第一章 最終話
本文の表現を訂正しました。
4月19日
「き、斬られていない」
眼鏡男が状況を呑み込んだ時ちょうど銃声も止んだ。どうやら弾切れの様だ。
職員室の中は倒れているものもいれば無傷のものもいる。
そんな中、教師たちは何故生きているのかわからず動揺していた。
「まだやるか?」
眼鏡男はただ困惑した。
勝ち目がないことは明らかだ。だが立場上引き下がれない思いがあったのだろう。
「なぜだ! なぜ殺さない!」
「お前には関係ない」
「ふざけるな! 私達は死を覚悟でここにいるんだ! 敵に同情されるくらいなら死ぬほうがましだ」
眼鏡男は片足を引きずりながらも立ち上がる。
「お前らは勘違いをしている。私に殺戮の趣味はない。ただ一人勝ちするだけだ」
雪奈は誰も死なせずにこの場を納めるつもりなのだ。
誰が見ても納得する完全な勝利があるとするならばそれに対する雪奈の回答がそれだ。
「意味が解りませんよ」
雪奈の言葉の真剣さを見抜くと眼鏡男は冷静になり、口調がもとにもどった。
「だろうな。ただ、誰も死なせない。それだけだ」
そうは言うものの既に職員室にも廊下にも校庭にも倒れているものは数え切れないほどいる。誰もの中に彼らは入っていないのだろうか。
「それじゃあ納得できない。少なくとも私は」
男は何かを召喚しようとしているようだ。
金属を削るような音とともに空間が捻じれていく。その歪が一点に凝縮された瞬間、歪から何かが出て来た。
小さく白いそれはどの生物にも例えられない外見だ。だが、もので例えるならば手ごろなサイズのボールだろうか。
「一人勝ちなんかさせてたまるものですか」
男が不敵な笑みを浮かべたその時。
「動くな!」
職員室の入り口から声が聞こえる。そこには数十人の兵士が銃を構えて立っていた。
「ちょうどいい。じゃあ勝者を決めましょうか」
男はそういうと先ほど召喚したボールを床に叩きつけた。
そのボールは悲鳴にも似た鳴き声を響かせると白く輝きだす。
「また、地獄で会いましょう」
* 1 *
誰もいなくなった校庭に一人残る椿子。自分が中に入ろうが雪奈の助けにはならない。むしろお荷物になるだけ。故にそこに立っているだけなのだ。だがそれがわかっているだけまだましだろう。
そんな椿子は黙ったまま雪奈の帰りを待ち、校舎を見つめていた。
すると突然、校舎から白い光が漏れ出し校舎を包み込んだ。
椿子が覚えているのはここまでだ。
* 2 *
職員室から出た白い光はだんだんと熱を帯び、数秒後にはすさまじい爆発音を奏でた。その爆発は校舎に残っていた爆弾も巻き込み、さらに爆発が起きる。
自動車でさえ飛ばされるほどの衝撃波からも想像できるだろうが、もし爆発に巻き込まれようものならば誰一人として跡形も残らないだろう。もちろん、校庭にいた椿子だろうと例外が及ぶ範囲ではない。
爆風が過ぎ去るとまず校庭に兵士側の援軍を乗せた数台の車が駆け付けて来た。
車を降りた兵士たちの目に映ったのは辛うじて面影が伺えるくらいには残っている校舎だ。ただ先ほどまでそこにいたはずの兵士やテロリスト、椿子や雪奈の姿は見当たらない。
援軍の兵士たちは黙ったまま校舎に敬礼した。そこで勇敢に戦った彼らの仲間に。
しかし。
「た、助けてくれーーー」
そんな彼らの耳に届いた微かな叫び声。
あたりを見渡すが人の姿どころか気配すらない。しかしその叫び声は大きくなる一方だ。
「落ちるーーー」
叫び声は一人だけではない。数人、いや、数百人は叫んでいる。
「う、上だ!」
援軍の兵士の一人が指をさしながら声をあげた。
その指の先には校庭の真上数メートルから落下途中の集団。
その中には椿子や上田、兵士やテロリストなどが混ざって敵味方の区別がない。
援軍の兵士たちは助けようとは思っているのだろうがあまりの展開に頭が働かない。
何もできずに自由落下し続ける集団。死を覚悟した兵士たちは目をつむったり祈りや懺悔の言葉を口ずさんでいる。しかし、祈りは届くことなく真っ逆さまに落下を続け、地面が迫ってくる。
だが、次の瞬間。ふと気がつけば地面に倒れこんでいた。
それは砂埃が立つこともなければ血の一滴どころかかすり傷すらつかないほど自然に。
「ど、どうなってる?」
眼鏡男は自分の無事を確認するとゆっくりと起き上がった。その場にいる誰もが状況を呑み込めないでいた。落下の瞬間を見ていた援軍兵でさえ。
ただ、眼鏡男と雪奈の言葉を聞いた面々はすぐにわかった。誰が何をしたかではない。誰が勝者なのかを。
眼鏡男はいち早く状況を呑み込み魔女がいないことを確認すると悲嘆の声もあげずに立ち上がれない兵士を見て回った。しかし、誰一人と息の絶えたものはいなかった。どこに倒れている誰であれ致命傷が避けられた位置にしか傷跡がなく、遅れて来た援軍によって全員の無事はさらに色の濃いものとなっていた。
「魔女の一人勝ちか……」
膝から崩れ落ちる眼鏡男は敗者らしくない笑みを浮かべていた。
* 3 *
「おい、桜坂!」
椿子がゆっくりと目を開けると真っ先に上田が映った。
「上田先生」
ゆっくりと体を起こす椿子。
「雪奈はどこだ?」
「え? いないんですか⁉」
慌てて立ち上がると周りを見渡した。しかし、喜びの声をあげる兵士やテロリスト以外の姿はなかった。
「雪奈……」
微かに響くとすぐに掻き消えた椿子の声に返答の言葉はない。
ただ、空から降り出した雪が椿子を妙に悲しい気持ちにさせた。
* 3 *
翌日。
もちろん、今日は休校だ。校舎がないからではない。精神的な問題でだ。無論校舎は既に元通りだ。
あれからいろんな場所を走り回った椿子と上田だが雪奈は見つけられなかった。
椿子はベットから起き上がると大きなあくびをした。涙を拭うと立ち上がり、リビングへと向かう。
リビングの扉を開けるとキッチンにいる愛香から声がかかる。
おはようと返した椿子はソファーに座りテレビをつける。
映ったのは朝のニュース番組。
「変わりまして、昨日起きたテロ事件のニュースです」
映像が焼け飛んだ校舎に切り替わった。
「昨日午前8時半過ぎ、私立の高校に雪月花の魔女率いるテロリストが侵入しました。テロリストは数時間立てこもったのち、三定率いる防衛軍により一人の死傷も出さず身柄を拘束されました。しかし、現在もなおテロリズムの首謀者である雪月花の魔女の身柄は捉えられておらず現在も捜索が続いています」
「な、なに? このニュース?」
「椿子、雪奈ちゃんはそういう世界に住んでるんだよ」
「何それ? おかしいよ。納得できるわけないじゃん」
椿子は不満を口ずさみつつテレビに視線を向け続けた。
「あ、ただいま新たな情報が入ってきました。テロリストのリーダーであるとされている雪月花の魔女ですが、ただいま正式に指名手配されました。三定からの情報によりますと雪月花の魔女こと、本名羽飛雪奈18歳はおそらく未だに高校周辺に身柄を隠しているとされています。万が一見かけたらまずは避難を優先してください。通報はその後に安全な場所でとのことです。一人の犠牲者も出さずにことが済んだのはうれしいですがテロ集団のリーダーが捕まっていないというのは怖いですね」
画面には雪奈の似顔絵が映し出されている。写真は無かったのだろうが十分に特徴を捉えたそれは雪奈本人を見ればすぐに気がつくことができる程度のものだ。
「そうですね。昨日まではただの放火魔だったのが実はテロリストのリーダーったとは正直驚いてます。早く捕まってほしいですね」
ニュースキャスターに合図地を返す番組出演者。
何も知らないままに語る彼らを見て椿子は呆れて声も出なかった。
「はい。そうですね。では次のニュースです」
椿子はテレビを消した。
「椿子ー。これ以上は関わっちゃだめだからね?」
「おねえゃんまでそんなこと言うの⁉ 雪奈はそんな人じゃないよ!」
「違うよ。けどーもう椿子の手には余るくらい大きな問題になちゃったってことね」
「……私、何もできないんだね」
手を強く握りしめうつむく椿子。
「なにかできる人のほうが少ないと思うよー」
愛香はそういうが椿子が言いたいのそういうことではないのだろう。無言で立ち上がりリビングを後にする。
部屋に戻るとドアを閉め寄りかかる。
「雪奈、元気かな?」
誰にも聞こえないような小さな声で呟くと耐え切れず頬を濡らした。
あまり綺麗な文章を綴れていない作品にも拘わらずここまでお付き合いいただきありがとうございます。これからすぐに第二章の成作と行きたいところですが先ほども述べた通り私の作品はお世辞にも読みやすい文章ではなかったと思っています。ですからしばらくは第一章の編集をしていこうと思っています。変更は随時前書きに表記するつもりですが設定を大きく変える変更はしない予定ですのでそれだけ言っておきます。最後になりましたが評価やコメントなども待っております。また私は単純なのでブックマークや総合評価ポイントをいただけるとすごく頑張れます。気が向いたらください。(笑。読んでいただきありがとうございました。