように瑛太に次の雷の攻撃を素早く仕掛けた。瑛太は地べたに落ちていた大きな石を雷の方に放り投げ、攻撃をかわした。瑛太はこの瞬間にガルダの攻撃の突破口を見つけた。

(そうか、1度目の攻撃を繰り出した後、2度目の攻撃に移る間に2秒ほど隙が出来る。その隙に何かできれば)

ガルダは、瑛太がそう思っているうちにも絶え間なく攻撃を別れた2人に仕掛けてきている。それをかわし続けている瑛太の目に壊れた渡し船の残骸が飛び込んできた。

(あれだ!)

瑛太はガルダの攻撃をかわしながら、渡し船の残骸にたどり着き、雷を船の残骸で受け止めた。予想外の事にガルダがひるんだすきに船の中にあったパドルをとりだし、ガルダの杖目がけてやり投げの要領で飛ばした。ガルダは腕にパドルの攻撃を受け、杖を吹っ飛ばされた。その隙に瑛太はもう1つのパドルを構え、ガルダに急接近して攻撃を仕掛けた。やっと倒す事が出来ると瑛太が思った瞬間でもガルダは笑みを浮かべていた。その笑みの意味を瑛太は急接近するまで気づかなかった・・・ガルダの手に小型の拳銃が握られているのを。

(撃たれる!)

銃声が川辺に響いた。しかし、撃たれたのは瑛太ではなかった。いつの間にか瑛太とガルダの間には琉王が割り込んでいて、銃声が響いた瞬間、琉王は胸に銃弾を受け、倒れた。瑛太は一瞬何が起こったのかわからなかった。

「・・・琉?」

琉王の体を揺さぶるが返事はない。そして、瑛太の両手には紅蓮色の血が大量についていた。瑛太はやっと正気に戻った。

「・・・琉!琉!!起きてよ!琉!!」

「わかっただろう、小僧!これで終わりだ!!」

ガルダは琉王を撃った拳銃を再び瑛太に向けた。瑛太は今度こそ終わりだと諦めて目を閉じた。


しかし、瑛太が撃たれそうになったその時、その場の時間が止まった。そして、瑛太の腕の中にいたはずの琉王は何故か川辺に立っていた。自分の体の至る所を触ってみたが、いつもと変わりなかった。

「あれ?オレ、撃たれたはずなのに・・・何で?」

「私があんたを呼んだんだよ、琉」

琉王が振り返るとそこには長い赤髪をポニーテールにした着流しの美女が立っていた。その美女に琉王は見覚えがあった。

「スザクだよね?ていうか、呼んだって、何で?」

「・・・全く、無茶をするよ、あんたは!まあ、あんたの危機が私を正気に戻してくれたから不幸中の幸いって奴なのかね。でも、あんな無茶はなるべく謹んでほしいもんだよ。・・・はあ、何で私の憑依主たちは皆無茶苦茶な人ばかりなのかねえ」

「えっと・・・ゴメン」

琉王は怒られた気がしたため、朱雀にとりあえず謝った。朱雀はその様子を見るとにっと笑って琉王の頭を撫でた。

「けど、おかげで思い出したよ。前の憑依主と交わした最初で最後の約束の事。琉、そのためにはあんたの助けが必要なんだ」

「約束って・・・もしかしてアンって呼んでた子との約束?」

「そう。映像で見たんだろ?そして、あんたは杏と出会って涙を流した。あれは私の気持ちそのものだった。あの子が生きていて嬉しいって気持ちとあの子が人形みたいになっていて悲しいって気持ち。あんたはいつの間にか私の気持ちに共感するようになっていたんだ。それほど、私たちは心の深い部分でつながっていたんだ」

琉王の頭から手を離すと朱雀は琉王を抱きしめた。

「琉、あんたは私みたいになる必要はないよ。ていうか、私ももう二度と大切な人を失いたくない。一人になりたくないんだ」

「・・・わかってる。オレ、知ってるよ。一人は怖い。一人ぼっちはさびしいよ」

琉王はそう呟くと、肩を震わしている朱雀を抱きしめ返した。

「スザク、オレ、ずっと一人だった。でも、スザクと初めて会ったあの時、一人じゃなくなって嬉しかった。そして、今のオレにはたくさんの仲間が出来た。もう二度と失いたくない。だから、オレ、スザクを受け入れるよ。・・・共に戦ってほしい!」

朱雀はその言葉に頷くと、琉王の目を見据え、その唇にキスをした。その交わされたキスが、朱雀が琉王を受け入れた印だった。


その瞬間、赤い光が2人を包み込み、川辺の時間が動き始めた。瑛太は腕の中にいたはずの琉王が姿を消したが、辺りを探す必要はなかった。琉王が包まれた赤い光はその場にいた全員の視線を奪った。瑛太は琉王に駆け寄り、抱きしめた。

「琉!・・・よかった無事で!!」

「エイタ、オレがエイタを守る」

琉王はそう呟いた。瑛太は琉王の目を見た。琉王の目は青色から紅蓮色へと変化している。だが、朱雀が体を借りているわけではない。琉王の意志だと瑛太はわかっていた。その大きな威圧感は元大魔術師であるガルダも圧倒した。

「琉王・・・何だ!?その力は!?」

「スザクがオレを呼んでくれた。そして、受け入れてくれた。オレはもう一人じゃない。スザクがアンと交わした約束を果たすために、そしてオレたちの未来のために共に戦う!」

その瞬間、ガルダは呪文を唱え始めた。すると、杖の前に大きな雷の塊が出来、琉王と瑛太に差し向けられた。

「そんなもの、すぐに壊してやる!!!」

雷の塊はまっすぐ二人に飛んできた。琉王は瑛太を庇い、手を雷の塊に向けた。すると、琉王の手から炎が飛び出し、雷をかき消した。

「何!?」

「スザクの能力、自然界の物を操る能力。そんな雷、怖くない。それに」

琉王はそう言うと、先ほど炎を出した手から雷を出した。

「お前の攻撃を倍返しすることもできるし、違う物を操る事も可能」

ガルダは足首を泥に絡め取られ、身動きが取れなくなった。

「ま、待て」

「待たない。お前のやったこと、オレは絶対許さない」

琉王は、身動きの取れないガルダに近づき、その体に雷を放った。ガルダは叫び声をあげながら消滅した。

「ガルダ、お前の敗因はオレと瑛太を敵に回したことだ」

「すごいよ、琉。ガルダを倒すなんて」

「・・・これで、オレとリョウはもう命を狙われない・・・良かった」

琉王は疲れて膝をついた。瑛太は琉王を支えた。

「琉、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。休んでる暇はない。早く、カナを助けないと」

琉王は瑛太に支えてもらい、何とか立ち上がった。2人が家にたどり着く前、既に青邦は玄武によってある場所に送られた後だったが、2人がその場所を具体的に知る事になるのはまだ後の話だ。

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