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男の子と病気の女の子のお話

作者: まぷれうた。

登場人物

村橋美月(むらはし みつき)

小野谷幸太(おのや こうた)

村橋颯汰(むらはし そうた)

・村橋母

 フラれてから半年。

 幸太は、同期の中で1番仕事のできる男になった。

 美月のことも忘れ始めてきた。

 そんなある日。

 プルルルル、プルルルル、プルルルル…

 幸太のスマホに知らない番号から電話がかかってきた。

 最初は無視していた幸太だが、何度も何度もかかってくるので、出ることにした。

「もしもし?」

『やっと繋がった!小野谷幸太さんですよね!?』

 嬉しそうでもあり焦っているようでもある不思議なトーンの声が幸太の耳を貫く。

 思わず耳からスマホを離してしまう。

『僕、村橋颯汰っていいます。村橋美月の弟です。今すぐ県立病院に来てください!』

 謎の電話は元カノの弟からだった。

 避けに避けられたというのに、今更一体なんの用があるのだろうか。

 理由はいいからまず来て!と催促され、幸太は病院へと走った。


 病院の中へと入ると、ものすごい勢いで手を振って手招きする男の子がいた。

 幸太だと知っているのか、全力で走り寄ってくる。

「小野谷さん待ってました!付いて来てください!」

 ぐいぐいと引っ張られるままに、付いていく。

 歩きながら、颯汰が説明する。

「8ヶ月前、姉ちゃんが白血病だって分かったんです。病院通いしたけど、全然良くならなくて。2ヶ月前に生死が危うい所まで悪化して…緊急入院が決まったんです。俺も母さんも、小野谷さんに言った方がいいって言ったんですけど、死ぬかもしれないって分かってた姉ちゃんは、別れるって聞かなくて…ちゃんと説明もしないで別れたんだって今知りました」

 エレベーターで連れていかれたのは、4階の無菌室だった。

 無菌室の前に置かれたベンチに美月のお母さんが座っている。

「毎日あぁなんです。もっと強い子に産んであげられなかった自分のせいだって」

 颯汰の声で気づいたのか、美月のお母さんがこちらを向き、立ち上がる。

「幸太くん、来てくれたのね」

 笑顔を見せるが、その口は引きつり、目は泣いていたせいか腫れていた。

「無理しないでください。座っていて大丈夫ですから」

 美月のお母さんの肩へと腕を回し、座らせる。

 そのまま泣き始めてしまったその背中を、俺は優しく撫でることしかできなかった。

 無菌室の大きな窓の向こうを見ると、美月と目が合った。

 美月は大きな目をさらに見開き、俺の存在に驚いていた。

 しばらくその時間が続いたが、気まずくなった美月が目をそらし、向こうを向いてしまった。



 それから俺は、仕事が終わってから面会時間が終わるまで病院で過ごすようになった。

 美月の反応は相変わらず冷たいものだったが、病院通いをやめることはなかった。




 俺が病院通いを始めて2ヶ月が経った。

 美月の容態が落ち着いてきたことや、これ以上このままでは命が危ういことなどから、1週間後に手術することが決まった。

 手術当日まで美月が俺と話すことはなかった。

 手術の日。

 俺は仕事を休み、手術室の前で美月を待った。

 手術室に入る前、一瞬だけ美月と目が合った。

 諦め、悲しみ、恐怖が映ったその目に、声をかけることができなかった。

 朝7時に始まった手術は、予定の時間を2時間過ぎて終わった。

 手術は成功。

 手術後、様子見のために、美月は1ヶ月入院したままだった。

 その間も俺は美月の元へと毎日通った。

 美月と話すことも、目を合わせることもなかったが、俺はそれでも満足だった。

 美月のこれまでの言動はすべて俺のためだということが、分かったからだ。

 俺の気持ちをよく理解してくれていた。

 それが分かった時、俺は覚悟を決めた。




 美月が退院する日、俺は花束を持って外のベンチで待っていた。

 自動ドアが開き、美月を囲むようにして颯汰とお母さんが並び、笑いながら病院から出てくる姿に思わず笑みがこぼれる。

 ベンチから腰を上げ、美月の元へと向かう。

 美月たちも気づいた。

 慌てる美月の肩にお母さんが手を置き、颯汰が背中を押す。

 押された美月が前に出て、2人の空間ができあがる。

「退院おめでとう」

「…ありがとう」

 差し出した花束は、なんとか受け取ってくれた。

「あのさ、」

「どうして」

 俺の声を遮るように美月が声を荒らげる。

「どうしてあれだけの事をしたのに、ここにいるのよ!何のために遠ざけたと思ってるの!?これじゃ意味ないじゃない!ねぇ、どうして…どうしてなのよ……」

 泣き出してしまった美月に、俺は笑顔で、当然のように言葉をかける。

「お前が好きだからだ」

 はっと顔を上げた美月を抱き締め、俺は続ける。

「どうせ、親の事を考えてくれたんだろ。前に言った事を覚えていてくれたんだろ。だからお前は俺の前から消えたんだろ。俺を傷つけないために。『これ以上大切な人は失いたくない』確かにそう言った。でもな、おまえがやったのは、俺を1番傷つけたんだ。だけど、理由を知った時、そんな事どうでもよくなった。俺のためって分かったから」

 俺は6年前、高2の時に母親を亡くしている。その2年前に父親も亡くなっているから、俺には両親がいない。

 母さん子だった俺は、母さんが亡くなってから涙もろくなった。ことある事に泣いて美月を困らせていた。

 そんな俺を見てきた美月にとって、自分がその原因になるかもしれないという事実が許せなかったのだろう。

「フラれてムキになっていた。お前が好きになった男はどんな奴なのか、ずっと考えていた。お前の気持ちに気づけなかった。何ヶ月も1人にしてすまなかった。俺で良ければ…」

 そこまで言って、喉が干上がった。

 もし断られたら。もし美月の話が本当だったら。

 そんな不安が頭をよぎる。

 でも、覚悟を決めたんだ。男に二言はない。

「俺で良ければ結婚してくないか。いや、結婚しよう」

 美月の顔が見たくて腕を解くと、美月は下を向き花束を握り締めていた。

 握りしめられた花束はくしゃくしゃになっていた。

「…またなるかもしれないんだよ?その時は死なないなんて保障はないんだよ?もう幸太の辛い顔見たくないからフったのに、なのに、なんで…」

 108本の薔薇を掴むその手を取り、俺はもう一度美月にさっきの言葉をかける。

「お前が好きだから。何度も言わせんな」

 もう一度抱き寄せ、美月が落ち着くのを待つ。

「俺と結婚してくるよな?」

 返事は聞こえなかったが、腕の中で美月がしっかりと頷くのが分かった。




 あれから月日は経ち、美月は母親になった。

 体は決して強くはないが、家の中の権限は全部美月に持っていかれてしまった。

 俺はすっかり尻に敷かれている。

 お義母さんたちは孫ができたと大喜び。毎週のように孫の顔を見に来ている。

 母さんが死ぬ間際に言ったあの言葉。

 あの時は叶えられる気なんてしなかったけど、今なら言える。



 母さん、俺今すげー幸せだよ。

 短編3作目いかがでしたでしょうか。

 Twitterに上げた分を除けば2作目かな?


 この作品を書く時に、男の子の設定はすぐに決まったのですが、女の子の方が中々決まらず…

 そりゃあそうですよ、男の子にはモデルがいるんですもの。

 女の子は、男の子とは違う方向の辛さを持っているという設定にしたら、今回の話ができました。

 病院で話せない状態は…と考えた結果、無菌室しか出てきませんでした。

 無菌室に入るような状態は…と考え調べましたが、白血病しか分かるものがありませんでした。

 もっと勉強が必要ですね(汗)


 さて、話の内容の説明にいきましょう。

 と言っても大してないのですが。

 書いていてふと思ったことが2つあって、美月の交際を家族全員が知っていてプラス認めているということに疑問を抱きました。大分オープンな家なのかな、と。

 もう1つは、美月の父親はどこにいったのか。書き終わってから登場していないことに気がつきました。…単身赴任ということにしておきましょう。

 次にあえてこういう書き方をしたのだという所を紹介します。

 全部で3つです

 1つ目は花束です。ずっと花束としか書いていなかったものを、最後だけ具体的に説明しています。退院祝いの花束にも、プロポーズにも見えるようにこの書き方にしました。

 2つ目は、「108本の薔薇を掴むその手を取り、…」の所です。なぜわざわざ手を取ったのか書いていませんが、ここで幸太が美月の指に指輪を付けています。書いた本人としてはそのつもりで書きましたが、なぜ手を取ったのか、それは読者様それぞれの捉え方にお任せします。

 3つ目は、幸太の母親が言ったセリフを書いていないことです。死ぬ間際、親が子供に思うことは本当に色々なことがあると思います。幸せになりなさいという意味の言葉を伝えたというのが伝わるだけで十分だと思い、あえて書きませんでした。


 書く話全てがラブストーリーだと最近気がつきました。

 いつかバトルものを書いてみたいものです。

 そのためにも書き方の勉強を……!

 今回も読みにくいだろうに、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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