第一章 第六話
本文の訂正と雪奈に大剣を回収させました。気づいていた方すいません。4月18日
椿子があまりにも蒼白な顔色を浮かべているので一応言うがカツアゲされているのは椿子ではない。
校舎裏で大柄な男4人に囲まれている見るからに貧弱な男子高校生。この状況からもわかるようにカツアゲにあっているのは彼だ。
「カツアゲ?」
「知らないの? 要するにいじめだよ。いじめ」
いじめと言われれば納得する。最近マスメディアに取り上げられていたのを見た。
「だから何?」
「だから何って、巻き込まれるよ?」
「はぁ……」
雪奈はため息をつくと椿子を置いて一人、カツアゲ犯のもとへと歩み寄る。
「邪魔」
「あん?」
雪奈の声に振り返った男たちは明らかに機嫌を損ねている。
「ちょ、雪奈!」
椿子は慌てて雪奈を止めに行く。
「邪魔。二度も言わせるな」
「す、すいません。何でもないです。では」
何度も頭を深々と下げた椿子は雪奈を連れて再度曲がり角に隠れる。
「もう、ほんとバカ。何考えてるの?」
「……」
また、バカか。
「私が異能使ってなかったらどうなってたか」
二度目の雪奈の罵倒を椿子がすべてかき消したおかげで不良達には届いていなかったようだ。
「必要ない」
度重なる放課後の呼び出しや遠回りしないと飲み物の一つも買えない今の状況に雪奈の不機嫌さはもう限界に近い。
「必要ないって雪奈今異能使えないんだよ? わかってる? それに相手はこの学校じゃ有名な不良グループだし一人じゃ無理だよ」
どこの誰でも異能が使えるこの時代、いくらサッカーボールを粉砕できる脚力をもっているとしても異能相手ではどうにもできない。そう椿子は言いたいのだ。
「問題ない」
しかし、雪奈は再びカツアゲ犯のもとへと歩き出す。
「あーもう。どうしてわかんないかな」
椿子の忠告を無視する雪奈に止まる様子はない。
「ならせめて能力くらいは聞いて行って」
「……」
「どうなっても知らないよ?」
やっと諦めたか。
そう言いつつも椿子は雪奈の後ろをついていくのであった。
雪奈はカツアゲ犯の後ろに立つと同じセリフを紡ぐ。
「邪魔」
「なんだまたお前か。見てわかんねぇーのか? 取り込み中だ」
男は一瞬だけ雪奈を見た。
「はぁ……うざ」
「は? てめぇ今なんつった?」
「自販の前でやんな」
「ね、ねえ、雪奈。せめてちゃんと会話しよ?」
「てめぇらなめてんじゃねーぞ!」
少なくとも椿子にそのつもりはないだろう。
「いいから早くよけろ。やるなら違うところでやれ」
薄々気づいていたとは思うが雪奈は別にカツアゲされそうな少年を助けたいわけではない。飲み物が買えさえすれば少年などどうでもいいのだ。
「おい、お前ら。こいつらやんぞ」
「悪くないな」
「てか普通にいいじゃん! 久しぶりの女子!」
「けっこう上物だぜ!」
雪奈の容姿に釣られすぐに周りを囲んだ不良達。それを見ていた少年はここぞとばかりに奇声をあげながら走り去っていった。
「椿子、離れないで」
「う、うん」
「そんじゃま、はじめっか。木刀」
なぜこんな髪型のやつが入学を許されたかは知らないが緑色のモヒカン男が指を鳴らすと不良4人全員の手元に木刀が現れる。
「木刀?」
緑モヒカンはおそらく創造系の異能が使える様だ。しかし椿子が疑問に思ったのはそこではない。出したのが木刀ということだ。なぜなら雪奈はいかにもな大剣を背負っている。木刀でどうにかできるわけがないのは明白だ。
「お手並み拝見ってこと?」
「そういうこった。さ、かかって来いよ。来ないならこっちから行くぜ?」
「はぁ」
ため息をついた雪奈は目にも止まらぬ速さで緑モヒカンの手に蹴りを入れる。
握っていた木刀ですら木っ端みじんになるくらいだ。おそらく手の骨も無事ではないだろう。ただ、変な方向に曲がってはいるがちぎれなかったのは雪奈の配慮だろう。
男は苦痛に悶えながら地べたをのたれまわっている。そのモヒカンに歩み寄る茶ロンゲの仲間。彼がモヒカンに手をかざすと次の瞬間にはモヒカンの手が元通りになっていた。
「めんどくさ……」
雪奈の予想ではこれで戦意を喪失して逃げ帰ってくれるはずだった。しかし、男たちは余計気分が害されたようだ。
「もう手加減なんかしてやんね! 拳銃!」
木刀を投げ捨てると今度は拳銃を手にした。
「謝ってももうおせーぞ?」
「なぜ謝罪しないといけない?」
「くそっ。なめやがって!」
「おい、待て。アレをやる。配置に着け」
ロン毛が雪奈に銃口を向ける。しかし、それをリーダーの男が止める。
「い、いいのか? 確実に死ぬぞ?」
「大丈夫だ。俺らにはお前がいる。あいつが死ぬ前に蘇生させてやれば問題ないだろう。何回か死ぬ思いをさせてやる」
「いいね。リーダー。それ最高だよ」
「俺も異論はない」
緑モヒカンと今まで特に目立っていなかった黒髪をオールバックにしている4人目の男がようやく口を開けた。
「来ないのか? こっちから行くぞ?」
雪奈の嫌味を含んだその言葉は先ほどのリーダーのセリフを真似している様だ。
「調子に乗っていられるのも今の内だ!」
その言葉を放ったモヒカンの正面の空間から無数の刃物が姿を現す。その空間は次第に広がり、ついには雪奈と椿子の16方位すべてを塞いだ。
「やれ」
モヒカンが指を鳴らすと無数の刃物が雪奈と椿子めがけて飛んでくる。その瞬間、雪奈は椿子の手を取り真上に放り投げると無数の刃物を紙一重でかわしていく。飛んだり跳ねたり体をよじったり、まるで踊っている様だ。
「チッ。すばしっこい野郎だな」
「問題ない」
オールバックが雪奈に銃口を向ける。狙いを研ぎ澄まし2回引き金を引いた。
一発目は銃弾はいくつかの刃物の間をすり抜け雪奈に向け飛んで来る。もう一発は飛んでいる刃物を打ち上げ、頭上数メートル上を飛んでいる椿子に向かって飛んでいくよう刃物の方向を変えさせた。
それに気づいた雪奈は刃物の群れをかわしながら大剣を抜刀し真上に投げる。その大剣が椿子に向かって飛んでいた刃物を真っ二つにし椿子の数センチ横を通りすぎた。椿子の表情は言うまでもなく蒼白だ。
一方、雪奈に飛んできた銃弾は雪奈の左足首をとらえて飛んできていた。椿子に目を配らなければ確実にかわせていたがもうそれはできない。
オールバックの男は着弾を確信した。
しかし、それは雪奈を通り抜け地面に着弾した。
「何⁉」
それと同時にモヒカンのマナ切れが起こり刃物の流れが止まった。しかし、それを予期していた雪奈は最後に飛んで来た四本を手に取り投げ返す。
刃物はそれぞれ男たちの首の真横を飛んで行った。男たちは腰を抜かしたようにしりもちをついた。
椿子と大剣はちょうどそんなときに降ってきて、雪奈はそこまでが計算のように椿子を受け止め、下ろした。大剣は雪奈のちょうど真横に突きささった。
「最初に出した刃物の数が346本。拳銃を合わせても350本がお前の異能の限界だ。それは地面にささっては消えていく刃物が証明している」
図星をつかれたモヒカンは返す言葉もなく動揺していた。
「それとリーダーとやら。お前の異能は物質強化だ。飛んできた刃物の数本が強化されていたな。だが、数秒後にはマナ切れを起こしていた。強化する刃物を選ぶべきだったな。まぁ結果は変わらんが」
リーダーはただただ怯えて聞こえているのか怪しい。
「最後にお前だ。残念だが私に銃弾は当たらない。だが一番いい腕をしている」
オールバックはすこし頬を染めて喜んでいた。雪奈は口にしなかったが彼はおそらく目に関する異能の持ち主だ。
大剣を背中に背負うとそんな4人の横を進んで行く雪奈。自販でお茶を買った二人は不良達に視線を配ることなく帰って行った。
「せ、雪奈。次からはもう少しお手柔らかにお願い」
髪がぼさぼさで服装も崩れてしまった椿子がへとへとになりながら言った。
「無理だ」
「そ、そんなぁ」
見た目を整えながら悲しむ椿子をよそに雪奈はペットボトルのふたを開けて少しだけ飲んだ。
「あ、そういえば、雪奈。なんでモヒカンの人のマナが切れる時間がわかったの?」
「……」
めんどくさい。
誰がどう見ても予定通りな結果に疑問を持たないほうがおかしいだろう。しかし雪奈は黙ったまま口を開こうとはしない。
「答えてよ」
「感だ」
「いや、無理あるでしょ」
「はぁ……不快だ」
「あ、またそうやってー」
雪奈の態度が不満な椿子は何やらがやがやと喋っている。しかし雪奈はすべてを聞き流すどころではなく聞いてすらいない。
面倒くさいとは言いつつも椿子の隣を歩く雪奈と聞いてもらえないのを承知の上話を続ける椿子。
どこか楽しそうなそんな二人がこの後すぐに鳴るチャイムで昼食をとっていないことに気が付くのは言うまでもない。