表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元兵士の悪夢

「あはは~逃げても無駄だよ☆」


 キンキンと響くアニメ声と怪物二匹の唸り声を背に、俺は必死に逃げ回っていた。


「ちくしょ~俺が何をしたって言うんだ!」


 そんな事を叫びながら逃げ回る俺は、何故かとっくに辞めた筈だった軍隊時代の装備を着込んで、実弾や手榴弾を装備し、武器も背負っているような状態だった。


 迷彩服にヘルメットを被り、ブーツを履いてピストルベルトにサスペンダー、ベルトには腹の左右に二個づつ、合計四個の予備弾薬入れを通して、右脇に手榴弾の入ったポーチ、水筒と折り畳みスコップを背中側に着けている状態だったが、弾薬入れには全て弾薬が入っているように重い。


 背中に武器を背負っている感覚もする。背負い紐で背中にアサルトライフルと使い捨ての対戦車ロケットを一発分背負っている感覚を感じる。アサルトライフルには弾丸が入った弾倉が刺さっているようにしか思えない重さで、対戦車ロケットも、訓練の時使う一度撃って撃ち殻になった軽い本体では無く、中にロケット弾が入っているとしか考えられない重さだった。


 他は、サスペンダーに何個か手榴弾が括り着けてあるのが見える。


 何でこんな状況になっているのかは俺が聞きたいぐらいだ!誰か教えてくれよ!、軍隊なんてとっくに辞めたはずが、なんで軍隊に居た時の装備で、本物の武器弾薬を着けたまま俺はこんな化け物共に追いかけられているんだ?。ついさっきまで部屋で寝ていたはずだろうが!。


 追い掛けて来ている化け物は二匹と一人だった。化け物の一匹はライオンを二倍ぐらい大きくしたような奴だが、もう一匹はカメレオンを巨大にして鱗を生やしたような外見だった。そして、一人と言うのがアニメ声のゴスロリ幼女だった。金髪ツインテールの色白な外見だが、無邪気に獲物=俺を追い回す様は、得体の知れない恐怖と不気味さを感じた。化け物二匹の仲間なのは分かるが、一体何なんだあれは!。


 俺は隙を作るべく、たまたま目に付いた閃光手榴弾を掴んでピンを抜いてから後ろに放り投げ、側の岩場に滑り込んでから耳を塞いだ。


 大きな爆発音と激しい閃光を確認しつつ、岩場の中を少し走って距離を取り、岩の影から除き込んで怪物共の位置を確認してから、ピンを抜きつつ閃光手榴弾、追加で催涙ガス手榴弾を掴んでピンを抜き投げるの動作を数回繰り返す。ここから通常の手榴弾を投げたかったが、俺まで爆発に巻き込まれそうだったのでこの組み合わせになった。


 爆発音が響くと同時に、姿勢を低くしたまま横に全力疾走して距離を稼ぐ。そして、対戦車ロケット弾の背負い紐を掴んで背中から外しつつ、左手で筒状の本体上部を掴んでから肩に担ぐように構え、急停止の要領で土をえぐりつつ速度を殺してから、真後ろに方向変換し、照準機を立てて安全装置を外す。そして、混乱する化け物の脇腹に照準を合わせて、引き金を引いた。


 バシュ~ン!とガスを噴射しながら肩の発射装置から飛び出して行く対戦車ロケット弾。


 軽い反動と吹き抜けるガスの風圧が舞う粉塵を顔に浴びるが、妙に心地良い。


 こいつなら最新式戦車でも特に厚い、正面の装甲をぶち抜いて一発でスクラップに出来るし、分厚いコンクリのトーチカなんかも一発で粉砕出来る。つまりは、俺達歩兵が持ち運び出来る最強の武器だ。


 そして俺の希望と願いを乗せたロケット弾は、奴の脇腹に寸分の狂い無く命中して吹き飛び、怪物はひっくり返ってそのまま爆発の煙と粉塵で見えなくなる。


 粉塵から腕で目を守りながら、やったそ!と叫びたい衝動に駆られたが、次の瞬間、絶望した。そいつは、何事も無かったかのように粉塵の中から歩いて来た、傷一つ付いていない。


 んな馬鹿な・・・口をあんぐりと開けた俺は、使用済みになった発射筒(本体)を放り投げ、慌てて通常の手榴弾のピンを抜いて適当に投げ付けてから、岩場へ全力疾走する。


 手榴弾は随分と手前に落ちたようだ。爆発音で耳がキーンとなり、聞こえなくなる。最悪な事に、飛び散った破片も背中に当たったようだ。激痛を感じるが、無視してひたすら走る。


 徐々に耳は音が聞こえるようになるが、背中から出血しているようで、生温い感触を感じる。これは本当に不味いかもしれない。


 しかし、それでも走らなければならない。岩と岩の間を走り、小さい岩は息切れと出血でフラフラになりながらもよじ登る。


 恐らく手榴弾なんかでは、足止めにしかならんだろう。閃光手榴弾と催涙ガス手榴弾は尽きた。かと言って今通常の手榴弾なんか使ったら、振り向いて投げた瞬間奴らとの距離が近ければ、巻き添えで自分も死んでしまう。更に距離が近い場合は、振り向いた瞬間に追い付かれて、そのまま美味しく頂かれ人生卒業end。ならばアサルトライフルは?、無理だ。対戦車ロケット弾でも効かなかったんだぞ。目に当てたとしても・・・多分ダメだ。目にアサルトライフルが効くぐらいなら、対戦車ロケットの破片で潰れていなければおかしいし、口の中で撃てば効くかもしれんが、そんな度胸は無い。仮に殺れたとしても、もう一匹に喰われる。完全に詰んだ事に今更ながら気付いた。だがまだ死にたくねぇ!。


 対戦車ロケットが効かない化け物共と戦うなんて冗談じゃねえ!俺は実戦経験なんてねえんだぞ馬鹿野郎が!。


 奴が対戦車ロケットで死ななかった時点で、心は完全に折れていたのか。それに思い至り、絶望する。あんなのどうやって勝てと言うんだ!。必死に逃げてはいるが、どんどん唸り声が近付いて来る。


 そして走ったりよじ登ったりしている内に見晴らしの良い場所に出て、俺は絶望した。


「あはは~見つけたよ!☆」


 正面に、ゴスロリ幼女と化け物が居た。



 最早これまでか・・・。


 激痛と出血で飛びそうになっていた意識を維持していた枷が、絶望で外れ、倒れそうになるも、根性で何とか踏み留まり、せめて道連れにしようと手榴弾を握るが、背後から生暖かくて長い舌が両腕と胸を縛るように巻き付き、そのまま後ろへ宙を浮きながら引き込まれる。


「うっうわああああああああ!」


 そのまま化け物の口に納まり、腹に歯が突き刺さった時、目が覚めた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「うわああああああああ!」


 叫びながら飛び起きて目を覚まし、周囲の状況で気付く。


「ゆっ、夢だったか。」


 周囲の状況は真っ暗で、月明かりに照らされている状況ではあったが、見慣れた俺の部屋その物だった。


 俺の部屋は友人達から魔窟とか、漁ったら何が出てくるか分からない危険な部屋扱いされている事から分かるように、部屋の物は大抵が乱雑に置かれ、散乱している。軍を辞める時に貰って来た迷彩色な物品や装備品、辞めた後に買った服や物品に、軍時代の私物まで混ざってカオスな状態になっている。


 いい加減部屋を片付けねばならないとは思うが、見慣れた光景に安堵した。未だに心臓がバクバクしている、夢で本当に良かった。


 落ち着いたらまた寝よう、その頃には悪夢も消え去っているさ。とか気障な台詞を考え、再び眠気を感じ、ボーッとしている時に、悪夢が舞い戻ってきた。


「あはは~お兄ちゃんどこにいるのかな?遊びに来たよ!☆」


 今度は現実に。



 俺は思わず飛び起きた。嘘だろ!誰か嘘だと言ってくれ!。


 無情にもドアの向こうから、怪物の唸り声と足音が聞こえる。


 どうする?どうすりゃ良いんだ!武器なんて軍隊から持って来てねえぞ!あるのは刃物・・・話にならねえじゃないか!。何か無いのか何か!。


 そうだ!あれがあるじゃないか・・・。だが・・・俺は助からないな。数秒逡巡するが、覚悟と方針は決まった。なるべく音を立てずに、ある物を部屋の奥から出して、窓の外をゆっくりと確認する。幸い奴らは窓から見えないようだ。


 ここはアパートの一階で、外には簡単に出られる。音を立てないように仕舞ってあった運動靴を出して履き、空気の入れ換えの為鍵を開けたままだった窓を、ゆっくり音を立てずに開けて、外へ出る。足音を消して50メートル程歩いてから俺は叫んだ。


「来い!化け物ども!」


 そのまま一目散に走った。近くの公園目掛けて。あの公園だったら今の時間なら誰も居ないだろうし、道で誰かと遭遇する心配も少ない。


 持ち出して来たこれをアパートで使ったら俺以外にも巻き添えの死人を出すのは確実だったし、化け物共の犠牲者が確実に出やすくなる。公園だったら死ぬのは俺だけで済むし、人の多いアパートよりはマシだ。


 首だけで振り向くと、怪物とゴスロリ幼女の姿が僅かに見える。念の為音に集中すると、後ろから怪物二匹分の唸り声と足音を判別出来たので、安堵した。取り敢えず成功のようだ。全力で走っているが、奴らはわざと一定距離を保って追い掛けて来ている、これも予想通りだ。


 俺は奴らにとって、狩りの獲物でしか無い。夢で見た奴らの狩り方は、獲物は追い詰めて楽しんで相手を絶望させてから喰うやり方だった、だから現実でもそうするだろうと咄嗟に思ってこの作戦に出たが、今の所正解のようだ。


 そして息切れで気が遠くなりそうになりながらも公園に入り込み、俺は真ん中で急減速しながら停止、ポケットからそれを出して回れ右した。


 出したのは手榴弾。何でこんな物を持っているかと言えば、軍時代に危ない上官と仲良くさせて頂いていたからだろう。


 辞めた後にその上官が餞別として、部隊で余っていた期限切れ寸前の戦闘糧食約二十箱を車で運んで来た事があった。この手榴弾は、その中に手紙付きで隠してあった。


「いざとなった時使ってくれ」


 とか書いてあったが、正直頭を抱えた。青くなって上官に電話した。何でこんな物騒な物を上官が持っていたか疑問だったが、隣国の軍隊からの横流し品だと聞いて納得した。


 割と最近まで隣国の軍隊は、武器や装備品の管理が適当だったと良く聞いていたので、納得出来る話だった。


 上官から聞いた話と言うのは有りがちな話で、酒場で金が払えなくて困っている隣国の軍人を助けてやった結果、たまたまその助けた軍人が武器弾薬担当の将校で、礼だと言って銃器弾薬と一緒に押し付けられたと言う話だった。


 結果的に、俺は知らぬ間に押し付けられてしまった形だ。ちなみにだが、そのヤバい餞別の品に気付いたのは、上官が餞別を届けに来た半年後だった。笑えるだろ!。俺はすぐ真っ青になったが。


 危ない物なので、正直持っているのが嫌だった。だから上官に返品しようとしたが、それも果たせず、仕方が無いので強力な乾燥剤と一緒に保管していたが、こんな使い方をする事になるとは思わなかった。



 俺は迫る化け物共の前で、荒い息を吐きながらも笑いながら、口でピンを引き抜く。安全レバーが飛び、ハンマーが信管を叩く。これで俺の命もあと数秒か。


 思えば、あんまり楽しくない人生だった。軍隊も、国民の盾になって死ねたらと思い入ったが、堅苦しい組織の内情に嫌気が差し、もう十分奉公したし、義理は果たしたと思い、合格したら伍長に昇進出来る試験を受けずに辞めた。


 化け物を道連れには出来ないだろうが、原型を留めた状態で全身を喰われる事だけは避けられるだろう。だが、せめて最後母に・・・。


 その思考を最後に、俺は爆散した。













 数年後、異世界から奴らの仲間が化け物共を連れて侵攻して来る事件が起きる。その後になって目撃者とか、残っていた鱗の破片などで俺の死んだ状況と原因が明るみに出て大騒ぎになるのだが、死んで漂う俺には何も出来ない。


 最初はただのテロリスト呼ばわりされ、ただ悲しかった。手榴弾で自爆した訳だから、そう言われても仕方がない事をしたので、仕方が無いとは言え悲しかった。だが、今では民間人を巻き込まないようわざと自分を囮にして公園まで逃げて、己の命を顧みず化け物共を道連れにしようと自爆した英雄だとか言われて、何故か英雄扱いだ。しまいには政府も、俺が軍の工作員だったとか宣伝し出したのにはあきれた。そんな事より国民を守ってくれよ、俺の分まで。


悲しい終わり方ですみません。



元になった夢の内容。全部その日に連続で見た物。


1回目 化け物2匹とゴスロリ幼女に追い回される、回り込まれて喰われる。


2回目 化け物二匹とゴスロリ幼女に追い回されるも、対戦車ロケットで化け物一匹を攻撃。脇腹に命中してひっくり返ったので喜んでいたら、何事も無かったように起き上がる。完全に心が折れて逃げ惑うが、カメレオン型の化け物の舌に捕まり喰われる。


三回目 化け物二匹とゴスロリ幼女がまた出て来る。戦う気など起こらず逃げ惑い、どうやって回り込んで来たかは全く分からないが、待ち伏せしていたゴスロリ幼女と化け物に遭遇、挟み撃ちにされて喰われる。


寝るのを諦める。朝の4時。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ