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雪月姫  作者: 宴帝祭白松兎
第一章 転入篇
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第一章 第七話

本文の表現の訂正と誤字を訂正しました。

4月18日

 「はぁ……やっと終わった」


 大きくため息をついた雪奈せつなが学校を後にしたのは下校時刻の19時を過ぎたころだった。もちろん椿子ちこも一緒だ。


 「だね。疲れたー」


 椿子は両手を高く上げて体を伸ばした。


 なぜ二人がこんな遅い時間に下校しているかというとお察しのとおり、職員室に呼び出しを受けていたからだ。主に雪奈が。


 「なら、なんで残った?」

 「え? なんでって雪奈が心配だからだよ」

 「……」


 子供扱いされてるみたいでイラッとするな。


 雪奈の表情がムスッとした。


 「すごく不機嫌だったから先生を切り捨てるんじゃないかってね」


 そういう心配か。


 「私はそこまでバカじゃない」

 「でも、数学の先生とか雪奈の目つきの鋭さにけっこう怯えてたよ?」

 「この目つきは元々だ」

 「うふふっ。冗談だよ。ほんとに心配してたのは勉強のこと。でも雪奈頭いいから必要ないかもだけど」


 雪奈は勉強の筋がいいようで数学では因数分解をすぐに習得した。だがそのせいでどんどんと先に進むし宿題は出されるしで余計疲れてしまった。


 「勉強なんてできなくていい。そんなもののためにここに来たわけじゃない」


 雪奈の口調に少しだけ熱がこもった。


 「……それって?」


 椿子は聞くべきかどうか悩んでいた様だ。聞いても聞かなくても答えは同じく沈黙だとわかっていても。

 だが。


 「……まだ、話せない」

 「え? あ、うん。わかった」

 「なんで笑ってる?」

 「いや、何でもないよ?」


 まだ知り合って二日だがそれでも椿子は確実に二人の仲の進展を感じていた。


 「なんか不快だ」

 「えー。ひどい」


 少し難しい性格だが悪い人ではない。それが椿子の雪奈に対する印象。だから、もっと雪奈を知ってこれからのことも一緒にゆっくりと解決していく。そう思っていた。そうできればいいと。



 1時間後。

 雪奈は自宅に着いた。

 部屋の明かりをつけて中へと入っていく。玄関には自分の履いていた靴しかない。


 雪奈の自宅は辛うじて家と呼べるものに過ぎない。外見だけ見ればただの木製の倉庫だ。ところどころに小さな穴が開いており冬には冷たい風が絶え間なく入ってくる。電気、水、ガスは通っていて風呂もトイレもついているがその二つを除くと部屋は一つしかない。そんな家。

 部屋の中にはほとんど使われていないキッチンと小さなテーブル、それと布団が一つしかない。


 布団のそばにカバンを置きふとテーブルに目を配る。そこには一枚の書置きがあった。同居人からだ。その手紙を手に取り読み始める。


 「雪奈へ。よう、久しぶり。どうだ、学校は? お前のことだどうせ馴染めてないだろ。けどな、学校なんてそんなもんだ。変に期待したお前が悪い」


 勝手に決めつけるな。


 「まぁ前置きはこの辺でいいか。で本題だが、もう少しで奴の足取りがつかめそうだ。約束通り見つけ次第こっちに戻って来いよ。じゃあな」


 だそうだ。


 「うざ」


 手紙をテーブルに置いて吐き捨てた。


 友達を作るために学校に行ってるわけじゃない。知ってるくせに。


 「はぁ……不快だ」


 制服を脱ぎ捨てていつも通りの服装に着替える。ショートパンツに灰色のパーカー。これが一番落ち着く。


 「咲夜、敵は絶対にとるから」


 ヘッドホンを耳に当てると靴を履いて家を出る。晩御飯のコンビニ弁当を買いに行くのだ。


 外では雪が振り出していた。



   *   1   *



 「隊長! 準備完了しました!」


 いつかの薄暗い部屋の中。若い男がリーダーの男に声をかけた。


 「よし、実行は明日だ」

 「はい!」


 若い男がその場から走り去ると呼び出し音とともにモニターに髭の濃い男の顔が映った。


 「はい、こちら実行班。準備は既に完了しました!」


 リーダーは椅子から飛び上がり、敬語で応答している。相手は上司の様だ。


 「そうか。それは何よりだ。ただ、成功しなければ何の意味もない。それだけは忘れるな」

 「はい!」


 返事を返した途端モニターは黒く染まった。


 「くそ! んなことは知ってんだよ!」


 男は近場にあった椅子を全力で蹴り飛ばした。


 「絶対成功させてやる」 


 薄い雲に透けて見える赤い月が不穏な空気とともに町を照らしていた。



   *   2   *



 翌朝。2年4組。

 夏休みが開けて三日目。朝の教室は未だに宿題が終わっていない生徒であふれかえっている。だが、そんな中に雪奈と椿子の姿もあった。


 雪奈は家だと勉強しずらいようで朝早くから学校にいたようだ。椿子は友達に宿題を見せてほしいと頼まれ、わざわざ早めに登校したらしい。ついでに雪奈の宿題を見たりしている。


 「あ、そこ計算間違ってるよ」


 椿子の指摘で快調に動いていた雪奈のペンが止まった。


 「……確かに」


 妙に悔しい思いに駆られながら雪奈はノートに消しゴムをかけた。


 「なんか意外だなー。昨日あんなこと言ってたからてっきり宿題なんてする気ないのかと思ったのに」

 「確かに勉強にために通っているわけではないが通う以上やるべきことはやる。それだけ」

 「なんか雪奈らしい理由だね。あ、そこ符号逆だよ」

 「……」


 雪奈は眉をひそめながらもおとなしく消しゴムに持ち替えた。


 「にしても真面目だね。雪奈は来週までに提出でしょ」

 「だから今やっている。何がおかしい?」

 「いや、普通の人は期限の前の日とかに焦りながらやるからさ」


 誰とは言わないが教室を見渡す椿子が言いたいのはそういうことだろう。


 「あ、椿子いまバカにしたでしょ?」


 昨日椿子からクリアファイルを借りていた少女が会話に入ってくる。


 「別にあかりに言ってるわけじゃないよ」


 赤い短い髪でカチューシャをつけている彼女は灯というらしい。


 「別にいいもん。椿子より実技の成績はいいし」

 「そ、それを言われたら何も言えないじゃん」

 「実技?」

 「そ、最近の学校じゃ異能の実技も成績に入るんだよ。で椿子はそれが苦手なの」


 椿子の能力では4,5メートル先の人にも声をとどかせることができる。にもかかわらず苦手な部類に入るらしい。


 「灯も大して変わらないでしょ」

 「でも私が勝ってることに変わりはないよ」

 「ぐっ」


 そんな話をしているとHRのチャイムが鳴った。しかし、上田はまだ教室には来ない。


 「ふっ。滑稽だな」

 「あ、羽飛さんが笑った」

 「確かに珍しいけど滑稽って何さ? そんな言い方しなくても」

 「いや、椿子のことじゃない」

 「え? じゃあ誰に——」

 「席に就けお前らー」


 椿子の声を遮った教室のドアが開く音と同時に上田が教室に入ってきた。


 「今日も早く終わらせてやるから早くしろー」

 「先生が早く終わりたいだけでしょ」


 ため口で反論しながらも席に着く生徒たち。

 上田が教卓の前に立って「当たり前だろ」っと返しHRを始めようとする。すると校内放送がかかる。


 「あーあー。聞こえてますか? HR中失礼します。テロリストです。この学校の職員室を占領しました。勝手に学校から出ようとするまたは反撃などをした場合教師を殺すもしくは学校を爆破します」

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