序章
私は大丈夫、
ーーー大丈夫、
私は「泉ちゃん」
1人でも生きていける「泉ちゃん」
男なんて必要ない「泉ちゃん」
本当に?
夕暮れ時に部屋の灯りを一切消して、机の正面に広がる大きな出窓から外を見ると見えるのは当たり前のように其処に広がる一面の空。視界の端に見慣れた山と家の前の枯れた雑木林、間に学生時代を過ごしている街並みが映る。縦横に走るライトを点灯している車、灯りが点いた建物は冷たい空気に揺れて私の瞳の中の世界もほんの微かに揺れる。揺れる。ゆらゆら。
この世界は水の中にあるんじゃないか、私は時々思う。
無神教ではあるが、もし、神のような存在があったとしてーーーもし、私たちを水槽のような水の張った大きな箱に「地球」という置物と一緒に入れていたとしたらーーー世界も揺れる、ゆらゆら。日常生活で感じる苦しさは酸素が足りないからなのか。幾ら空気を吸っても苦しさは変わらない。私が吸い込んでいるのは水なのだ。水面から顔を出して息が出来ればなんと楽なことだろう。どれだけ手足を動かしても身体が上がって行かない。何が足に絡み付いているとか、手に絡みついているとかではない。ただ身体が重いのだ。それだけのことなのだ。
この深い水中に産み落とされて18年。水の中の微量な酸素を求めて今日も息をする。呼吸をする。生きていく。